一宿一飯の恩義
ここにいる人達は、様々な場所から集まり打倒魔王を掲げているとのこと。だが二週間前くらいから食料が想定より減っていることに気が付き、今はその対処に追われているらしい。目標や問題点、その他雑多な会話を楽しんだ後解散となり、目覚めたテントにオルフェウスと共に戻ってきた。おそらく外は夜なのだろう、心地よい冷たい風がテント内に入ってきている。
原因はあちらにあるものの豪華な食事を振舞ってもらったり寝床を提供してもらった以上、この問題は無視できない。できうる限りのことはしてあげたい。食料はまだ困っていないらしいし、このテントも普段使われていないものらしいが、野宿より何十倍もマシだ。
「んー、やっぱりコッソリ盗むとしたら夜でしょうか?」
オルフェウスも盗賊のとこを考えていたのだろう。
「確かに、バレる可能性が低くなるのは夜だよね。とはいえどうやってここに侵入してきてるんだろう」
現実世界基準で普通に考えたら、夜みんなが寝ている時にこっそり侵入して音を立てずに盗んで、出ていく。単純だが基本はこんなところだろう。だがここは異世界だ。魔法でも異能力でもある可能性はいくらでもある。透明魔法、透過魔法、縮小魔法。パッと思いつくだけでも可能性はたくさんあるだから、対処は難しそうではある。
「例えば相手が魔法を使っていたとして、対抗策は何かあるの?」
「ここの人達の中に魔法を使える人がいるらしくて、食料が取られたことに気付いたらすぐに痕跡を探しているらしいですよ?」
なるほど、魔法には魔法で対抗しようとしている訳か。しかしそれでも犯人が見つからないということはーー
「ただ、一切の痕跡が見つかってないらしいです。その方曰く、余程強力な隠蔽魔法が施されてるのではないか、ということらしいです」
「犯人が一枚上手ってことか」
そんなに強いのであればコソコソと盗むなんてことせずにその才能を別に使った方がいいのではないか。ひとつでも才能があるんだ、現実の僕からしたら羨ましい限りだ。
「そうですねぇ、少なくともここにいる魔法使いの方より魔力は強いみたいですね」
「打倒魔王を掲げている人達より魔力が強いなんて、よっぽど強そうだね」
そう言う僕の方を笑顔で見つめてくる。
「しかし! 今ここには私も勇者さんもいます! いくらでも見つけてやりますよ! 何人でもかかって来いです!!」
魔力によっぽど自信があるのか、これ以上ないほどに息巻いている。ここは能力に頼らずオルフェウスに頼ってみよう。何より楽しそうだし。
「あの時勇者さんに魔法を使えるようにしてもらってから、色々な種類の魔法が使えるようになったんですよ!」
確かにその通りだ。剣を無限に出現させて脅す魔法や脳に爆弾を仕込む魔法なんて使えるようにした覚えはない。あれは完全にオルフェウス自体の才能の賜物だ。本当の意味で恐ろしい才能でしかない。
「期待してるね?」
何の気なしにそう言うと、隣のベッドに座っていたオルフェウスが立ち上がり、勢いよくこちらに向かってきた。勢いにも驚いたが、顔が近すぎる。あまりの顔の近さに目を背けて変な汗をかいてしまうくらいにだ。
「何言ってるんですか! 魔王討伐も大事ですが、目の前の人々も守ってこそ勇者ですよ!?」
僕自身は何もしないととられてしまったらしく、多少怒らせてしまったようだ。頼ろうと思ってはいたが流石に何もしない訳にはいかない。一宿一飯の恩義とも言うし。
「わ、分かってるよ、一緒に頑張ろう?」
そうは言ったものの、手がかりが何も無い状況だ。オルフェウスは僕が倒れている間に詳しく話を聞いているらしいが、もっと情報が欲しい。
本当に本当にですか? 一緒に頑張ってくれるんですよね? と言いつつグイグイと迫ってくるオルフェウスを引き剥がしながら、真剣に今後の行動を考えてみる。
「とりあえず魔法使いに話を訊いたり、盗まれた食料が置いてあった場所を見てみようか」
そう言いつつ立ち上がる。
「おおっ、いい案ですね! 行きましょう!」
即座に僕から離れて一目散にテントの出口へと向かって行った。
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