休憩の終わり
真上にあった太陽がいつの間にか傾き始めている。そろそろ歩き始めなければこの森で一夜を明かすことになってしまいそうだ。あれからずっとオルフェウスはうたた寝を続けている。
「そろそろいくよ」
そう言いながら、オルフェウスの体をゆすった。
「んー、あと5杯だけ……」
……5杯? 5分ではなく……?
むにゃむにゃ、と口を動かしながらも目を開ける様子はない。
「あー、もう食べれないです」
と思っていたらぱっちりと目を開いた。去年の夏にテレビで見たホラー並みに怖いものを見た気がする。というかもう夢の中で何かを5杯食べ切ったのか。ご飯だとしたら相当速いな。
「ラーメンをたくさん食べる夢をみてました。なので今私は幸せです!」
口元に垂れた少しのよだれを袖で拭きながら、寝起きとは思えない元気さでそう言い放った。
ラーメンあるのか、この世界。というかご飯ではなくラーメン5杯をあの速度で食べたのか。夢とはいえ。すごいな、この世界のお姫様。
「ちなみにそろそろ行こうかと思うんだけど、歩けそう?」
色々と言いたいことはあったもののとりあえずは話を進める方向にもっていく。
「……はっ! 今やっと脳まで起きました! 現実でも夢でもたくさん食べたのでいくらでも歩けますよ、行きましょう!」
広げていたお弁当を片付けながら威勢よくそう言った。先ほどの大声寝言が気にはなるが、休憩前の疲労は全く見えない。
僕も片付けに参加し、出発の準備を始めた。
「そういえば、この後ってどこ向かってるんですか?」
「んー、大体の方向は分かるんだけど実際にどこに向かっているのかはちょっと」
事実、なんとなくで進んでいるだけで何が起こるかまでは覚えていない。きっと魔王の手下とかと出会って仲間が増えたりするはずではあるのだが。
「とりあえずついてきてくれれば大丈夫、そこは信じて」
「勇者さんがそう言うのなら……はい、頑張りましょー!」
無邪気に僕を信じてくれるオルフェウスを裏切るわけにはいかない。いざとなったら能力を使えば物語を進めることができるし、今はとりあえず自分を信じて進んでみよう。
一通り片付けが終わり、何かがあるであろう方向へと歩を進めていく。休憩をはさんだお陰で自分もオルフェウスも体力がもどっている。草木をかき分けながら意気揚々と目的も分からず進んでいる。
そろそろ何かあってもいい頃合いだとは思うが。半日くらいは歩き続けている気がする。
と、その時、
「勇者さん! 何か見つけました!」
先行して歩いていたオルフェウスが何かを見つけたのか、こちらを振り返り大声で叫んでいる。どうやら指さしている方向に何かを見つけたようだ。
駆け足でオルフェウスのもとへと向かうと、それが何かは一目で分かった。植物にからまれた古い木製の箱――宝箱だ。
「何が入っているんですかね!」
ウキウキしているのが手に取るように分かる。感情が表に出やすくて実に分かりやすい。
今まで何も進展がなかったので少し不安だったが、これで確実に物語が進んでいるのが分かった。問題は何が中に入っているかだが……ゲームだったらさっきの村で買った装備が出る可能性が非常に高いが、これはゲームではなく本だ。それはないだろう。
「んー、できれば魔王に関係のあるものが入っていると嬉しいんだけどね」
「えー、そんなに都合のいいことありますかねー?」
確かに、そんな都合のいいことはそうそうないだろう。しかしこれは物語をなぞらえた冒険だ。これに何もないと考えるほうが難しい。
「とはいえ宝箱ですからね、何か入っている可能性は大いにあると思います!」
先ほどの意見とは裏腹に、何かいいものが入っていることを期待しているようだ。
「さあ、開けちゃってください!」
このとき僕は、もっと深く考えるべきだった。なぜダンジョンでもないこんな場所に宝箱があるのか。少しでも疑問を持つべきだった。
カチッ――
「「え?」」
大きな期待を胸に宝箱を開けた瞬間、何かが作動した音がした。
中には何もなく、謎の機械音。
どう考えても楽観的な発想には至らなかった。嫌な予感しかしない。
「オルフェウスッ」
何が来るか分からないものの、オルフェウスを守らなければならない。そう思い駆け寄った瞬間、
シュウウウゥゥゥゥッ――
どこからともなく煙が辺りを包んでいく。
まずい。まずいまずい。完全に不意をつかれた結果、謎の煙を深く吸ってしまった。隣を見るとオルフェウスが苦しそうにしている。同様に煙を吸ってしまったらしい。
どうにかしてこの状況を打破しなければならない。
「――っ」
声が出ない。いや、声だけではなく体の感覚が徐々に奪われていく。僕の能力は声を発さなければ発動しない。体も動かせなければ声も出せない。この世界では無敵だと思って完全におごっていた。異常状態無効化を付与するか、オルフェウスに上級回復魔法でも覚えてもらっていればよかった。
薄れゆく意識の中で、僕はただ後悔することしかできなかった。
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