微睡む間もなく
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アリシアの攻撃の意志が薄れた事が分かると、男もゆっくりと押さえ付けていた手を放す。
そして立ち上がると、アリシアに向かって右手を差し出した。
警戒心が解けずに右手を黙って見ていた彼女だが、観念したように差し出された手を掴む。グイッと引き上げられるが、忘れていた足の痛みがぶり返し、堪らず手を離して膝を突く。
しゃがんだまま目の前の男を見上げ、先程の戦闘、発された言葉の意味、なんて声を掛ければいいのだろうか、などと、様々な事が頭の中をよぎるが、極短時間ながらも死力を尽くした後ではもう考えることが煩わしい。
溜め息を突きつつ一人ごちる。
「これで人じゃなかったら、昼間の竜より悪夢だぜ……」
距離を取っていた為に、状況が理解できず銃を構えたまま困惑しているノラに、矛を収めるよに手で制しながら声を掛ける。
「敵意はないらしい。アタシの早とちりだった」
その言葉を聞いて、ノラも銃を降ろし小走りで二人に駆け寄ってきた。
ノラが横で屈み肩を貸してくれる。抱えられて再度立ち上がると、剣を鞘に収めつつ男を見つめた。
「まずは謝らせてくれ。憑魔だと勘違いして仕掛けた。申し訳ない」
男はしばし黙ったままだったが、被っていたフードを外して答えた。
「謝罪は…受け取った……。そっちの……怪我…平気か?」
辿々しい喋りだが、警戒心を持たせぬよう、気遣うように話す。
「すまない……久しく…人と…話していない。声が…うまく……でない…」
それだけ言ってまた少し黙ると、集落へと向かい出した。
「こっちだ…」
斧を拾い上げると、付いてこいと言う様にゆっくりと歩いていく。
ノラはアリシアを半分背負うような形で介助しながら男に付いていった。
集落に戻ってくると、男は行き掛けに見た一番大きな天幕の入り口を開き、中へと即した。
後を付いてそっと踏み入れると、真っ暗闇の中、二つ赤い点が見える。何かの香だろう。花とハーブを混ぜたような香りがうっすらと漂う。
赤い点が一つ、線を引いて動き、止まった先で蝋燭のオレンジの灯りがポッと宿った。
もう一つ蝋燭に灯りをともし、燭台をノラに差し出した。
「奥に…寝床がある…。夜が…明けるまで…休むといい…」
それだけ言い残し、男はまた外に出ていった。
即されるがまま足を進めると、そこにはムートンらしき毛皮が敷いあり、下には藁が敷き詰めてあった。
聞きたいこと、言いたいことは山程あるが、香の仄かな匂いと柔らかく揺らめく蝋燭の灯は張り詰めていた緊張の糸を緩め、身体から力が一気に抜け落ちる。
柔らかそうな寝床に倒れ込みたく気持ちを抑え、まずはアリシアをそっと寝かせる。
「大丈夫ですか?」
「すまねえ……これ以上はもう…無理だ…」
意識はもう限界なのだろう。喋ってはいるが目は既に閉じていて、痛みから若干息を詰める事があったが、すぐに規則的な寝息へと変わっていく。
ノラはほっと溜め息をつき、刺激しないようにアリシアのスカートを膝ほどまで捲ると慎重に足鎧を外していく。
鎧を外し終えて素足を見れば、右足首は赤子の足のように腫れ上がって熱を帯びていた。
リュックの中から消炎の軟膏を取り出し、丁寧に患部に塗り終えると、自身はブーツのまま身体を投げ出す。
そして、アリシアの寝顔をチラリと見て、良かった…と呟き、目を閉じた。
ノラも程なくして深い眠りに落ちていった。
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