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邂逅

閲覧ありがとうございます。

お暇ならぜひ読んでいってください。

「もう一度だけ聞く。オマエは人か?」


フードの奥に見える目は見開いたままアリシアを見ているが、問いには答えない。

口を開く変わりとでも言うように、ゆっくりとその巨躯を倒木から持ち上げ、斧の柄頭に架けていた手を柄に持ち替えて、刃を地面から浮かせた。


そして男が下段に斧を構えた状態で、一歩前に踏み出しながらやっと声を出す。


「オぉ……ウゥ……ェ……アァッ………ッ!!」


発されたのは声と言うよりは得体の知れない獣の低い唸り声だった。


人の形を模した憑魔は少なくない。見た目が近い為に判断し難い場面は多く訪れるが、決定的な違いがある。

理解が出来ないのか、必要ないからなのかは不明だが、憑魔は会話ができない。

獣のように鳴いたり、オウムの様に声真似をすることはあっても言葉のやり取りは出来ないのだ。

アリシアは、その事から目の前の男が敵であると瞬時に判断し、考えるより早く身体は動き出す。


上体を低く屈め、地面スレスレを滑空するように飛び、男に飛び込む。

ドンッ!とくるぶしまで埋まるほど強烈に左足を踏み込ませ、男の前で急停止する。そして溜めていた腰を解放し、両手で握ったショートソードを背負い投げの如く、男の首筋に袈裟懸けに叩き付けた。


隼の降下を思わせるスピードの強襲に対して、男はその体躯からは想像出来ない速さで反応する。

上体を半身にし、ローブで隠れた左肩でショートソードを受けながら、斜め下からかち上げるように斧を振るって叩き付けられた剣を打ち返す。


ギィンッ!と、ハンマーが鉄を打つような音が響き、両者は鍔迫り合いの格好になるが、すぐに分が悪いと判断したアリシアは、振り上げられる斧の勢いに乗って後方に跳び、再度距離を取る。


ィィン……と初撃の余韻が残る中、どこかにいるであろうノラに聞こえるように叫ぶ。


「憑魔だ!それも相当強い!」


(一発目で決めるつもりで行ったんだがな……ああもあっさり受けられると自信なくすぜ……)


剣の方はまだだが、身体は先ほどセットしたカートリッジを燃料に、鎧経由でかなり強い身体強化(ブースト)が掛かっている。

余程でなければ憑魔や魔獣のような魔物の類が反応するのは難しい。


(必要以上に警戒させまいと、剣を起動しなかったのが仇になったな…)


仕切り直しの形になり、次の手を考えつつジリジリと摺り足で間合いを詰める。

対して男は、ウゥ…と唸りながら寄らば叩き折ると言わんばかりにグルリと斧を回し、袈裟懸けに振り下ろす。


ビュオッ!と片手持ちの大斧とは思いたくない速度で空を切り、下段構えでピタリと止まった。


(反応の速さに加えて、あの大斧を木刀よろしく振り回す怪力…こいつはかなりヤベえぞ……)


バックラーを体正面に置いて半身を隠し、ショートソードを引き気味に男に向けて突き入れる様に水平に構えると、時折ゆらゆらと剣先を振りながら攻め込む隙を探す。


(ブーストが切れたら終いだ。仕掛けるか…)


覚悟を固め、再度男に飛び込む。

初手の様な速度は出ていないが、タイミングを読ませない足捌きで一気に詰め寄る。

剣を振るう瞬間、柄にあるトリガーを握り込むと、刃が淡く光って、鈍い唸りが響き始めた。

唸りの正体は剣身から発する超振動の音だ。

切断もあの大斧の隙間を突くのも難しいと判断した彼女は、一番手っ取り早い破砕の手段を選んだ。


トンッと軽く飛び上がり、真上段から相手の頭蓋めがけて一気に振り下ろす。

これも斧で防がれたが、今度は弾かれず斧の刃に食い込んだ。

そして剣はそこで止まらず斧の刃を噛み砕くようにガリガリと入り込んでいく。


「このまま斧ごとぶった切ってやらぁ!」


吠えた刹那、斧の刃が付け根からガラスの様に一気に砕け散る。

刃を砕き割り、剣を届かせるつもりであったが、まさか刃の根から全て砕け散るとは思ってなく、体重を乗せて打ち込んだせいで前のめりにバランスを崩す。

急ぎ腕と身体を退こうとするが、勢いを殺せない。


キラキラと砕け散った破片が舞う中、男はその隙を見逃さずに、斧から手を放すと同時、アリシアの剣を持つ腕を掴み取り、そのまま振り回す様に地に叩き付けた。


背中から打ち付けられ、カハッと肺の空気が全て吐き出され呼吸が止まる。剣を持つ腕は相手の手によってそのまま地面に縫い付けられた。


身動きが取れなくなった彼女の頭越しから、ぬっと男の顔が表れる。

男が顔を寄せようとした時、前方の熊の石像の影からノラが横っ飛びに飛び出した。

刹那、ドゥッ!と鼓膜の奥にまで届く銃声が響く。


ノラの飛び出しに気付き顔を上げた男は、押さえ付けている右腕はそのまま、ノラが向けている銃口に対して、金属で覆った左手を掲げる。

銃弾は差し出した拳に着弾し、甲高い音を立て明後日の方向へ跳ねた。

鎧の指が数本弾け、宙を舞う。


ノラの援護で、対面していたアリシアから一瞬気が反れた。

剣を持った手は押さえつけられたままだが、それでもまだだ、こっちを見ろ。と、戦闘の継続を知らせるように勢い良く半身を引き起こし、顔を上げていた男の首元に喰らいついた。

皮膚を破り、肉に歯が食い込む感触と、生暖かい錆びた鉄の味が口の中に入ってくる。


フゥー……フゥー……と噛み付いた口の隙間から呼吸音が漏れる。

このまま喰いちぎろうと顎の力を更に込めると、男はアリシアを首からぶら下げたまま、ア…ウゥ……と小さく唸り、続けて口を動かした。


「…た、たかう……いし…は…ない……」


その言葉に、驚きで心臓が跳ねる。


「けん…を……おさめて…くれ…」


男は間違いなく喋った。

まだ混乱しているが追撃が無さそうなことだけは理解し、ゆっくりと口を開いて、突き立てた牙を首から離す。

そして視線を外さないまま、ブッと口の中に溜まった血を吐き捨て、無造作に口元を拭った。


読んで頂きありがとうございました。

投稿時間がまちまちで申し訳ないです。

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