獣が眠る地
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「どこも真っ暗ですね」
「夜だから…って訳じゃなさそうだな。人の気配が全くと言っていい程ねえ」
集落に入った二人は、違和感にすぐに気付いた。
住居らしき建物こそあれど人の気配がないのだ。
その建物もポツポツと数えられる程しかなく、原型を留めていない物も目立つ。
「大森林のど真ん中で見張りも夜番も立てずに、外との遮断の類いは柵だけ。どうみても放棄集落です。ありがとうございました、ってか」
アリシアが諦めたかの様に呟いた。
それを聞き流しつつ、ノラはあばら屋のような小屋の壁をペタペタと触りながら考える。
(放棄集落の可能性は高い……でもそれだと地図で見た魔力影の説明が付かない。はっきりとは見えないけど、この住居?は使われなくなってから随分経っているように見えます。放棄してから半年程度も過ぎれば魔力影はとっくに消えているはず……)
頭の中でつじつまを合わせ終わったノラが口を開く。
「地図を見たとき、私は間違いなくここに魔力影も見ました。魔力の残滓があるのなら人はいるはずです。取り敢えずここには屋根も壁もありますし、安全が確保できたら明朝もう少し調査してみましょう」
アリシアがそれに同意する。
「そうだな。今あれやこれやと動くのは賢い判断じゃねえ。柵の中を回って何もない事がわかったら、少し腰を落ち着けよう」
二人は集落内の探索を再開する。
落ち着いてよくよく見てみると、建物は簡素なものばかりで、集落というよりは流民や避難民の仮住居のようにも見える
木や土壁で作ってあるものはまだ上等な方で、布張りの天幕らしきものも散見される。
しかし、原型を残しているものは少なく、経年劣化から朽ちて崩れたと思われる物以外に、壊されたような痕跡も見てとれた。
「なんかキナ臭えな。人がいないのは放棄が理由じゃなさそうだ。もうちっとだけ探るぞ」
いつ起こったかは判らないが、この集落は襲撃や争いの結果で今現在無人なのだろうと仮定した。
再来はないだろうが、二人は緊張の糸を張り直し足を進める。
集落の奥程まで進むと、10人ほどは入れるであろうか、一際大きい天幕があり、入り口の脇には焚き火と小さい夜営らしき後を見付けた。
ノラが焚き火跡に近付こうとした時、そっと手で遮られる。
無言で歩みを止めさせる行為は、接敵かそれに近い要警戒の合図だ。
ノラは足音を立てないように一歩下がりアリシアの顔に耳を寄せる。
「この天幕の後ろ、柵から離れたところに灯りが見える。篝火にしちゃ暗い。多分魔避けの類いだ」
ボソボソと小さく話された内容に驚くもノラはアリシアを見て頷く。
「道具を使うのであれば人の可能性はあります。しかし…行けますか?」
足を心配したであろうノラの問いに即座に応える。
「たりめーだ、こういう時の為にアタシはいるんだ。会話で済めば良いが、万が一がある。で、どう転んでもここが終点だ。出し惜しみは無しで行くぞ」
天幕の脇で身を屈め、静かに剣の柄頭を開く。そして腰のポーチから円筒型の金属枠に守られたガラス瓶を取り出す。
ガラス瓶の中は濃い青色の液体で満ちていた。
軽く中身を確認してから柄の中に滑り込ませ柄頭を閉じた後、ロングスカートの下、足鎧の太腿部分の側面にも指ほどの太さの金属の棒状の物を何本かセットする。
フゥ…と目を閉じて軽く息を吐き、足の激痛を頭から無理矢理追い出す。
そっと目を開き、準備が出来たことをノラに伝える。
「接触するぞ。ノラはいつも通りアタシの後ろだ。なんかあったら即離脱しろ」
「多少の無茶はフォローするように尽くしますが、アリシアも後退は常に頭に入れておいてください」
ノラも太腿のホルスターから、手の平から少しはみ出るくらいの小型銃を引き抜き、グリップに両手を添える。
お互いの意思を確認し終え、天幕沿いを周りながらゆっくりと進む。
天幕の裏手から柵の外に出ると馴染みのない光景が目に入ってきた。
様々な動物を模した無骨な像が、規則性無く草原に佇んでいる。木や石、素材もまちまちで統一性がない。
暗くて読むことが出来ないが、彫像の足元には平たい石に文字らしき物が彫ってある。
(こんな所に彫像?足下のこれはネームプレートに見える……だとすればこれは、墓……。ここは墓地か?)
少し怖くもあるがどこか幻想的にも見える、星明かりでうっすらと浮かび上がった動物達に束の間、目と思考を奪われたが、今一度、正面の灯りに集中する。
近付いていくと、灯りの横に人らしき影があることが分かった。
倒木にどっしりと座り、石打ち槌のような柄頭を備えた両刃の戦斧を、刃を地面に降ろす形で右手に持つ黒い影。
弱いがしっかりと半身を照らし出している灯りがあるのにも関わらず、全体が影のように見えるのは、フード付きのマントかローブを羽織っているせいであろう。
座っていても体躯は大柄な事が伺え、左肩が不自然に盛り上がっているのが目立つ。
あちらからもアリシアとノラが歩いて来ている事はもう見えているはずだが、動く気配がない。
お互いの輪郭がほぼはっきりと判る距離まで近付くと、アリシアはゆっくりだが、相手にもしっかり見えるように剣を抜き、だらりと剣先を地面に向ける。
それに遅れて、カチリ、と撃鉄が起きる音が離れたところから聞こえた。
互いの距離が10m程まで差し迫った所でアリシアは立ち止まり、影の正体を晒さんとジッと見据えた。
相変わらず灯りの当たらない左半身は見えづらいが、おおよその判断は付く。
フードを深く被っているが、しっかりとこちらを見据えている。奥からから覗く目は人のそれと同じだろう。
目は少し見開いているだろうか。口元も言葉を発しようとしているのか、開きかけている。
驚きとも困惑とも取れる表情が、右半分の顔から出ているようだ。
体躯の大きさと目の感じからおそらく男。
斧を持つ右手は布か革製の手甲以外に防具の類いは見られない。
だが左手はプレートアーマーの様な金属の拳が、灯を反射して鈍く光っている。左腕はおそらく拳から肩までアーマーを着けているのだろう。左肩が盛り上がっているのはそのせいだ。
一通りの観察を終え、アリシアが静かに、しかしはっきりと届く声で問いかけた。
「一次的な救助を求めて森を抜けてきた。だが、この場を状況を見て、考えが少し変わった」
一息入れた後、目と剣に力を乗せて続ける。
「オマエ、人か?」
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表現力がほしいです。




