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ナイーブピーク

閲覧ありがとうございます。

お暇なら読んでいってくださいね。

二人が大森林に足を踏み入れてから半日程。話は冒頭に戻る。


すっかり陽は沈み、辺り一帯は完全な闇に包まれた。無風なのか、これだけ深い森の中にも関わらず、葉の擦れる音も聞こえないほどの静寂。時折、何かの鳴き声や虫の羽音が聞こえるくらいだ。

こうも静かになってしまうと、歩いている以上は気配を殺すことは出来ない。しかし、少しでも気付かれないようにする為、火や光は殆ど使わない。

携帯灯に赤いレンズを被せ遮光をかけ、灯りとしてギリギリ使えそうな、申し訳程度の明るさだけを頼りに静かに森を進む。

腰まであった草の密集地はいつしか抜けて、苔むす溶岩石と、岩の隙間を縫う様に這い回った木の根が地面を埋め尽くしていた。


憑魔は総じて五感が人より鈍い。変わりにエーテルの流れと魔力に反応して獲物を捕捉する。蛇の熱感知や、イルカのエコーロケーションに近いだろうか。

その為、極端な魔力の放出や、激しい動きさえしなければそう簡単に気付かれることはない。

ただし、獣や、エーテルを体内に取り込んで進化した魔獣は別だ。従来の動物と変わらず、人より優れた五感をフルに使って餌を追い詰めていく。


「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」


片膝を立てて背中を地面に投げ打つも、胸先に構えたショートソードは夜空を指している。

指し示した先にあるのは星空ではなく、すでに事切れたであろう狼。

その牙はアリシアの顔前で止まっている。

貫いた腹から涌き出る血が、剣を伝いボタボタとアリシアの鎧に垂れていく。


肺に溜まった空気を一気に吐き出したいのを堪え、静かに、荒く呼吸しながら、串刺しになった狼をゆっくりと脇に放る。


「やべえな…獣避けが効かなくなってきた。一応聞くが残りは?」


ノラは目を伏せて首を振る。

だよな。と、分かりきっていた事を再確認しただけだと言いたげに、アリシアは落胆する事もなく身体を起こす。


「先を急ごう。方向が間違ってなければもうすぐ森が開けるはずだ。木々も薄くなってきてる」


「待ってください。その前に応急治療だけでも…」


アリシアの右足は殆ど言うことをきかなくなっていた。

それでも引き摺る様にここまで歩を進め、必要ならば戦って道を切り開いた。


「何度も言うが魔法ならゴメンだぜ。必要以上に老けるのは華の乙女にゃ辛い、何よりアタシは太く長く生きるって決めてるんだ」


治療魔法(ヒーリング)は存在するが、対価として寿命を払うことになる。

体内に取り入れられ血に溶け込んだエーテルを活性化させ、任意の患部の自然治癒を()()()に促進するのがヒーリングの基本的な原理だ。

だが、人の身体の再生は無限ではない。治癒を掛ければ掛けるほど徐々に身体は再生が出来なくなり、老化現象も早く訪れる。

治療魔法に掛かると寿命が縮むと言うのは迷信でも何でもなく、怪我を早く治す為に身体を早送りした結果なのである。

身体の成長にも異常をきたす為、若い人にも推奨はされていない。


「気持ちは分かりますが、限度があります。命あっての、ってアリシアは良く言うじゃないですか。次星明かりが見える所に出たら施しますからね」


寿命が削られる事にはピンとこないが、老化が早まるというリスクは、まさしく今から人生を謳歌せんとする乙女には辛すぎる。

しかし、寿命を惜しんだ結果、ここで死ぬような事になってしまっては元も子もない。

キャラバンから貰っていた鎮痛剤も切れ、とうとう身体が支えられなくなって杖がわりの枝をコツコツと突きながら歩くアリシアの姿を見て、ノラは決意を固めた。


再び歩き始めてから束の間、背丈ほどもあった溶岩石の起伏はなくなり始め、覆い被さるような森の密集も随分と薄くなった。枝葉の隙間からはチラチラと星が見え隠れしている。

そして、まだ少し距離はあるが、木々の先には平坦で背の低い茂みが見えた。


暗闇と森が醸し出す、押し潰すような圧迫感と緊張感から、一時でも解放される事がわかると二人は安堵の溜め息を漏らした。


「一旦森が開けそうだ。安全が確保できるのなら、日の出を待つのも手かもな」


「どこか、野営に向いている所があればいいのですけど」


携帯灯の灯りを落とし、星明かりを頼りに周囲を見回す。

暗闇を歩き続けていた影響だろう。いつもよりもよく見える。

ゆっくりと首を振っていた見渡していたノラが動きを止めた。


「アリシア、小屋らしき影が見えます。んにゅ……手前に見えるのはおそらく柵で……ちょっと、顔が近いです。ひっついてます」


ノラが見つめる先を確認しようと、アリシアも頬を引っ付き合わせて同じ方向を向く。


「あぁ、間違いねぇ。随分と小さく見えるが集落だろう。乙女の寿命を縮める(ヒーリング)のはまたの機会だ」


「受け入れて貰えれば。の、話ですけどね。とにかく住人に会って事情を話しましょう」


大森林の外縁より程遠くない所、確かに集落は存在した。もしかしたら見間違いだったかもしれない、本当は無いのかもしれないという、一先ずの不安は払拭され、二人は久方ぶりに見た、家とも小屋とも言えないが、間違いなく人が作った建物に、静かに喜びながら集落に足を踏み入れた。


読んで下さってありがとうございました。

感想レビュー、とても嬉しかったです。この場でもう一度お礼をさせてください。

ありがとうございました。

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