賭けと信頼
出発の準備を整え終えた一団と、それを見送るように立つアリシアとノラ。
「んじゃあな。お互い気張って生き残ろうぜ」
アリシアが手をヒラヒラとさせて、軽く笑いながら挨拶を掛ける。
プローブの打ち上げで陣頭指揮を取っていた男が応える。
「意見が別れてしまった事は残念だが、止めはしねえさ。正直どっちに行ったって博打だ。確認だが、本当に残った荷物は貰っていっていいのか?」
「2日分の携帯食と水、それにバックパックにコンパスと薬まで貰ってんだ。半日歩くだけならこれでも多いくらいさ。それに、もしも半日で見付からなかったらきっとアタシ達はもたねえ。そっちで使ってくれ」
ありがとう、と、男は軽く手を挙げながらアリシアの言葉に応え、ノラにも顔を向ける。
「嬢ちゃんもさっきは助かったぜ、ありがとな。無事に着くことを祈ってる」
「ありがとうございます。それと助かったのはお互い様ですよ。そちらもどうかご無事で」
見送りの挨拶もほどほどに切り上げて、男が声を上げる。
「出発だ!魔力に当てられた憑魔が嗅ぎ付けてくる前にここから距離をとるぞ!」
ゆっくりと集団が動き出すのを見送り、アリシア達も踵を返す。
「アタシらも行こう。ノラ、コンパスは頼んだ。森に入ったら方向感覚が利かねえ」
お互いに背を向けあうような形で歩き出す。
荷車の荷がぶつかり合う金属音、車軸の軋む音が遠ざかっていき、荒野は徐々に静けさを取り戻していく。
正面に見える森を見つめながらノラが言う。
「……素直に保護してもらえば良かったのに」
ピクリ、と小さく反応したアリシアは、目敏さに少し驚きながら、ちらとノラを見るも、すぐに前を見据えなおし、歩きながら口を開く。
「守られるのは性に合わねえが、残ってりゃいざという時の囮くらいにはなれたかもな。でもそれじゃあ駄目だ。事が起きた時、アタシは義理と多数決に殺される。死に場所は自分で選びたいんだよ」
襲撃を受け、ノラを抱え跳んだ際にアリシアは足を強く捻っていた。
今やブーツも脱げないくらいに腫れ上がっている足首は、立っているだけでも辛く、キャラバンに同行したとしても護衛としてはほぼ役に立たない。囮として戦うか、生き餌として撒かれるかのどちらかだと、アリシアは考えていた。
痛みは足を着く度にジンジンと背骨にまで響かんとするが、それを顔に出すこともなく飄々と歩く。
「助けられた身で言うのもなんですが、付き合わされる身にもなってくださいよ、もう…」
「こっちを選ぶのを知った上で付いてくるつもりだったろ?それにノラが読む地図は大体間違いがねえ。アタシはアンタに賭けたんじゃない。信用したんだ」
ノラの目を見つめ、歯を見せてニカと笑う。
「はぁ……今度は私がアリシアを守る番ですね。いざとなったら私が盾になってでも森を抜けてみせますよ」
フンと鼻息をならしノラは意気込んだ。
アリシアはクックッと笑いながらノラを宥める。
「張り切りすぎてくたばって憑かれるなよ?プリンとかメロンのお化けとなんか戦いたくねえからな。見た目からして気合いが入らねえ」
想像をしたのか、含み笑いが止まらないアリシアにムッときたノラは、恥ずかしさで頬を赤くしながら、ぶりぶりと怒った。
「なっんっでっ!胸だけ憑かれる前提なんですか!あ、嫉妬ですか?嫉妬ですね?でも大丈夫!森の中でおっぱいから生まれた憑魔を見付けたらアリシアに譲りますからね。安心してください!」
怒りに任せて放ったノラのカウンターパンチはオーバーキル気味にアリシアに突き刺さった。グフッ!と心の吐血を吐き出しつつ、眉と目尻をピクピクとさせながら涙目で言い返す。
「い~い度胸じゃないか。別に羨ましくなんかないが、生き延びたらそれもぎ取ってやるからな。覚悟してろよ」
「生きて人里に辿り着けたのなら胸くらい全部上げますよ!いや……半分……の、3分の1…くらいなら……」
どうやらあげるには未練があるらしい。
自身の胸に手を当てながら、分け与える分量を真面目に考えるノラを見て怒りは更に増し、「いつか本当にもぎ取ってやる」と、アリシアは考えるのであった。
こうして二人はキャラバンと別れ、未踏の大森林に足を踏み入れた。




