わかれ歌の様に
風呂から戻って来たカレタカは、一息入れたところで村のエルフに呼ばれる。
外に出ると、家先に広めの蓙が敷いてあり、座るよう即された。
そこに胡座をかいて座ると、エルフの女が、カレタカの後ろで膝立ちになり、髪を結い始める。
細い指ですっと髪を一房持ち上げると、するすると装飾を挟みながら器用に編み込んでいく。
うなじから伸びる、長く太い四本編みが終わると、今度は左右に女が立ち、細い編み込みを作っていく。
誰かが歌を歌い始めた。
収穫の掛け歌のような、それでいて落日を思わせる、どこか寂しげな歌。
編んでいた女が一言二言話しかけ立ち上がると、人が入れ替わり、歌いながら編んでいく。
母子の別れの様な、優しく儚げな光景に、アリシアとノラは暫し目と心を奪われた。
「暫く共にするんだろ?なら、お前らもやってやれ。髪を触らせるのは信頼と友愛の証だ」
石の上に座り、頬杖を付いて眺めていたサイプレスが言う。
「そう言う事なら私も!」
「女らしい事は得意じゃねえんだがな……」
それぞれの反応を示し、二人がカレタカを挟むように立てば、カレタカが少し申し訳なさそうに言った。
「すまないな……。頼む」
観念したように髪を弄りながら、嘆息を漏らす。
「本当だぜ。あたしにこんな女々しいことやらせやがって」
「アリシア、とうとう自分の性別まで忘れてしまったんですか?」
からかうように会話をし、歌を口ずさみながら髪が結われていく。
程なく髪結いが終わると、サイプレスがニヤリと一笑いして皮肉る。
「おう、ちっとは小綺麗になったじゃねえか。それなら街に出ても魔獣と間違われる事はねえだろうよ」
綺麗に結い直された髪の先には、真っ赤に透き通る、ガラス玉の様なビーズが付けられていた。
「魔石に穴開けた物だ。路銀に困ったら使うと良い。まぁ、元々はお前の物だが……、せめてもの礼だ」
「なんかアリシアより綺麗に飾ってますね。見習ってみては?」
「はっ、着飾れば投擲も上手くなるかね。あたしはそっちを見習いてえよ」
出来上がった髪を珍しげに弄くっていたカレタカが立ち上がる。
「気を使わせたな。感謝する」
「気にするな。出るのは明日で良いだろう。今日はゆっくりしていけ」
それから日暮れまで三人は思い思いに行動した。
カレタカと行動を共にし、巣穴を潰した事で、いくらか警戒心が解かれたアリシアとノラも、村を出歩くことを許され、ぎこちないながらもエルフ達と話すようになった。
「人の女よ、受けた恩に感謝はする。だが、村を出たらここの事は忘れて欲しい」
「分かってるさ、事情が分からないほど馬鹿じゃねえ。それにカレタカとサイプレスを敵に回すは、ソロで巣穴に入るより御免だ」
「そうだな。あいつらは竜より強いぞ?」
エルフがククッと笑うが、ノラとアリシアは呆れ顔くらいでしか返せなかった。
「これまでを見てると、あながち冗談に聞こえないんですよね」
「あたしは脅しだと思ってたよ……」
村を散策し、エルフ達と辿々しい交流を深めながら準備を進めれば、すぐに陽は落ちていった。
サイプレスの家で食事を振る舞われた後で、テーブルに手書きの簡素な地図が広げられる。
「集落から30マイルほど南下すると川にぶつかる。そこから川に沿って下っていけ。森を抜けて10マイルも歩けば非衛星集落がある。フォアフロントって所だ」
「探索者の前線補給基地みてえな所で、ちと癖があるが、まぁお前らなら悪目立ちもしねえで溶け込めるだろう。そこに向かうと良い」
地図をまじまじと確認していたノラが現在地とルートを考える。
「距離はそれなりにありますけど、無謀って程でも無いですね。よくここが見つからないですね」
「エルフは賢い。技術も能力も、ただの人ではとても及ばないだろう」
「そういう事だ。お前らが黙ってれば俺達は何事も変わらねえ」
出発の準備を済ませ、寝るまでの時間をゆっくりと過ごす。
サイプレスがグラスをテーブルにコトコトと置き、乳白色の瓶を出す。
「持ってきた物の中に、全員ではないが帰ってこなかったエルフの遺品が入ってた。少しは弔ってやれる」
そう言うと、乳酒をグラスに注ぐが、ノラが困り顔でそれを遠慮する。
「あの、私お酒はちょっと駄目で……」
ノラの発言で注ぐのを止め、少し驚いたのか目を軽く開いた。
「なんだお前。鋼夫混じりの癖に飲めないのか」
「分かるんですか?」
「クォーターかハーフクォーターか知らんが、あれだけの大荷物背負ってればな……。まぁ、いい」
そう言って、ノラのグラスに水出しの茶を注ぐと、腰を降ろした。
「エルフ達と、お前らの出発に」
四人はグラスを小さく掲げ、グラスを空けた。
静かに夜は更けていく。




