剣撃鳴る
「照明弾!」
洞窟の外へまで届き兼ねない叫び声の余韻が響き渡る中、アリシアが叫んだ。
声に耐えきれずしゃがみ込んでいたノラが、どうにか反応して天井に向けて二発、闇雲に撃ち込む。
低い銃声が響いた後、天井に張り付いた銃弾がバチバチと火花を出しながら白光を放ち始め、生む者の全てを晒し出した。
体の上は闇の中で見たそれと違いはない。
だが下半身の、辛うじてスカートだと分かる、ボロボロの布から出る脚は、蜘蛛の様な多脚を持つ蟲だった。
枯れ切った大地の様な干からびた身体とは対称的な、黒く艶光りした脚が不規則に前後に動き、地を這うように迫ってくる。
「速い!」
アリシアが痺れる頭を押さえ飛び退くが、一歩遅れたカレタカは、その場で斧を持ち立ち上がり迎撃の体制を取る。
細く長い腕が鞭のように振り下ろされ、凪ぎ払う。
見た目より遥かに重い連撃がカレタカを打ち据えた。
「グゥッ!」
刃の腹に義手を添えてグッと耐える。休む事なく飛んでくる腕を、斧で、肩鎧で、荒々しくいなすが、カレタカの身体は打たれる度にジリジリと後退する。
嵐のような攻撃がふっと止んだが、腕を追って見ると、枯れた手の平の上には青い、純粋な魔力の塊が生まれていた。
その塊を押し付ける様にカレタカにぶつける。
再度斧で防ごうとするが、耐えきれない衝撃が腕を伝わり、斧を持つ手が跳ね上げられた。身体が浮き足が地から離れそうになる。
身体が完全に伸びてしまい、無防備になったカレタカの胸目掛けて、突き刺すように抜き手が延びてきた。
「させねえぞ!化物がっ!」
それをさせまいと、足鎧と鈍く唸る剣から光跡を曳きつつ、アリシアが飛び込み、低く構えた姿勢から生む者の脚に渾身の横凪ぎを入れる。
細くも鉄芯の様に堅そうな脚は、ほんの一瞬、刃が入る事を拒むが、抗うことは叶わず、バターを切るように一本、二本と脚を切り飛ばした。
脚を無くし、バランスを崩した生む者の腕が、カレタカを貫く直前でガクンと軌道が変わり、脇腹に反れた。
が、完全に反らすことは出来ず、小指と薬指がカレタカの脇腹に突き刺さる。
「カレタカッ!」
アリシアの強い呼び声に、問題ない、と答えるように、跳ね上げられた斧を強く握り直すと、足が地を捉えた瞬間、一気に振り下ろした。
「キィアァァァァァァァァァッ!!」
生む者の左肩に大斧の刃が深く食い込んだ。
刺した手を引き抜き、振り回しながら、生む者が断末魔の悲鳴を上げる。
刃は抜けないと判断したカレタカが斧から手を離し、顔に鋼鉄の義手を叩き込む。
たたらを踏んだ生む者は、その場で脚を踊らせた。
一歩下がったカレタカに反撃を試みようと、手から、口から、魔力の塊を出現させるが、背中から身体を仰け反らせる程の衝撃が走り、腹から刃が飛び出す。
振動した刃が高熱を持ち、刺した腹がボッと燃える。
「そろそろ還れよ、化物」
生む者の溜めていた魔力がかき消え、攻撃の正体を見ようと振り替えるが、アリシアは顔を見ることもなく、そう言うと、刺した剣を一気に振り上げた。
腹から頭蓋にかけて炎が走り、二つに割れる。
二つに裂かれた生む者の上体は、何かを探すように手を振り回すが、やがて火は全身を包み、次第に動きが鈍くなる。
ゆっくりだった動きも止まり、燃え上がった身体が徐々に黒い霧になり流れていく。
その身体全てが霧へと変わると、金色のプレートが二枚、固い音を立てて床へと転がった。
アリシアがその結末を見届けた後、剣をしまい声を掛けた。
「終了だ」
戦闘が終わった事が分かり、ノラがカレタカに駆け寄る。
「治療を!」
「腹の肉を削ぎとっただけだ。止血を頼む」
ノラが抉れた脇腹に水をかけ、大量の軟膏を傷を埋めるように塗り込み、シートを貼り付ける。
「ヒーリングほど強くない再生促進の軟膏薬です。暫く血が止まらなかったら造血薬も飲んでください」
「助かる」
処置が終わった後、主のいなくなった部屋を見渡すと、財貨や武具、日用品など様々な物が積もった小山が一つ残っていた。
「エルフに縁のありそうな物だけ、先に引き揚げる。あとの物はエルフ達に任せよう」
カレタカの提案に二人は頷き、小山を漁り始めた。
ざっくりと選別をしながらアリシアが言う。
「辿り着いちまえば案外あっけなかったな。そろそろ日の光が恋しいぜ」
「アリシア、また変なふらぐを立てるのは止めてくださいね?」
冗談めかしたジトッとした目で咎める。
「わかってるさ。日に二度も三度もこんな目には合いたくねえ。しかし三人で踏破したなんて、記録者がいたら暫く語り草になったろうな」
「本当です。何度か着いてきたことを後悔しそうになりました」
お互いの無事を確かめ合うような会話が耳に心地よく、カレタカは黙ってそのやり取りを聞きながら、小山を漁っていた。
「さて、あらかた片は着いたか?穢貨はこの金プレートだけ頂いて帰ろうかね」
そう言って生む者が残した金プレートを、足でコツンと弾いた。
ノラが遮蔽を施した袋にそれを回収すると、行きよりも明るく照らした携帯灯を掲げながら、三人は来た道をゆっくりと戻り始めた




