Deep
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森を進むにつれ、次第に小鬼の数が増えてくる。
切り伏せながら進むも、守りながらでは無理が出てきている事を、案内しているエルフ達に伝える。
「これ以上は来ない方がいい。後は方向だけ教えてくれればいい」
「わかった、ここで私たちは戻ろう。後は北に真っ直ぐいけばじき見える。何かあっても助けにいくことが出来ないから、撤退の判断を間違えないようにしてくれ。武運を祈っている」
そう言い残すと、エルフ達は静かに森の中に消えていった。
エルフ達を見送った後、再び歩きだした三人は、程なくして岩盤の屋根を持った洞窟の入り口を見付けた。数匹の小鬼が出たり入ったりしている。
「こういう場合、入り口に陣取って、寝ずで間引き続けて、ヌシが貯めた媒体が無くなくなるまでは入らないんだがな。人が足りない外じゃそうも言ってられねえか」
「そうだ。見付け次第斥候を出し、後は戦士数人で入り、生む者を一気に叩く。」
単純明快な答えだが、暗闇の中、二日も三日もかけて洞窟を探査するなんてリスキーな事は殆ど行われない。入口に強固な陣を張って、入念に調査した後に過剰戦力気味で突入し、憑魔もそれを生む者も数の暴力で叩くのが常套手段だ。
余程の実力者でなければ少数精鋭の電撃戦などはやらない。
「街に辿り着いた頃には、アタシは戦士として何かに目覚めてそうだな……」
三人などという少数で巣に入った事などないアリシアが、既に辟易した顔で呟いた。
洞窟に足を踏み入れ携帯灯で照らすと、落盤防止をしてないトンネルのような一本道だった。カレタカが立って歩ける程の天井の高さで、先はゆるやかに下っている。
光に反応した小鬼が駆け寄ってくるが、物の数に入らないと言わんばかりにアリシアが首をはねる。
「斧を振り回すには狭いだろ?後ろを頼んだよ」
アリシアを先頭に、ノラ、カレタカと続く。アリシアの言うとおり、斧を振るうには狭いため、カレタカは斧と一緒に背中に仕舞っていた、分厚い刃の大鉈に持ち変えていた。
断続的に現れ続ける小鬼をアリシアがあしらっていると、突如後ろから風切り音と刃が肉を叩く音が聞こえた。
振り替えるとカレタカが小鬼を排除した後だった。
今まで一本道だった筈だ。どこかで見落としたか?
「カレタカ、後ろからか?」
「足音が急に現れた。来た道からではない」
三人は一度立ち止まり、周囲を念入りに調べた。
すると、岩の起伏の間にさほど大きくない穴を見つけた。
覗き込んでみれば、数歩入れば行き止まりの、分岐とも言えない短い枝穴だった。
まるで、隠れるためだけに作られた様な窪みは、一度見付けてみれば、そこかしこに点在している事がわかった。
隠れている可能性があると考えれば無視する事は出来ず、歩を進めては穴を確認し、そっと覗き込む。天井に空いていれば、石を投げ込む。
前と後ろだけ警戒しておけば良かった一本道の筈が、途端に罠だらけの迷宮に様相を変えた。
体感で半日くらいであろうか、そこそこ深めの横穴を見付け、軽い休息を入れるために道を逸れた。入口に簡単な鳴子を仕掛け、行き止まりで腰を降ろす。
「雑だが嫌らしい作りだぜ。無視が出来ねえから速度が出ねえ」
携帯食を噛み砕き、渡された水で無理矢理流し込む様に飲み込んでいたアリシアが言った。
「兵を置くくらいの知恵がある。生む者はそれなりに年は経ているだろう」
渡された携帯食をつまんで、初めて見た昆虫かの様にしげしげと見つめているカレタカが答える。ひょいと口に投げ込みボリボリと噛み砕けば、甘いとも苦いとも表現出来そうな何とも言えない味に、眉間にシワを寄せながら水を飲んだ。
コップを空けると中に小さな魔法文字を刻んだ玉石が入っている。
「水が湧く石なんて初めて見た。探索者の持つ物は興味深い」
「湧石って言うんですよ。魔力で多孔石にかなり凝縮した水を内包させてます。魔法文字を起こすと中の水が染み出すようになってるんです。これが出来てから荷物がグンと減りました」
石を取り出して指で遊んでいるカレタカにノラが教えた。
カレタカのこの先を考えたのか、アリシアが問いかけた。
「探索者に興味が出たか?お前さんなら即日で一線級だ。食うには困らなくなるぜ」
「そうだな……。食うことに困ったら考えよう」
光量を絞り、お互いの顔もあまり見えない、声量も極力抑えた暗闇の中で、三人は束の間の休息を堪能した。
短い休息を挟みながら三人は奥へ奥へと、深く潜っていく。
一日か、二日かか。計測器も見ずに、ただただ歩き、小鬼を見れば殺す。
気を抜くことは一切出来ない、神経を削り取るような単調な作業が続いていたが、やがて変化が現れた。
踏み込んだ当初より大分広くなった洞窟で、緩く曲がった先を抜けようするとアリシアが足を止めるよう合図し、その場でしゃがむ。
ノラが持っていた携帯灯を下に向け、光の広がりを抑える。
中腰のままゆっくりと後退してきたアリシアが、前を見据えたまま簡潔に状況を伝えた。
「弱く青い光。おそらく魔力を使ってる光だ」
三人は壁を沿うようにして、慎重に先を確認する。
小さな青い光が暗闇の中で一つ、鬼火のように灯っていた。
光だけで距離が読みにくいが、そう遠くはないだろう。
この先が終着点だと三人は理解し、装備を確認する。
「ギリギリまで寄るぞ。そのまま接敵もありえる。アタシとカレタカは前、ノラは戦闘が始まったら光源を取った後、後方警戒だ。いいか?」
二人が了解の返事をした。
音を立てずに、そっと、そっと足を進める。
遠目からうっすらと、青い光に照された腕が見える。
枯れ枝の様に細く嗄れた腕。そこから伸びる指は、その枯れ木の根の如く、細く、長く、歪だ。
腕から繋がった体が見えてくる。人の体だが、皮だけ残して中身を全て抜き取った様な、全ての骨が浮いて見える体に、その皮膚さえも半分は剥がれ落ちているであろう頭。
目は光を反射せず、うろのように窪み、闇があるだけだ。
おおよその風貌を確認したアリシアが足を止め、カレタカの足を軽く叩く。
カレタカが合図を受け、持っていた斧をそっと地面に置くと、背中の大鉈を抜いた。そして立ち上がると、身体を弓弦の様にギリギリと絞る。
限界まで絞った身体を解放すると同時、大鉈が飛ぶ。
豪腕から放たれた大鉈は唸りをあげ回転しながら、 左腕を刈り取り、脇腹にその刃を深く埋めた。
痩せがれた腕から出していた青い光が消え、何もない暗闇に戻る。
奇襲を合図に二人が飛び出そうとした刹那、耳から脳髄にかけて、杭を打ち込まれた様な叫び声が洞窟内に響き渡った。
踏み出した足が止まり、その声に堪らず、前が見えなくなる程に顔をしかめる。
まっ暗闇の中、カシャカシャ、と動く音が聞こえた。
読んで頂きありがとうございました。
知らぬ間に評価が100を越えていました。
拙い話ですが、面白いと思ってくれている方、楽しみにしてくれている方、本当にありがとうございます。




