分かるが為に躊躇う
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憑魔の巣穴の討伐依頼。
少なからず命に関わるその頼みを、カレタカはろくに内容も聞かずに了承した。フンッと不満げに鼻息を漏らしてサイプレスは言った。
「オマエならそういうと分かっていた。だから頼むのを躊躇していたんだよ」
「長い事、世話になった。礼を尽くしても、尽くし切ることはないだろう」
「カティナはいつまで経ってもお人好しだな。だが、これで助かる。感謝する……よき隣人よ」
巣穴潰しを承諾した事が分かると、アリシアとノラも同行の意思を見せる。
「手伝わせてくれ。ここで待っていたら、うっかり口を滑らせて殺されちまいそうだ」
「カレタカさんが強いと言っても、多少の歩荷は必要でしょう。連れていって頂けませんか?」
サイプレスは二人を一瞥して皮肉りながらも、了承の意を示す。
「フン……、着いていくのはカレタカに聞け。だが、足を引っ張るなよ?人間」
了承が得られた所で話を詰めていく。
「巣穴の場所と、"規模"、"環境"はわかりますか?」
「ここから北西に、歩測で5マイルも行かねえ所だ。環境は良くある"洞窟"だが、規模ははっきり分からねえ。ここには深度探査器なんて上等なものはねえからな。見付けた当初、二人、斥候に向かわせたが帰ってこなかった……」
憑魔は二種類存在する。
奪う者と生む者。前者は人を襲って命と財貨を奪い、後者は身を隠して奪う者を生み続ける。働きアリと女王アリの関係だ。
生む者は自身の魔力量によって、徐々に巣穴を変質させ、広く複雑にしていく。穴状の物から、蜃気楼の様な幻で眩ます者、迷路の様な密林、果てには建築物も作り上げる。
生む者が強く、賢く、長く生きている程、巣穴は大きく複雑だが、思考が固定されているのか、複数種の憑魔は生まれてこない。一、二種が限度だ。
生む者は区別を付けるために、ヌシや主などと呼ばれているが、強さと規模次第では王や王女など仰々しい名が付くこともある。
探索者達は、巣穴の発見すると、環境と規模を"浅い天然洞窟"や"ネズミの寝床"といった、隠語で表現するのを好んで使って報告をする。
数字で表されても今一ピンと来ない者が多いからだ。
状況を確認したノラが推測を立てる。
「巣穴は自然洞窟の拡張で、外の小鬼に危機的な強さは感じられませんでした。あの数は大問題でしたが。その辺りから考えればヌシはまだ若いでしょうし、迷宮にできる程の力は持ってない筈はずです。踏破してヌシを倒すまで長くて三日。どうでしょうか?」
サイプレスが同意する。
「悪くねえ読みだ。カレタカ、いつから入る?付近まで案内させる」
「寝ずで歩いてきた。昼まで休ませて欲しい、その後支度し次第出る。日暮れ前には十分着けるだろう」
「了解だ、決まれば楽にしな。自由にしてもらって良いが、俺の許可無しに外に出るな。いいな?」
アリシアとノラが同意する。
「休む前に飯でも食っておけ。今用意してるだろうさ」
その言葉を待っていたかの様に、タイミングよくエルフが数人、食事を持って入ってくる。
カレタカに二言三言挨拶を交わして出ていくと、テーブルの上にはゴロゴロと野菜の入ったスープと、半身にして焼かれた鳥が二羽置いてあった。
「馳走とまでは行かねえが遠慮なく食ってくれ」
四人は会話を交えながら暖かい食事に舌鼓を打った。
食事を運んできたエルフを思い出しながらノラが聞いた。
「カレタカさんはここと馴染み深いのですね」
「カレタカが、じゃねえ。カティナの民が、だ。こいつらは土地を流れて生きているが、隣人には須らく手を差し伸べる。要するにお人好し一族なんだよ。生きてた頃はここのエルフ達も随分と世話になった」
鳥に齧り付きながらサイプレスが突っ慳貪に答える。
「その土地に生きる者達に敬意を払わなければ、俺達は生きていくことが出来ない。人にも、獣にも」
「ほらな?だからカティナは特別なんだよ。こいつらにとって友とか家族ってのは生存圏外で生きる者全てを指してるようなもんだ」
呆れるように話を続ける。
「だが、カレタカが離れるとなると、ここも少し厳しくなる。こいつは森の頂点みてえにあそこに居座ってたからな。それがいなくなるなら、何れ獣もこっちに流れてくるだろう。その為にも巣はここで潰しておきてえ」
「飯食ったら隣の部屋で適当に休みな。時間が来れば知らせる」
そう言って、サイプレスは早々に食い終えると機械の山で作業を始めた。
案内された三人は満腹感も手伝ってか、程なく眠りに落ちた。
静かにドアが開かれる。
開けた正面には、壁にもたれ掛かって片膝を立て、右目を隠している男がいた。
「ここは家ん中だ。たまには横になったらどうだ」
「これ以外の休み方は忘れた」
そう言ってカレタカは腰を上げる。
「時間か」
「じき、昼だ。休めたか?」
「十分だ。支度を始めよう」
ボソボソと響く二人の声にノラとアリシアも起き出し、巣穴に向かう為の準備を始めた。
出発の準備が整ったあたりで、充填していたカートリッジがテーブルに置かれる。
「女どものは間に合った。だがオマエのはまだ掛かる。帰ってくるまでは使えねえだろう」
そう言ってサイプレスは別のカートリッジを二本、カレタカに渡した。
「一回分くらいは残っている。ここで使ってから行け。家の裏の山は、無くなって困らねえ物だ」
カレタカは頷き、斧にカートリッジをセットすると家の裏に向かった。
何の話をしているのか分からなかった二人は、興味本位で着いていく。
裏にあったのは鉄屑の小山だった。
そこで、手に持った斧を暫し眺めていたと思ったら、瞬間、残っていた斧の刃が弾けとんだ。
アリシアが驚く。
「刃が砕けた?」
「砕けたんじゃねえ、分解したんだ。あの斧の柄は、ちょっと特殊でな。魔力を使って周囲の物質を取り込み組織を再結合する」
サイプレスが説明していると、カレタカは刃が無くなり先がやや尖った、ただの金属の棒になったそれを、瓦礫の山に突き刺した。
「あぁやって単純接触させて魔力を解放すれば、周りを喰い始める」
瓦礫の隙間から青い光を漏らしながら、山が少し陥没する。
光が収まって柄を引き抜くと、見事な鋼鉄の刃が元あった通りに生まれた。
「十あったもんを十作れる訳じゃねえし、構築にはそれなりに時間と素材が必要だが、便利だろ?砲車が現地で弾を補充するのに使ってた部品で出来てんだ」
アリシアの剣の様に効果を付けている訳ではないが、破損や欠けの心配がないというのは中々に重宝する。
アリシアは素直に感嘆の声を漏らした。
「カレタカみたいに力任せにブン回す奴にゃあピッタリだな。あん時、競り合った際に刃が砕け散ったと思ったのはこれだったのか」
「使い手側の意思と魔力次第じゃ色々ひっつくんだがな。アイツはそっちにゃ不器用だ。斧やら鎚やら重たいもん作るのが関の山だ」
新しい刃を確かめるように、軽く振るっているカレタカを見ながらサイプレスが話しかける。
「あいつより弱え奴に頼むのも何だが、カレタカを頼んだぞ。あいつがやっと出ることを決めたんだ。こんな所で躓かせたくねぇ」
「アイツに死なれるとあたしらまで流民になっちまう。街に帰るまではキッチリ守ってみせるさ」
斧の確認を終えたカレタカがこちらに戻って、準備が出来た事を告げる。
「問題ない。出発しよう」
こうして三人はエルフに先導され、小鬼の巣穴に向けて出発した。
読んで頂きありがとうございました。
休日なので早めの投稿になります。
最近投稿する度に、ジャンルはハイファンタジーで良いのかな?と考えています。




