捕食者
ほの暗い森の中、腰程まで伸びた茂みを掻き分けながら進む二人組がいた。
「なぁ、本当にこっちであってるのか?」
「それもう4回目ですよ?薄いけど確かな反応と集落らしき形は表れてました。道らしい道はないですけど大分近いはず。このまま直進です」
「これで見付からなかったらここいら一帯がうちらの新しい我が家だな。あとで住民票取りに行こう」
「流れ者なんだから住民権なんて持ってないじゃないですか。それに必要なのは家じゃなくて墓かと」
軽口を叩きながら進むも、二人の足取りは重く、慎重であった。
「まさか1000人規模の大旅団が壊滅するたぁな……」
二人がこの鬱蒼と繁る森を進んでいる訳は少し前に遡る……。
多少の草木と、ぽつぽつと見える何かしらの生き物以外は何も見えない荒野。
そこを進む大規模な集団があった。
《始まりの錬器術師》が世界を呪ってから幾星霜、様々な変化が起きた。
まず始まりの錬器術師に付き添っていた憑魔が錬器術を覚えてしまった。錬器を行えるようになった憑魔は、男の思いか、それとも宿った本能なのか、積極的に人を襲い物品を奪って、新たな憑魔を生み出していった。
際限なく増えていく憑魔に抵抗するも、人々は徐々にその居場所を切り取られていき、程なく人類の生存圏の外は、まるで最初からそこにいたかのように憑魔が跋扈するようになった。
憑魔に襲われる事を恐れて街と街との流通は絶たれ始め、やがて人々の生活圏は、核をなす《都市》と、都市に入れなかったが為に寄り添う様に集まり形成された衛星集落と呼ばれる小さな集落群で構成されるようになった。
都市と都市を繋ぐ手段はこの世界にはもう存在しない。とは言え、物資の輸出入や人の血が濃くなる事を防ぐためにも移動は必要なことであり、その際は身を寄せあい、互いを守りながら、時には犠牲を出してでも、再び未開となった土地を乗り越えていかなければならなかったのである。
現在進行形で森の中を進む二人組もまた、そんな都市間移動の最中であった。
「でも今回はラッキーでしたね。こんな大きな旅団に入れるなんて中々無いですよ。」
成人は過ぎたが大人にはなれていない。と、いった所であろうか。くるぶしまで隠れる神官服を身に纏い、自身が二人くらい入るのではなかろうかと思える程のリュックを背負って歩く女。柔らかくふわっとした雰囲気を醸し出し、肩にかからない程度に伸ばした栗毛を陽の光に輝かせながら、並び歩く相方に話す。
「まぁな。こんだけデカけりゃ襲われる確率もほぼねえし、道中の仕事も楽になるってもんだ」
こちらも同年代であろう。男勝りな口調で話し、腰程まで伸びた鴉のような黒髪をポニーテールで結った長身の女。前衛か近衛か、ロングスカートの様な鎧下に、要所要所を守るように部分的に金属鎧を身に纏っている。腰にショートソード、背面にはバックラーを付けて、頭の後ろで手を組ながら気怠げに話す。
「知ってますよ?そういうのふらぐって言うのですよね。」
「立ててるんだよ。ここ2日稼ぎがねえからな。そろそろ商隊からうまい飯を買いてぇ」
「私は好きですよ?携帯食」
「あれが好きなのなんてお前と鳩ぐらいだろ」
昼下がりの暖かい陽気の中、軽い会話が続いていたが、10トントレーラーのコンテナ程はあろうかと思われる、サイの様な生物が曳く荷車から監視していた男の怒声で会話は中断された。
「西の空から憑魔だっ!相当デカいぞ!」
キャラバンが足を止め空を見上げると、その顔を恐怖に染め上げていく。
「ありゃあ、竜種だぞ!こんな所を渡ってるなんて聞いてねえっ!」
「バリスタと竜砲はまだか!魔法でも手槍でも良い!届く物を射てぇっ!的を反らすんだ!」
竜と聞いた人々は迎撃しようとあがく者、恐慌に陥り、荷を捨て馬や陸鳥を駆って逃げようとする者がいたが、1000人に近い集団が急に動ける訳もなく、また、50mにも届かんとする巨体の飛行速度は思った以上に速かった。そして身動きのとりようのない混乱に陥ったキャラバンの眼前で奈落の底のような大口が開き、地面ごと人達を呑み込んでいった。
後日、魔導通信によって史上希に見る惨事が報告される。
「1000人規模のキャラバン、竜に喰われ全滅か」




