人ならざる人
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カレタカがそろそろと言ってから半刻ほど、少し離れた所から気配を感じる。
二匹か、三匹か、それほど多くはない。
アリシアが剣を抜こうとすると、それをカレタカが止める。
正面奥から声が聞こえた。
「誰だ。名乗れ」
木々に向かって答える。
「カティナの者だ。サイプレスに会わせて貰いたい」
ガサガサと草が揺れ、異常に長身で細身の男が現れた。青白い顔の額には、ルビーの如く赤々と輝いたオーバル状の宝石が埋まっているのが目を引く。
「……オマエか。サイプレスに何の用だ」
「森を出る。その知らせと、許されるなら準備をさせてほしい」
「……着いてこい。そこの女たちは人か?……入れるように取り計らうが、武器は抜くな。我々から離れるな。わかったか?」
嫌悪感を隠そうともせず告げ、歩き始める。
先導され着いた先は、村のような、森林砦のような何とも言えぬ所だった。
入口らしき所以外は、何十本もの蔦や金属ロープが生えてる木を支柱代わりに、ぐるっと取り囲む様に張ってある。
地上の簡素な小屋の他にも、見上げれば木の枝の付け根あたりに大きな鳥の巣箱のような小屋がいくつもある。
良く見ると、いくつかは中に人が入っていて、じっとこちらを伺っていた。
「歓迎されてる雰囲気ではねえな」
集落を観察しながら出てきたアリシアの言葉に対し、ジロリと睨みながら長身の男が答える。
「当たり前だ。何故我々が森に住み、我々に対してオマエらが何をして来たのか、知らない訳ではないだろう」
「まぁ、聞いた事はあるがね。実験から生まれ、奴隷のように酷使されて、遺体になろうとも使われ続けた。とか」
森の人とは彼らの俗称であり、正式に言えばアリシアやノラと同じ人間だ。
遠い昔、エーテルを発見した人々は、こぞってその研究に没頭した。
エーテルがエネルギーとなること、人に干渉していること。
事象が証されるにつれ研究はどんどん白熱していき、人の道を外れた、記録に残せない実験も数多く行われるようになった。
人間がエーテルに干渉し続けると、体内でエーテルが結晶化する。結晶化したものは魔石と呼ばれ、魔石を持つ人間は常人の数十から数百倍のエーテルを取り込む。
次第に大量に取り込まれたエーテルを、魔法という形で発現させる事が出来る人間が現れ始め、治癒や四元素の発現など、魔法は様々な形で人間に恩恵をもたらした。だが、先天性でも後天性でも魔石が体内で生成され、魔力を持つ人間が生まれるのは稀だった。
ならば、人工的に魔力を持たせ、それを遺伝的に残せないか?
人を人とも思わない狂気の実験の繰り返しで生まれたのが彼らだ。
魔石を額に生成する事を遺伝子で固定され、少しでも多くのエーテルを取り込み循環できるように、常人よりも背が高く毛細血管が多い。
血液はエーテルを取り込む事が優先されている為に血液自体の成分が薄く、血液本来の役目を上手く果たせないので、病気や怪我にとても弱くて短命。
彼らが病的にまで白く、葦のように細く背が高いのはその為だ。
魔法を使うことやその容姿から、彼らはエルフと名付けられ、人とは区別された。
後に、魔力が蓄積可能な事、魔石そのものがエネルギー源となる事がわかると、エルフ達は刈られるように集められ、死しても尚、魔力を作る媒体として酷使された。
人としての扱いを受けさせてもらえなかったエルフ達は、その扱いと、作られた体の影響で、エーテルの薄い生存圏では生きていく事自体が困難になり、出来る限りの仲間を連れて逃げた。
そうして、生存圏外のエーテルの濃い森等に隠れ、生きるようになった事から森の人と呼ばれるようになった。
長い歴史のなか、人とエルフはもはや相容れない存在となってしまっている。
「人の欲と繁栄の為に刈られるエルフもまだいる……。例えオマエ達がカティナと共に行動し、エルフに敵意が無いとしても、オマエ達を認める事は出来ない」
「そうだな……。せめて刺激しないよう大人しくしてるさ」
流石のアリシアも察したか、無闇矢鱈と好奇心を振り撒くのをやめてカレタカの後ろを着いて歩いた。
やがて、周りとは違う、丸太を組み作った頑丈そうな大きな家の前に着くと、ドアを叩き来訪を告げた。
「サイプレス、カレタカが来た。森を出る準備がしたいらしい」
ドアが開き男がぬっと出てきたが、集落の住人とはまるで違う。
背はノラと大差ない低さだが、体つきはカレタカと比べても遜色の無い程のドッシリとした男だった。
「おまえか。随分久しいな。周りの目もある、取り敢えず中に入れ」
体躯に良く似合った、しゃがれた野太い声でカレタカ達を中に即した。
中にはいるとそこは機械と金属の海だった。
所狭しと分解された機械が散乱し、その大半は何に使うのか全くわからない。金属特有の鼻をつく臭いが部屋中に充満している。
サイプレスは置いてあった図面の様な紙をくるくると丸め、部屋で唯一綺麗なテーブルに案内すると、水瓶とコップを持って来て、座りながら話した。
「森を出るらしいじゃねえか。村はどうした?」
「後ろの巫女が送り出してくれた。村は……、全て潰した」
カレタカはそう言って、ノラのリュックから人の頭ほどの袋を三つ程出してもらい、テーブルに置いた。
「今までの礼と、支度の対価として」
ジャラジャラと音を立てて置かれた袋の中を確認すると、それは大小様々な魔石が入っていた。カレタカが守人として立っていた頃に集めた物だ。
「そうか……。これは……随分と多いが……、ありがたく貰っておこう。何の支度がしたいんだ?」
中身を確認して、無造作にテーブルの端に寄せながら用件を聞いた。
「魔力の充填と、腕を見て貰いたい」
そう言ってカレタカは背負っていた斧を床に立て、柄頭を外す。そしてそれをひっくり返すと、柄の中から女の腕ほどありそうなカートリッジが二本、重たい音を床に響かせ落ちた。
掲げるように持たれた斧を一瞥してサイプレスが言う。
「刃を飛ばしたのか」
用件を納得したように席を立つと、金属の海を掻き分けて作業の準備を始めた。
「カートリッジを全部出しな、後ろの二人もだ。まとめて満タンにしてやる」
戸惑いながらも自分達が使っているカートリッジをコトコトとテーブルの上に置きながら、アリシアが聞いた。
「アンタはエルフじゃないよな?何でここにいるんだ?」
その言葉を聞くと振り返り、ギロッと睨み答えた。
「俺は鋼夫とのハーフだ。ドワーフの方が強く出てるがな。あと、詮索はするな。死ぬぞ」
物言わさぬ答えに、すまなかった、とアリシアは一言だけ謝り自身の装備を片し始めた。
渡されたカートリッジをカチャカチャと弄り、準備が終わると、再び席に着いて話してきた。
「魔石は礼としちゃ十分過ぎるが、今までの付き合いの恩返しだと思って、一つ頼まれちゃくれねえか?」
カレタカは分かっていたと言うように答える。
「小鬼の……、巣穴か?」
「あぁ……、暫く前に見付けたんだがな。何せここは戦える者が少ない。寄ってくる奴らだけをあしらってたんだが、半年で七人、外から帰ってきてない。正直、オマエを呼ぶか移動するか悩んでた」
カレタカは考えることもなく、即座に返答した。
「わかった。受けよう」
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