静かな戦い
「困った事になった…」
…俺は心の中で、そう呟いた。
深夜2時だというのに何でこんなに客が多いんだ?
道路に面した窓ガラスは冬の冷たい雨に濡れている。
外を走る車もなく、閑静な住宅街は既に眠りについているというのに…このコンビニの中だけは日中と変わらないくらいの客が見てとれた。
手元の小説をパラパラとめくる手を止めずに左に並んで立つおじさんの様子を伺う。
ニット帽を深くかぶってサングラスをかけているので人相はよく分からないが、手にした週刊誌を読むでもなく窓ガラスに反射する店内を伺っているように思えた…。
早くそこをどいてくれないかな…。
俺が今求めているのは、この推理小説ではなく…
おじさんのさらに左側にあるコーナー。
…ぶっちゃけエロ本が買いたいのである。
その為だけに深夜のコンビニを選び、さっさと買って帰りたいのに…おじさんの動く気配は全く無い。
この俺、渡辺まさかずはエロ本を買うのに躊躇するような男ではない。
流石に女性店員を相手に買う度胸は無いが…
レジの後ろに女性が並ぶという展開も…出来れば回避したいところである。
バーコードを打つと商品名がレジの前の液晶画面にデカデカと表示されてしまうのだ。
…その機能は誰の得になるんだ?
ちゃんとレジを通しましたよ、という確認の為の表示なのだろうが…エロ本を買う人に対する壁となっている事は間違いない。
…と、心の中で色々と葛藤している間におじさんが何処かに…行ってくれない。
バッと動いて適当なエロ本を素早く手に取りカウンターへ向かうのがベストなのだろうか…
いや、それはない。
断じてない。
吟味したい。
熟考したい…が、それもちょっと勇気が出ない。
長丁場になりそうだが、それもやむを得ない。
俺の戦いは…まだ始まったばかりだ。