トイレの中の葛藤
「困った事になったな…」
…俺は心の中で、そう呟いた。
深夜2時。
閑静な住宅街の一角にあるコンビニのトイレで、俺はどうしたものかと頭を抱えていた。
女子トイレである。
俺の名前は渡辺たくみ。男だ。
そういう趣味がある訳ではない。
名誉の為に誓って言うが、間違えて入ってしまったのである。
…かれこれ20分ほど、この女子トイレを占拠してしまっているのにもちゃんとした理由がある。
俺は近所の簡易ポリスボックスに勤務する警察官だ。
今日は非番で、近所に寄ったついでに同僚に差し入れの珈琲でも買っていこうかと寄ったついでにトイレへ…で、今に至る…。
トイレに入るところは誰にも見られていないとは思うが、この場合トイレから出る方が危険度は高い。
私服だから警察官だとバレる事は無いとしても、男性が女子トイレから出てきた段階で十分犯罪的なのは言うまでもない。
ドアの外に人は居ないようだが…ドアを開けた瞬間に真っ正面のカウンターに立つ店員とバッチリ目があったらと想像するだけで…覚悟ができずにいたのだった。
これはまずい。
非常にまずい。
店員がすぐ近所のポリスボックスから同僚を呼んで来たりしたら、俺の立場はどうなるんだろう…
ニッコリ笑って「ほら、差し入れの珈琲だ」では誤魔化せそうにない状態なのだった…。