いとしきひと
窓を開けた きみが好きだった金木犀が香る
別れと呼ぶには あまりにきみはそこにいるから
風を呑んだ とうに捨てたはずなのにしがみ付く命
別れとするには あまりにきみがそこにいるから
望めば望むほど 僕を嫌った向こうの世界を夢に見る
きみはきっと変わらずに 前を向きすぎているのだろう
誰にも届かない寒空に祈って きみの世界の夢を見る
きみが残したかけらさえ 一つ残らず愛せるのなら
たった一つだけでいい 僕が叶えられるものは
きみと生きた日々でいい ねぇきみもそう思うでしょう
たった一つだけでいい 忘れないでいられるなら
きみと見た景色でいい きみがいた証があればいい
影を連れた きみの匂いがまだ鼻の奥に残る
すれ違ったのは あまりにきみの夢を見たから
風になった きみの全ては形を変えて生きているから
別れとするには あまりにきみの面影が多い
忘れない日々ほど忘れたい日々だと気づいた夜に溢れたのを
淋しさと呼ぶには美しすぎるよと胸の奥で声が聞こえた
誰にも届かない寒空に祈って きみの世界の夢を見る
きみの愛した風景を 一つ残さず忘れないなら
曖昧なままでいい 僕が生きる意味なんて
大それてなくていい もう消えそうなくらいでいい
幻でかまわない きみを覚えていられるなら
空白の痛みでいい 埋まらない右手でいい
たった一つだけでいい 僕が叶えられるものは
きみと生きた日々でいい ねぇきみもそう思うでしょう
たった一つだけでいい 忘れないでいられるなら
きみと見た景色でいい きみがいた証があればいい
窓を開けた きみが好きだった金木犀が香る
ありがとうございました。
確かにきみは金木犀が好きでした。