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第九十五話 つよーい魔法使い




「……ここだな」


「……またなのね」


 ザカンの町へ到着したジーン達である。ただ、転移魔法自体は個人で発動させたことよって、多少の座標のズレが発生。


 イッチーとクーはお互い転移時に干渉していたため、近くへと転移する事が出来ていた。しかし、ソチラとはその辺の連携が不十分だったため、遠く離れた位置に転移したようだった。他にも、一度行った事があるか無いかの違いも大きかった。


「どうにかならないか、これ」


「ご、ごめんね。精一杯やったんだけど……」


「修行が不十分なんじゃない?」


「それをお前がゆーな! 文句があるなら自分でやれって」


 転移魔法で一番危険なのは、岩や建物に埋まること。鍛錬が不十分な者だと、最悪地に埋まってしまうことがあるのだ。セルフ埋葬というやつである。


 人同士が重なり合うという、恐怖体験は何故か起きないことが確認されてはいるが、地面に生き埋めも体験はしたくない。そこで考えられた対策が幾つかあるのだが、今回はその一つを行っていた。


「問題は無いんだけどな」


「私もこの景色は好きね」


 何も無い場所へ転移すればいいのだ。勿論、地上ではない。それは空だ。


 この世界には大きく広がる大空がある。安心して好きなだけ転移できる空間である。


 着地の心配はいらない。二人ならば、魔法でどうにでもなる。ただ一つ心配なのは、着地する場所だけ。人が多くいる場所だと目立ってしまう。悪さをした訳では無いが、自由に行動がしにくくなるのは間違いないだろう。


「あっちだな」


 ジーン達は丁度良さそうな場所を見つけ、そこへ目掛けて移動する。


 チャチャは手から風を起こして移動し、ジーンは大きな板に乗り、板の後方から風を噴射させて移動していく。


 人が飛ぶなんて夢や物語の中だけだ。偶々見かけた人からすれば、未知の生物である。


「あ、良いこと思いついちゃった」


 着地するなり、チャチャがそう呟く。彼女の思いつくことは、上手くいったことの方が少ない気もするが、頭ごなしに否定することもない。そのことを理解しているジーンはチャチャに次の言葉を促す。


「えっとね、仲間探しの方法なんだけど」


 チャチャの事だ。全力で魔力をまき散らして、あっちから来てもらおうみたいな、単純で後先考えない作戦だろう。そう予想するジーンであった。


「町で腕試しを開いてみない? 私達を倒したら賞金がでるぞー! とかだったら、人も一杯集まるでしょ。参加費を徴収すれば資金稼ぎにもなるし、どうかな?」


 意外な提案を聞き、ジーンはおろかイッチーもミカも驚いている。三人の反応を見て、どやっと自慢げな顔をするチャチャ。笑いを抑え切れていないのは、本当に嬉しいからなのだろう。


 確かにチャチャの方法なら人も集まってくるし、ある程度の実力者に出会えるだろう。ただ問題なのは、どうやって見分けるのかだ。名前や性別は一切教えてくれなかったし、情報が少なすぎるのだ。


 事情を説明しようにも、簡単に話せる内容ではない。やっぱり止めますとか断られて、下手に噂が広まるようにはしたくない。それを話すと、あからさまに肩を落とすチャチャであった。


「そんなに落ち込むことは無いさ。俺なんか、正直ムリな気がしてるくらいだから」


 滞在期間も決して長いわけではないし、策という程立派なモノがある訳でもない。


「取り敢えずは調査を始めなきゃだな」


 やることは仲間探しだけではない。指定された座標へ向かうことにする。


「ソチラとタマはどうするの?」


「あー、そうだな。あいつらも調査場所は知ってるだろうし、その内合流出来るだろ」


 探すのは面倒だし、連絡しようにも通信魔法の連携をしてないから通話もできない。ミーチャを通そうかとも思ったが、ミカから本部は忙しいから緊急時以外はなるべく連絡しないでと聞かされた。


「ミーチャも大変なんだな」


 世界各地から何千何万という報告が集まるのだ。合流がどうとかの些細なことで時間を取らせたくないと、ジーンは考えた。最悪は魔力を駄々洩れにして町中を歩けば、イヤでも出会えるだろう。


 それだと魔力を感知できる者には警戒されるが、大きな問題にはならないだろうと推測する。


 意見を交換し、指定された座標へと移動を開始する一行。この辺りは町も近く、それほど脅威となる魔物もいない。ハプニングも起きることなく、調査場所へと到着する。


「あれ、ジーンあそこ」


 近づいてから分かった事なのだが、遺跡のようなものが見えた。ただ、ほとんど崩れ落ちてしまっていて、分かるのは何かが建っていたのだろうということぐらいだ。


 しかし、到着と同時に建物ではなく別の反応がある。そのことを、その場に居る全員が察知することになる。


「人、だよな」


「ここまで近づかないと分からなかったってことは、つよーい魔法使いだよね」


「久しぶりに手強いのと戦えるのかしら」


「止めてくれ、その戦闘狂みたいな発言は……」


 こちらが気付いたということは、あちらも気付いただろう。そう想定して、ゆっくりと反応のある方向へと近づいていくジーン達。敵かどうかも分からないため、武装はまだしていない。


「女の子? だよね」


 物陰から見えたのは、杖を構えて瞑想している真っ赤な髪の少女。彼女の魔力制御の練度は、見た目の歳からすると信じられない程に高い。


「およよ? こんな所に人が来るなんて珍しいんよ。何の用なんよ」


 ジーン達が近づいていけば、少女がそう言った。驚いたように見えたのは演技なのか、それとも本当に驚いただけなのか。


「えっと、子供……だよな。ここにいる理由はこっちが聞きたいくらいなんだが」


「およっ、子供とは心外な。これでも歴とした大人なんよ。まぁちょっとある魔法が失敗したんよ? およよ~っ!? っても時すでに遅しなんよ。気付いたらこんなちみっこい姿になってたんよね」


 確かに子供とは思えない雰囲気に、魔力の制御能力。彼女の言葉を信じるのならば、若返ったという事なのだろう。


 嘘をついている様子は無いし、実際過去に成功者もいたのは本として残っている。本によればその成功者は過去の戦争で亡くなったらしいが。


「えっと、おいくつなんですか?」


 チャチャが聞く。


「およよ? 女性にその質問は地雷なんよ。分かるんよ? 一つだけ言っておくと、大体そっちのおよと一緒くらいなんよ」


 少女はジーンを指差してそう言った。全ての言葉を信用する訳にはいかないが、敵ではなさそうなので一安心する。


 ただ、ジーンだけは違った。何か、心の中でモヤモヤするものがあったのだ。


「そ、そうなんだな。俺はジーンだ。よろしく」


「私はチャチャよ」


「およは夜桜なんよ」


 夜桜……よざくら……。ジーンは更に思考の海へと潜っていく。どこかで聞いたことのあるような。もっと言えば、この少女と何処かで会ったことがあるような。


 そんなジーンの様子を見て、ため息をつく夜桜。


「昔から背は小さかったから、皆からはちぃちゃんって呼ばれてたんよ」


 その一言で、ジーンに衝撃が走る。


「ちぃちゃん……なのか……?」


「だからそう言ってるんよ。鈍いのは昔から変わらんのよね」


 ジーンの古い知り合いである、夜桜に出会うことになった。昔は切磋琢磨した二人で、ジーンの数少ない友人である。


「おぉ! 見覚えがあると思ってたけど、懐かしいなぁ!」


 夜桜改めちぃちゃんの脇に手を入れ、そのまま高い高いするジーン。嬉しさのあまり、クルクルと回り始める。


「ちょっと、下ろすんよ! およは子供じゃないんよ!」


 そう口で抗議するちぃちゃんではあるが、本人も嬉しい気持ちは同じなのだ。無理に暴れることはしなかった。


 チャチャも少しずつ状況を理解し、口を挟むこともしなかった。だが、その判断は致命的である。何せここは調査を依頼された場所。必ずしも安全であるとは限らなかった。


「っ!? しまっ――」


 ぱっくりと闇が口を開け、その場に居る全てを飲み込んだ。真っ黒な半球は、そのまま地面の中へと潜りこんでいく。


 残ったのは遺跡だけ。静かに古くなった石だけが、そこには佇んでいる。





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