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俺には精霊がついているらしい  作者: あいえる


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第九十一話 知らない事情




 丁度ミィが目を覚ました頃。


 保護派の中核になっている施設。その中の密閉された空間で、複数人がお話合いがされていた。


「で、他には?」


 にっこりと笑顔を忘れることなく。


「もう無い! 全部話した!」


「ふーん? で、他には?」


 バチバチと、わざとらしく放電をチラつかせる。音を際立たせるようにして、恐怖心を煽るジーン。


「嘘じゃない! もうこれ以上は……い、やめてくれぇぇぇああああぁぁああ!」


 目の前に迫る電撃に耐え切れず、失神してしまう男。ジーンの手の上で放電を繰り返す魔法は、実際に男に触れることは無かった。ただのおどしである。


「どいつもこいつもダメね。碌な情報を持ってない」


「下っ端ってことか」


 戦闘中に捕らえられた征服派の人数は七人。現在六人終わって、全員が価値のありそうな情報を持っていなかった。


 残るのは一人だけなのだが……


「あは、私も拷問されちゃうよね。そりゃ」


 身体を拘束し、魔法も使用できないように結界を張った。何をされるのか分かっているようであるが、それでもサイラは落ち着いていた。


「早くしゃべってくれるとありがたいんだけどな。話してくれれば、苦痛を味わうことも無い」


 先程の男と同じように、放電を繰り返す掌を見せるジーン。やはり、全く恐怖が無いという訳ではなさそうだ。笑った顔が引き攣り、身体も小刻みに震えている。


 ふり、では効かないだろうと、ジーンは感じ取った。ジーンとてこういった経験は少ない。


「っつぅ……」


 無意識の内に、魔法の威力を弱めてしまっていた。本来ならば身体が痙攣してしまう程の威力があったはずであるが、痛みを感じるだけで済んでいた。


「……ジーン」


「あは、向いてないよ君は」


 ジーン強制退出。


「彼は優しいね」


「甘いだけよ。私は違うわ」


 鈍い音。衝撃にサイラの首が勢いよく振られる。身体は固定されているため、逃げることもできない。


 殴られたのだ。顔を戻せば、チャチャと目が合う。殴られたことよりも、チャチャの豹変具合に驚くサイラ。これ程にまで雰囲気が変わる物なのかと、恐怖する。


「さ、早いうちに喋っちゃいなさい」


「あは、お断りだね」


 赤い滝が床を濡らす。


 肩を切り裂く刃は、あえて途中までで止めていた。腕を斬り落とし切ることなく、その場所に固定されてしまう。


「失敗失敗。痛いでしょ? 今治してあげる」


 すぐに怪我を治すため、サイラに回復魔法をかけた。勿論、彼女に傷をつけた刃はそのままである。


「どうなっちゃうんだろうね。それ、くっついちゃうのかな?」


 治りつつある肩を触り、観察する。そんな行動に対し、痛みで何をすることも出来ないサイラ。また、次に訪れるであろう痛みに恐怖を感じていた。

 だが、それでも彼女は恐怖に負けることなどできなかった。たった一人の家族の為に。


「あ~、いい感じにくっついてるね。こ・れ・を……えいっ!」


 再び訪れる痛み。しかし、それは斬られる痛みではなかった。肉が引き千切られる感覚。肩から生えた刃をただ力任せに引いただけ。ブチブチと筋繊維、神経が裂かれていくのを味わうことになったのだ。


 暴れようにも身体は拘束され、損傷した部位はすぐさま回復し、かといって恐怖が無くなることも終わることもない。


 脚は焼かれ、腕は凍り、身体には穴が開き。時には性感帯を刺激され続け。自身の体で何が起きておるのか認識できなくなってくる。熱い、冷たい、痛い、気持ち良い。一つの刺激に注意し続ける事はできず、常にぐるぐると押し寄せてくる。


「それでも……それでも私は!」


 妹のために。ここで負けるわけにはいかないのだと。決して折れることの無い心がサイラにはあった。


 しかし、それももう限界が近い。絶えることなく続く苦痛に、彼女が壊れていく。彼女がどれほど強くても、彼女が彼女でなくなってしまう。そうなってしまえば、決意など役には立つことも無くなってしまう。


「…………」


 どれ程の時間が経ったのか、サイラは叫ぶこともしなくなった。それでも止めることは無い。彼女が折れる瞬間をひたすらに待ち続けるのだ。


 そして、そんな彼女を見るのが楽しかった。楽しいと感じてしまっていた。叫ばなくなったことで物足りなくなったが、身体に起きる変化を観察するだけでも飽きることはなかった。


 破壊による快感、破壊した部分が修復されていく様子、実験でもしているかのようであった。それが人体という対象でなければ、ちょっとおかしな子で済んだかもしれない。だが、サイラは紛れもなく人間である。


「凍ってても斬ったり潰したりすると、やっぱり痛いのかな? どう?」


「…………」


「どれぐらいの熱さでと溶けちゃうのかな?」


「…………」


 まるで玩具で遊んでいるかのように。目を輝かせ、あれはこれはと何度も繰り返し、当初の目的など頭から抜けてしまう程に。


「あれ、そういえば。どう、話す気になった?」


 目線を合わせるようにしゃがむが、目も虚ろで意識があるのかすら判断しにくい程の状態。話す気力などサイラにはもうなかった


「ん? 回復魔法はしっかりかけてたし、まぁ休憩すれば大丈夫だよねっ」


 彼女は笑っていた。休憩とは言いつつも、電流を流すことは止めなかった。痙攣し続けるサイラを、満足そうに眺めるのだった。


「……?」


 彼女の肩に、優しく、彼女を壊さないように。


「もう、いいんじゃないか」


「ダメよ。まだサイラが話さないんだもん」


 拒否される。


「彼女を見て、何も思わない?」


「思わないわ。早く喋ってってくらい」


 そう、本気で思っていた。嘘など一欠けらも無い。


 イッチーはそんな彼女の目を見て、問う。


「――自分が誰なのか、分かるか?」


 不思議に思う彼女。自分が誰なのか、そんなこと聞かれるまでも無い。


「……? ………………?」


「どうした。早く、早く答えてくれ」


 止まる。動きが、思考が、彼を見つめるその視線が固まる。十秒、また十秒と時間だけが過ぎていく。


 それでもまだ、彼女は固まったまま。人形にでもなったかのように、時間が止まっているかのように、動くことはなかった。


 最初の変化は声。言葉にもなっていない、彼女の喉から掠れた音だけが聞こえてきた。


 次は身体の震え。そして逃げるように視線が小刻みに動き続ける。両の腕で自らを抱き、身体を強ばらせる。


 尻尾のようにまとめられた髪が大きく揺れ、膝をつきそうになるチャチャをイッチーが無理にでも支える。息が上がり、漏れ出る魔力も不安定に揺らいでいた。


「自分で答えるんだ。名前を、自分で言ってくれ」


 イッチーは自らの手でチャチャの顔を自分に向けさせる。そして、大きく開いたチャチャの目を見つめ返す。


「チャチャ、うん……私はチャチャだよ」


「…………大丈夫か?」


「大丈夫……かな。としか、言えない、けど」


 言葉を重ねる内に震えも治まったようだった。チャチャは今一度サイラを見て、そして一歩踏み出す。


 既に魔法は解除され、しかしだらりと力なく頭をぶら下げているサイラ。そんな彼女に回復魔法をかける。それでも治るのは体だけであり、壊れかけた精神を立て直すことはできない。


 彼女の拘束を解き、倒れかかるのを抱きしめる形で支える。今更遅い、誰もがそう思うだろう。狂人、誰かがそう言うだろう。


「ごめんね」


 謝ることで許してもらえるとは思わない。仲直りができるとも思わない。自分の気が楽になるとも思わない。


 一言呟いた後、彼女を横に寝かせるために抱き上げるチャチャだった。


 イッチーはそんな彼女をただ後ろから見守る。彼女の事情をしっているのは、チャチャ自身と自分、後は大精霊達だけだろう。神子は恐らく知っているのかもしれないが、確証はない。


 彼女の行動に違和感を感じ始めたのは、出会ってすぐの頃だった。一瞬、心の繋がりが消失するのだ。意図的に閉じるのではなく、消失だ。常時契約者の感情を読み取れる精霊にとって、それは恐怖に等しい事でもあった。


 目の前にいるのに、繋がりが消える。しかし、それに気付けるのは自分だけ。外側から見れば、いつもと変わらない。相談したのは大精霊達だ。契約についてならミィでも良かったが、イッチーは彼女を心配させたくなかった。


 結果として、理由は大精霊達でも分からなかった。大精霊達が提案したのは、本人がそれに気付いているのかどうか。それを確かめることだった。


『え? そうだったの?』


 彼女自身も把握していない、それが問題だった。それからは原因を探るも、解明することはなかった。時間が経つにつれ、繋がりが消失する時間が長くなっていった。チャチャ自身も認知するようになった。彼女が言うには、ちょっと気分が良い感じらしい。


 それに、彼女の行動にも変化が出てきた。一言でいえば彼女らしくない。そんな行動が増えてきたのだ。トレーニング中、敵との戦闘中、気持ちが昂ると多くなった。普段はそんなことは無いのかと言われれば、それも違った。確かに数は少なかったが、日常生活でも現れていた。


 サイラをベッドに寝かせる彼女を見て、そんなことを振り返る。問題は今も続き、つい先ほどの行動もそれが原因だった。


「ジーンには、内緒ね」


「……分かってる」


 イッチーとしてすぐにでも相談したかったが、チャチャはそれを良しとしなかった。好きな相手に、自分が狂人であるだなんて思われたくなかったのだ。イッチーがジーンはそんな奴じゃないと言っても、チャチャの首が縦に振られること無かった。


 自分の暗い、おかしい部分など見せたくは無い。それが好きな人であれば余計にだ。好きな人には自分の全部を見せたいなんて言うが、実際は自分の良い部分全部を見せたいなのだろう。


 びくりと、チャチャが身体を震わせる。すぐに深呼吸をし、不安に暴れだしそうな気持を静めていく。


「どうだった? 何か、分かったか?」


 ジーンがサイラに当てられた部屋に入ってくる。


「ううん。ちょっと無理させちゃったみたいで……寝ちゃった」


 てへ、と誤魔化すようにチャチャが報告するが、それを呆れたように程々にと言葉を返す。実際は魔法で眠らせた訳だが、身体には怪我一つ残していない。何をしたのかをジーンに知られることは無いだろう。


「次の作戦の打ち合わせするぞ。神子に頼まれた調査だ」


「どこ行けるのかな?」


「観光しに行く訳じゃないからな」


「もぉ~、分かってるって」


 自分を見失わないように、意識して言葉を選択するチャチャ。自分はこうなんだと常に考える。


 二人は部屋を出て、作戦室なる部屋へと向かっていく。


「自分がどうだったかなんて考えてる時点でおかしいんだよ……くそっ」


 イッチーは光の粒に消えていく。自分にできることは彼女を最後まで助け続けること。それが今自分がやりたいこと。でも、本当にこのままでいいのか。彼が悩みを解決するには、もう少し時間が必要だ。





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