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第九話 ミィと出会うまで(6)

「――それでこの子を連れて来たんですねぇ?」


 一人で彷徨っていたこの子が気を失った後、そのまま放っておく訳にはいかない。だからこの子を連れ、野営地まで戻ってきていたのだ。


 すぐに目を覚ます気配は無さそうである。どうしてこんな所にいるのか。誰か連れがいるのか。色々と聞きたいことはあるが、今は目を覚ますのを待つしかない。

 お腹が空いていた様子だったため、一応料理を温めてはある。これでいつ目を覚ましても、すぐに空腹を満たせる。情報を聞くにしてもその後になるだろう。


「じっと待っていてもしょうがないし、結界魔法の練習でもしようか」


 ジーンが提案すると、少し不満げな顔をするチャチャ。

 うーん、どうしたのかな?


「いやぁ、練習するのは良いんですけどぉ。あれってものすっごぉーい疲れるんですよねぇ」


 チャチャが文句を言う。あれ、というのは魔力を維持させることだろう。普通魔法を使う時は維持なんてさせない。そのため慣れない内はしょうがないとは思う。そもそも、楽な訓練は訓練とは呼べないだろうし。


「いい修行になってる証拠だな。ま、無理してやるものでもないか。明日の戦闘に悪影響が出たら意味ないし」


 無理をしても効率が落ちるだけ。それに、別に今すぐ出来るようにする必要もない事だから、全く問題ないのだ。


「練習のことは置いておいて、魔法自体は発動できそう?」

「ん~、今はまだ何とも言えません。もう少し上手く魔力を混ぜ合わせる。ってのが次の目標ですかねぇ?」


 チャチャも気持ちを切り替え、自分自身を分析できているようだ。これなら心配はいらないだろう。もう何回かは感覚を掴ませる必要があるだろうが、今のところは順調みたいだった。


 さてさて。それじゃ何をしようかね。寝るには早いし、まだこの子が目を覚ましていないし。そんな事を考えていたジーンに、寝かせられている子供をぼぉーっと見ていたチャチャが一言。


「いつもあんな風に魔法の腕を磨いているんですかぁ?」


 単純な疑問にジーンは答える。


「続けてないとすぐに精度が低くなるからね。最低でも二、三日に一回は調整するようにしてる」

「ふぅーん。ジーンってすごいんだね。なんだか、周りよりもちょっと強いくらいで調子に乗ってた、昔の私に説教してあげたいよ」


 いつもののんびりお気楽な雰囲気では無くなる。少し、真面目スイッチが入ったようだ。ジーンも真剣に聞いてあげることにする。


「私って、親が二人とも冒険者だったから、家族の時間って少なかったの。愛されてなかった訳じゃないし、限られた時間を大切にできてた。だから小さい頃はそれでも良かった。毎日会えるわけじゃなかったけど、周りの人は優しかったし不思議と寂しくはなかった。それに二人が帰ってくると冒険の話をしてくれるの。いっつもそれが楽しみだったなぁ。それでね、いつか私も一緒に冒険したいって。そう思ってたの」


 昔を懐かしむように、ゆっくりと伝えていく。


「でもね、ある依頼で……二人とも死んじゃった。冒険者なんだから、絶対に生きて帰れる保証はないんだし、二人も、いつもそう言ってた。でも、それでも二人は絶対帰ってきてくれるって……」


 声も表情も暗くなっていくのが分かる。


「もう”ただいま”って帰ってきてくれない。二人で楽しそうに冒険の話をしてくれない。一緒にお買い物にも行けない。もう、三人の思い出を作っていくことも出来ない」


 話をしていて、我慢できなかったらしい。

 感情が溢れ、涙がチャチャの頬を伝っていく。


「あの時は、もう十歳になってたかな。二人が死んじゃったって、理解できてしまったの」


「……」


「それからね、いっぱい練習して、勉強して、私も冒険者になったの。もし冒険者を否定しちゃったら、大好きな二人のことも否定することになっちゃうし。冒険者になる、そこまでは良かったんだけどね。元々、親から武器の使い方や魔法を教えてもらってて、どっちもセンスが良いって言われてたの。それでも親の方がとっても強かった。当たり前なんだけどね。だから、その時は二人とも私をおだててるだけなんだと思っていた」


「……」


「だけどね、いざ冒険者になってパーティを組んでみたら、本当に皆よりも強かった。どんどんランクも上がっていったし、嬉しくて楽しくてね。最初はお母さんやお父さんみたいに、って思ってた。だけど、いつからか偉そうな態度をとったり、私よりも弱いんだから私の言うことを聞いていればいいのに、って考えるようになってた。最低だよね、私。そんなことを口に出すようになったから、まぁ当然周りからは良いように思われない訳で。どんどんパーティーも組まなくなっていったの」


「……」


「一人で依頼を受けるのが当たり前になってきた頃に、パーティーを組んでくれって。新人の冒険者だった。ただランクの高い依頼を受けたいって理由だったんだけど、それでも私は嬉しかったんだ。依頼自体は魔物の討伐。油断しなければ負けない相手だったんだけど、私は誘われたことで調子に乗ってたのね。良いとこ見せようって。その結果、私以外は全滅。男の子二人と女の子二人。仲が良くて、将来が楽しみって言われてた四人だった」


「……」


「私も死にはしなかったけど、大怪我をしたわ。体にできた傷もあったけど、心にも大きな傷ができた。私のせいで人が死んだっていう事実と、周りからの人殺しとでも言いたいような視線。直接言われたこともあったわね。耐えられなくなった私は、その街から逃げた」


 自身の口から過去を語った彼女。


 知られたくもなかったはずなのに。どうしてだろう。


「その後、沢山の街を転々とした私は、どこのギルドに行っても人殺しとしか見られなかった。どんなに頑張っても、どんなに人を助けても。皆は悪いことしか評価してくれなかった……。だけどそんな私を受け入れてくれたのが、今いるギルドだったの。皆は過去の私を見るのに、ギルマスや先輩は今の私を見てくれたの。それが何よりも嬉しかった。そして、あなたが来た。一人で旅して、自信満々で、昔の私を見ているようで気に入らなかった。でもジーンは違った。私なんかよりもずっと強いし、先輩からは慕われているみたいだった。それに、ジーンも今の私を見てくれた」


 チャチャは、今までずっと過去に傷つけられてきたのだろう。明るく振舞っているのも、それを無理に隠そうとしているのかもしれない。


「この話をしたのは、ジーンに私のことを知ってもらいたかった……からかな? ジーンって圧倒的な力を持ってるでしょ? ジーンと一緒にいれば、私みたいに道を間違えなかった理由が分かると思った。理由が分かれば、私も変われるかもしれないって思ったの」


「……答えは見つかった?」


「ううん。まだ分かんないよ。だってまだ一日しか一緒に過ごしてないんだもん。だから、もし……もし良かったら、ジーンの旅について行きたいんだけど……どうかな?」


 一緒に旅をするのは別に問題ないんだけど、本当にそれがチャチャのためになるのだろうか? そもそも答えは見つかるのだろうか? など考えだすとキリがない。

 チャチャの気持ちを優先させるべきなのか、少し困ってしまうジーン。


「一応チャチャってギルドの職員だろ? 俺が今ここで、勝手に決めることは出来ないけど……考えておく。まずはこの依頼を成功させることが先だな」


 これは後でミーチャとかと相談してから決めよう。うん、そうしよう。……問題の先延ばしともいう。


「……うん、そうだね。帰ったらまず、ギルマスにやめるって伝えるよ。そしたら私行くとこが無くなっちゃうから、連れてってくれないと……困るかな?」


 少し落ち着いてきたのか、表情も明るさが戻ってきたチャチャ。


「あ、あぁ……前向きに考えておこう……かな?」


 チャチャが旅についてくるのかどうか。決定を先延ばしにしたはずが、何故か今ほとんど決まってしまった気がする。

 一瞬。チャチャが、勝利を確信したようにニヤリとしたのは気のせいではないだろう。……チャチャは思っていたよりも策士だったらしい。


「…………うぅ……ん……?」


 話が一段落したのを見計らったように、寝ていた子供が目を覚ます。


「やっと気づいた。早速で悪いが、色々聞き――」


「お腹……お腹空いた!」


 ……俺の話よりも飯が大事らしい。しかしこうなる事は想定内。温めておいた料理を渡す。

 すると、彼女が少し驚く。恐らく何もない場所、目の前の空間に手を突っ込んで料理を出したからだろう。


「ふっふっふ……驚いているみたいだね。これは――」


「わっ、これ美味しいね!」


 がっつり無視されたよ。ま、まぁ俺は心が広いからこれくらいなんとも――


「……ぷぅーーっ。あっ、すいま…………せ………………ぷっ」


 チャチャに笑われるのは想定外。

 ヤヴァイ、ハズカシイ、アナ、ツクッテ、ハイリタイ。


「モグモグ……ムフムフ……ハムハム…………美味しかっ……た?」


 目の前に現れた穴を見て首をかしげる子供。

 「ムシ、コワイ、ハズカシイ」と聞こえてくる穴。

 この状況はジーンが立ち直るまで続くのだが、一番この状況を楽しめたのは間違いなくチャチャであった。


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