表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/347

第七十三話 たからもの

短いですがどうぞ



 ひらひら、ひらひら。つい、目で追いかけてしまう。

 きらきら、きらきら。つい、目を奪われてしまう。


 何かを掴もうと懸命に手を伸ばす姿。

 小さな風にも翻弄される姿。

 掴めば潰してしまうような。

 触れれば散ってしまうような。


 それは宝石と等価値だった。いや、煌めく石以上の存在だったのだろう。

 一日中眺め、追いかけ、踊り回る。そんな日々が宝物だった。


 少女の名はレイ。四人の姉を持つ、末っ子である。

 その可愛さたるや、万物を前に霞むことは無い。姉、保護者はそう語る。


 周囲から甘やかされ、すくすくと育ってきた彼女。

 それでも我が儘な性格に偏ることは無かった。大人しい性格に偏ることも無かった。


 そんな彼女は姉たちが大好きだった。

 姉が抱く愛情と同じく、大切な存在の頂点として姉を想っているのだ。


 それは、これから先も変わらない。時間が過ぎても、何が起きようとも。



 ◆  ◆  ◆  ◆



 初めての魔人討伐戦が終わり、あれから一か月が経とうとしていた。

 あの魔人以外にも、沢山の魔人と戦ってきた。

 

「我が愛する者のため」


「憎き者を滅ぼすため」


「眷属の自由を求めて」


「この世の美しき者のため」


「幸せ、子が幸せになるために」


 沢山の想いがあった。沢山の想いを聞いてきた。そして全ての想いを踏みにじってきた。

 最初は独りだったと言うルークス。彼は、どんな気持ちで戦ってきたのだろう。どんな覚悟で乗り切ってきたのだろう。


 これから先、彼の想いを知ることはできるのだろうか。


 この一か月、リシオと交代で仕事を手伝ってきた。時には一緒にも戦った。リシオがいる時は魔人ではない、沢山の討伐依頼をこなしてきた。

 他には、薬草や食料の調達依頼なんかもあった。


 町や村の外に、簡単には出られない。満足に食べられる地域の方が少ない。そんな世界を体感した。

 自分達に出来るのは、彼らの依頼を受ける事だけ。


 多くの人を助けたいのなら、個人との関係は長く築けない。何度か依頼を受けることぐらいだ。少なくともこの世界ではそうだった。


 他に出来ることは無いのか。そう聞いたことがある。


「無いよ。既に過ぎてしまった世界なんだ、ここは」


 それ以上は教えてもらえなかった。


 魔物は増えていくばかり。食料の確保はままならない。魔人も確実に力を蓄えてきている。対抗できる戦力はほんの一握りだ。


 ジーンは考えた。この世界に来た意味は何だ? どうしてミカは俺達をこの世界に? 俺たちにできることは何なのか。

 終わりが見えない不安は、確実に大きくなっていた。


 いつになったら帰れるのだろう。でも、このままルークス達を放ってはいけない。それでもやっぱり、ミィ達も心配だ。

 ジーンもチャチャも、戸惑いや焦りに日々精神を削られていた。


 ある日、ルークスが突然言った。


「あ、二人ともあと少しで帰れると思うから」


「は?」

「え?」


 それは夕食中だった。不意打ちにも程がある。


「戻る方法、分かったんですか?」

「あ、いやーまーそうだな」


 少し挙動がおかしいルークス。彼の不自然さに気付くことなく、二人は喜び合った。


「お姉ちゃん達、いなくなっちゃうの?」

「ちゃーちゃ、ばいばいするのいや」


 幼女組の顔が落ち込む。彼女たちにとって、二人は既に家族の一員になっていたのだ。二人がいなくなると悲しむのは当然であった。


「二人が帰るのはもう少し後だから」

「やー!」


 もう少し時間があるなんて、そんなの関係ない。嫌なものは嫌なのだ。

 夕食後、いつにも増してチャチャにべったりな幼女組。ここで勘違いしてはならないのは、ジーンにもいなくなって欲しくないと思っていることだ。ただ、ほんのちょっとだけチャチャが好きなだけ。甘えたい対象がチャチャなだけなのだ。


「……いっちゃやだよぉ」


 そんな寝言が聞こえてくる。


「ごめんね、お姉ちゃんもやらなきゃいけないことがあるんだ」


 暗闇の中、零したのは言葉だけでなく。

 頬を伝うは感情。

 誰に知られることも無く。ただひっそりと。


 朝起きた時、チャチャが握りしめていたもの。

 それは既に輝きを失っていた。

 それでも、彼女にとっては宝物。

 何に代えることもできない。


 なに弱気になってるんだと。

 なに諦めかけてるんだと。

 なに迷っているんだと。


 誰のために私は戦っているんだと。

 離れて揺らぎかけた決意。そんなもんは本物なんかじゃなかった。


 ぱんっ!


 離れたことで揺らぐことの無くなった決意。今度こそ。


「んぁ……おは、よ? お姉ちゃん、ほっぺどうしたの?」


 赤く染まった頬。


「おはよ。お姉ちゃんご飯作ってくるけど、どうする?」

「……まだ寝てる」


 その日の朝食はいつも通りだった。普段と変わらない、いつも通り。


「うん、美味い。おかわり貰えるか?」


 ジーンのおかわりをよそう。これもいつも通り。


 それでもただ一つだけ。たった一つだけ違うものがあった。

 しかしその時は、それに気が付いた人はいなかったのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ