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第七十二話 二人組

 時間に急かされることも無く、のんびりと過ごしていた二人。折角だからと、散歩を兼ねて観光に出かけていた。

 大勢の人が流れる道を歩く。よっちに教えてもらった、美味しい食べ物の露店を巡る。見たことも無い商品に興奮したり、お土産は必要なのか何を買おうかと悩んだり。


 チャチャが笑えば、つられてジーンも笑い。話題など尽きるはずもなく。

 ただ雲が流れるように、川が流れるように。二人はただただ楽しんでいた。何を考えるわけでもなく、ただ好きなように時間を使った。


「いやデートじゃん、羨ましい」


 二人とも、仲が良さそうで何より。


「本音が漏れてるんよルー」


 そんな二人を陰から見守る二人あり。不自然になりすぎないように、魔法での誤魔化しはしていない。ただ、二人とも戦闘の専門家だ。尾行していることにバレることは無い。


「あのー、何をされてるので?」


 勇気を振り絞って声をかけたであろう一人の青年。振り向けば、何やら人だかりができていた。


「これは……一体何の騒ぎかな?」

「えっと、お二人の格好と動きがあまりにも不自然なものだったので……」


 ふむ、不自然な格好とな。上も下も黒色の地味なものにしたはずなのだが。帽子に色付き眼鏡に口を覆う布。これならばもし二人に見つかっても大丈夫だろうに。


 更に動きもおかしいと青年は言う。常にあの二人の死角に隠れるのは簡単な事ではない。多少無理な姿勢をしていた自覚はあるが、そんなに怪しかったのだろうか。


「いきなり伏せたり壁に張り付いたり。誰かをつけてるんですか? つけてるんですよね?」


 周りに味方がいるので強気になっているんだろう。正義感を燃料にグイグイくる青年。

 騒ぎが起きていれば当然ジーンとチャチャも気が付く。


「怪しい格好の人だな。悪さでもしたのか」

「……もしかして」


 二人と目が合う。ジーンは気付いていない様だが、チャチャにはバレそうだ。ドジだからといって勘が悪いわけではない様である。


「さっきから黙って何考えてるんだよ。まぁ、何か悪さをする前で良かった。さあ、ついてくるんだ」


 青年に手を引かれる。恐らくこの街の治安維持部隊の拠点へと向かうのだろう。

 悪さをしていないのに連行されるとは、流石にやり過ぎでは? 


 部隊の隊長とは知り合いだし、別に悪いことしてないから問題ないけど。


「面倒だし、逃げるか」

「お任せなんよ! ――どろん」


 煙を巻き上げ小さな爆発音を残していく。無駄に演出が良い退場だった。

 ただ二人を除いて、突然の事にあっけにとられる民衆。どこにいったと探すも、全然見つからなかった。そんな騒ぎは半刻程度で収まる。

 

 これは街の都市伝説として語り継がれることになる話。この街には珍妙奇妙な二人組の守り神がいると。

 何故守り神にされたのかは誰にも分からない。


 そんなこんなでお昼。幼女組が待つお(うち)へ帰る時間になる。


「よよよ~、寂しくなるんよ」

「またすぐ来るから」


 別れを惜しむよっちとルークス。よっちも一緒に来ないのには、色々と理由があるらしい。ここは大事な座標だとかなんとか。

 

「チャチャもジーンも元気でよんよん」

「はい、ルークスさんも言ってますけどまた来ますから」

「よっちさんもお元気で」


 それぞれ別れの言葉を交わす。さあ出発だという所で、ルークスから何かを手渡される二人。宝石だろうか。何か文字? 模様が刻まれている。


「ん、これは?」

「ズバリ転移するための道具。さ、魔力を込めて」


 二人は言われた通りにする。すると、仄かな光に包まれていく。かと思えば訪れる転移の感覚。

 よっちに見送られ、三人は転移していった。


 変わる景色。見覚えのない部屋。しかし、覚えのある気配。

 ルークスが部屋を出ていったので、続いて部屋の外へ。


「わーっ! おかえり!」


 途端に飛びついてくるアイ。対象はチャチャにだったが。


 部屋の外は見覚えのある空間だった。地下にあった部屋だ。転移してきた部屋は、入るな危険と注意書きがあった場所。この家で唯一入ったことが無かったと言っていい部屋。それが転移部屋? だったのだ。


「みてみてっ、つくったの!」


 遅れて姿を見せるユイリイ。手には沢山のお花で作られた輪っかがある。


「ちゃーちゃにあげるね」


 次いでやってきたのはレイ。メイに手を引かれ、反対の手には姉達と同じように手作りのプレゼントがあった。当然だと言わんばかりに、ジーンには何もない。


 あ、目あったよね今。アイちゃんそれはちょっと悲しいけどなぁ。おかえりの、その一言ぐらいは言ってくれるものだと。

 そう思っていたジーンは項垂れる。


「二人ともおかえり」

「わっふ」


 最後にリシオとシロが入ってくる。二人にはおかえりを言ってもらえたので、少し安心するジーン。


「その咥えてる物は?」

「わっふ」


 ジーンにも贈り物があったらしい。シロの唾液で少々濡れてはいるが、それでも滅茶苦茶嬉しいジーンだった。


「ありがとうなぁ! シロぉ」


 嬉しさのあまり抱き着いて、もふもふしまくるジーン。


「ばっふ」


 べしっとすぐに前足で封殺されてしまった。だが、それを見て幼女組は笑っていた。チャチャも、ルークスも、リシオも。


 ここにミィがいれば。ミーチャがいれば。ゼーちゃんがいれば。そんな事を考えてしまうジーンだった。


「で、どうして転移が出来るのに、わざわざ足を使って移動したんだ?」


 昼食後、食卓を囲んで会議もとい尋問が行われていた。


「この世界に慣れてもらうためだよ。それに戦闘訓練もしておきたかったし。ほら、実戦にいきなり魔人とは戦えないでしょ?」


「……なるほど、な」


 納得。尋問を終了する。

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