第六十八話 脱落者
短めです
魔人とルークスが武器をぶつけ合う。それをただ見守る他三名。
いや、少し違う。既に三人も行動を開始していた。自身の強化に結界、隙を見逃さないために備えていた。
「よっちにお任せっ」
掛け声とともに一帯に結界が張られる。不思議と体が軽くなったように感じる。
「ぬう、煩わしい」
重い一撃を軽々しく打ち込む魔人。結界が張られると動きが遅く、ならない様だが嫌そうにしていることが伝わってくる。
「なるべく、有利な環境づくりを、こっちもしないとねっ!」
魔人の攻撃を受けつつ、ルークスが言った。何十という魔人達と戦ってきたんだろう。対策も考えられていた。
何十回もの衝撃が走る。空気が震え、木が折れ、地面が割れる。大気が唸り、森が怯え、大陸が抉れる。
「ジーン達も、好きなようにやってくれ。もう、遠慮する必要は無いからね」
右へ左へと激しく移動し、魔人を相手にするルークス。死を幻想させる一瞬。その一瞬が延々と繰り広げられる。
「「分かった(わ)」」
とは言ったものの、簡単に突っ込む訳にはいかないだろう。油断しなくても、武器ごと斬られる可能性がある。
「っ! てぇなぁ!」
魔人の横腹辺りに傷がつく。頭からは煙が上がる。自分に向けられていた意識が逸れた隙に、ルークスが剣を振り抜く。
「遠くからチマチマと攻撃とはな! っ!」
魔法攻撃でルークスを援護するジーンとチャチャ。傷はすぐに回復されてしまい、見た目は効いていないように思えてくる。しかし、魔人の魔力も無限ではない。撃つべし撃つべし。爆発、斬撃、雷電。ありったけの魔法を。
「ちょっと、俺にも被害がぁぁっつい!」
しまった。ルークスの動きと魔法発動の瞬間が噛み合わなかった。まぁ、熱いとか言ってるが反射的なものだろう。その辺の備えは万端なはずなのだ。少しは勘弁して欲しい。
「自分がルークスの立場だったら?」
「絶対にヤダ」
「ですよねー」
都合のいい奴? なんとでも言え。今を生き残れば正義なのだ。
……いや待てよ? さっきのって、よっちの魔法じゃなかったか? 俺に上手く合わせて、効果を増幅させて。結果ああなった訳で。
「むっふー、手柄は二人のものなんよ。よっちは今回、サポートに回るんよ。しかし! それは気付かれちゃ意味は無いんよ。うむうむ」
何やら満足そうなよっち。気づいてますからね? 後でチクっちゃいますからね?
「一本追加っ。さてさて、あと何本再生できるかな?」
三人の援護もあって、順調にダメージを与えていくルークス。そして、腕を斬り落とされすぐさま距離を離す魔人。
「っぐぅ」
しかし、新しく背中に傷が増える。一瞬、完全にルークスへ注意が向いていた。その隙にジーンが斬りつけることに成功したのだ。本当は真っ二つにするつもりでいったのだが、上手くいかないものだ。
「ぬんっ!」
だが、魔人も斬られた後の反応は早かった。振り向くのと同時に、魔人が武器を横薙ぎにする。ジーンは剣を振り下ろす動作のまま。これでは防御が間に合わない。
「させないっ!」
すかさずチャチャが助けに入る。武器を構え、受け止める事だけを考える。絶対に守るんだと、望んだ未来を掴み取るために。ただそれだけに集中する。
私がジーンを守るんだ!
ゴゥッ!
凄まじい音が響き渡る。結果として、魔人の攻撃を受け止めることに成功したチャチャ。しかし、喜んでばかりもいられない。次の一撃がすぐそこに迫っていた。
二人に比べ、魔人は一つ一つの動きの間隔が短い。二人が一歩進めば二歩進み、二人が武器を振るえば防御し反撃を。能力の差がはっきりと出てきていた。
だが、その一撃は空振りに終わる。チャチャを攻撃の軌道から外れるよう投げ飛ばし、振り抜かれた腕へ更なる攻撃を繋げる。
簡単な話だ。二人で一人になれば良い。魔人=ジーン+チャチャとすればいい。それに、今はルークスもよっちもいる。完全に魔人よりも四人の連携の方が上になるのは間違いない。
「――くはっ」
しかし、ジーンは腕一本を引き換えに強烈な蹴りを貰ってしまう。チャチャを遠くへ投げ飛ばしたのがいけなかった。
腹部に鈍い痛みを感じるのとほぼ同時に、背中にも衝撃が走る。身体が何度か跳ねる。
それでも体勢を立て直し、追撃を警戒する。だが、遅かった。既に目の前に刃が迫っていた。結界を張り、新しく武器を取り出し、魔人の足場を崩す。生存の可能性を求め、最後まで抗う。
「!? いやぁぁっ!!」
叫ぶ声が聞こえた。チャチャの声だろうか? しかし身体は動かない。目も、匂いも、感覚も。何が起きた?
声が聞こえたのは一瞬で、今は何も分からない。
意識も、急に。あ……れ……?