第六十七話 魔人
何か問題が起きることも無く、標的がいるとの場所まできていた。今回は森の中に潜んでいるようだ。しかし、索敵に対して妨害がされているらしく、上手く位置を掴めないでいた。
少しづつこっちの魔物に対しても、レーダー、もとい探索魔法で察知出来るようになってきた二人。だが、なんとなく分かる程度。初心者同然の二人は、今回役立たずであった。
敵も妨害元がバレないように上手い事やっているらしい。中々痕跡すら掴めずにいた。勿論その途中で別の魔物と遭遇もする。
時間が経つごとに消耗し、一旦出直すことに。比較的安全な場所――魔力が薄い場所。今回は湖の近く――に移動し、昼食を摂る。
「美味しいよ、これ。およおよちーちゃん流石よ!」
よっちにも大好評なチャチャのお弁当。ミィが作ってくれていた、魔力回復を促す薬草もはいっている。離れていても助け合っているんだと少し感じた。
十分に休息をとって、再び魔物探索へ森の中へ入っていく四人。なるべく魔力濃度の高い場所へと進んでいく。
言ってみれば、敵の戦いやすい場所へと誘われているようなものだ。自分が最も力を発揮させられる場所に待ち構えているのだろう。
「よよよ~、ここは魔力が濃ゆいよ。敵さんも相当な力を蓄えて、待ち構えてるはずだよよ」
「何度も言ったと思うけど、今回の敵は一味違うからね」
何度もルークスが言っていることがある。ジーン達が魔物と呼ぶ存在がどういったものなのか。
「魔人、か。やっぱ、そんなに違うものなのか」
「全然違うね。よっちとチャチャぐらい違うね」
「う~ん? えっと、ちょっと分かんないかな、あはは……」
魔人は人であるとルークスは言う。ジーンやチャチャ、リシオやアイ達と同じ。人間は神が創った生命の一つ。魔人も同様に神によって創られた。起源は同じであるらしい。
「でも、魔人は敵、なんですよね?」
「そうだね。僕も全ての事実は知らないけど、魔人とは大昔に争っていたらしい。あちら側を魔人、こっち側を人間としてね。結果だけ言えば僕たち人間が勝ち、生き残った」
ルークスも亡くなった師匠に聞いた話らしい。何をどう線引きしていたのか、当時の戦力差や個人の力量などは詳しくは知らないらしい。
「歴史のお勉強はいいよね……ほら。敵は、近いよ」
空気が変わった気がする。同じ森の中なのに、全く別の場所にでもいるかのような。
不気味な感覚だ。
「――貴様らが、噂の魔人殺しだな」
低く声が響いた。
「我らが滅せられてから随分と時間が経ったようだが、怠けてはいないようだ」
突然現れた魔人に対し、武器を構えるジーンとチャチャ。いつでも動けるように様子を窺う。
「ふん、そっちの二人は新人か? 舐められたものだな」
「悪かったね。ほら、二人も座りなよ」
見れば、ルークスもよっちが腰を下ろし始めた。魔人は最初から座っている。
今のところ敵意を感じないし、取り合えず武器をしまう。ただ、油断だけはしないように、ゆっくりと座る二人。
「ハッ、新人といっても、少しはやるらしいな。気を抜いていれば、命は無かった」
「ま、その時は俺が止めてたけどね」
「……クククッ。面白い」
双方が視線を交わす。威圧感が増し、緊張が高まる。
「貴様らは、何故我らを滅ぼす」
「お前たちが俺たちを滅ぼそうとするからだ。害が無いのなら、何も問題は無かった」
「……我は、この時代では何もしていないはずだが」
「まだ、な。だからといって、力を蓄える時間を与える理由もない。完全に力を取り戻した時、お前は何をする?」
僅かに殺気を感じる。魔人からではなく、ルークスから。
「クックック、我らは相当に恨まれているようだな」
「……すまない」
ルークスからの殺気を、何でも無かったかのように振る舞う魔人。余裕を見せている。それでも油断が無いのが恐ろしい。
「力を手に入れたら何をするか、だったな。勿論、全ての破壊だ。貴様らの創ったもの全てだ。貴様らさえ消えれば、次は我らの世界。我らが生を謳歌するのだ」
抑え切れない喜びから、笑みが零れる魔人。
「その前に貴様らを片付けねばならんが、どうだ? 我が下僕となれば良いようにしてやる。好き放題出来るぞ?」
突然の勧誘来ましたわ。
「魅力的な話だが、お断りだね」
当然ルークスが断わる。
「ジーン達も気を付けてよ。うまーいこと言ってくるけど、力を蓄える時間稼ぎなんだよ。まぁ、多分本当に好き放題させてくれるんだけど、よよよ~って騙されないよーに」
よっちが小声で教えてくれる。好き放題はさせてくれるらしい。
「フンッ、そうか」
魔人も大して気にしていないよう。仲間になったら運いいな、こいつ馬鹿だわ、ワロス。程度だったのだろう。両者が立ち上がるのを見て、ジーン達もそれに倣う。
「――我が眷属の繁栄を」
「――皆が共に在る世界を」
互いに武器を掲げる。
「今更後悔するなよ、小僧」
「言ってろ」
武器を下ろし、互いに背を合わせる。
「……」
「……」
静寂の訪れ。森の中だというのに。背中がぞくぞくと、何かが這うような感覚。
「……」
「……」
まさに、嵐の前の静けさ。静から動へと切り替わる、際限なく高まっていく興奮。一度きりのその瞬間。
「死にさらせや魔人がぁ!」
「めったんこぽっちにしちゃるけぇ!」
怒声と共に二人の武器がぶつかり合う。
魔人討伐開始だ。