第六十四話 あめゆりれ
獲物が切れるのをイメージ。柔らかいものを切るように、抵抗されることも無く一瞬で。自分の剣の軌道、一直線に振るうのを意識。角度、速さ、最も良いと思う瞬間を意識。過去最高の状態を今ここで創り出す。
想い描くのは真っ二つになった的。成功した未来だけを頭に浮かべるのだ。想い描くのは全てを可能にする力。理想の自分だけを頭に思い浮かべるのだ。出来ないなどありえない。不可能などありえない。
「……」
一閃。全ての結果が決まっていたかのように。寸分の狂いもなく。
「わ! ジーンすっげぇ!」
リシオが興奮して言った。幼女達もパチ、パチ、と控えめだが手を叩いてくれた。
「今は、これが限界だな」
しかし、本人はあまり納得がいっていないようだった。ルークスやチャチャ、シロも反応はいまいちだ。
「まー、真っ二つになったのは良いんだけど」
「時間がね」
「わふっ」
「だよな」
問題は実戦で使えないことだ。その点で言えば、チャチャの方が良かっただろう。ちなみに、時間をかければチャチャでも両断できた。
「イメージを固めるのは出来てるけど、相手は待ってくれないからなぁ」
「両立が難しいんだよね」
「才能ってより慣れの部分の方が大きいからね。何度も繰り返すしかないよ」
ルークスも今の状態にもってくるまで、相当な時間をかけたらしい。初めから出来る人は少ないようで、こればかりは修練あるのみなんだとか。
「実戦の中で掴むものもあるから。今はまだ許可できないけど、もう少ししたら俺の仕事に連れてってあげるよ」
「二人だけ!? ねえ兄ちゃん、俺はまだ駄目なの?」
少し不満げにリシオが聞く。少し悩むルークス。
「リシオも全く駄目って訳じゃないけど……分かった。今度仲間にも話してみて、いいよって言ってくれたらな」
「兄ちゃんありがとっ!」
「リシオが頑張ってるの知ってるしな。でも、外では俺のいう事が絶対。約束できるか?」
「分かった、約束するよ!」
危険な事をさせないのも大事だが、それでは成長しないこともある。命に関わるといっても、考えてみればこの世界のどこにいてもそれは同じな気がする。絶対に安全だと断言できる場所は無いし、それならば全力でサポートできる状況の中で経験を積ませるべきだと判断したのだ。
「まずは一週間。二人はそこで判断しようかな」
二日後にまた仕事があり、帰ってきたときの状況でジーンとチャチャは判断。リシオは仲間の許可を貰えたら同行。アイ、メイ、ユイ、リイ、レイ。それにシロ、子ペットはお留守番ということになる。
昼食を食べ、やっぱり美味いとルークスが絶賛。チャチャは、今度お弁当を作ってくれとお願いされていた。仲間に話したら是非にと言われたらしいので、量も多めにと注文が入る。それを了承し何を作ろうか悩んでいたが、チャチャなら何を作っても美味しいと思う。
その後は修練、の前にお昼寝を挟み、皆で列を作って横になっていた。日向が心地よく、良い気分転換になったと思う。張りつめた空気を持ち続けるのは大変だし、なにより幼女達にプレッシャーをかけ過ぎたくないとルークスが思っているのが分かる。適度に休息を入れようと、考え方を少し改めたジーンだった。
その後、ルークスが帰ってきてから二日が経った。既にルークスは仕事に出かけており、リシオもいない。仲間と連絡を取り、リシオの同行が許されたのだ。まだまだ技術はジーン達に及ばないが、魔物に対抗できるだけの力はジーン達よりも身についている。ルークスもいることだし、成長して帰ってくるだろう。
「ねー、おなかすいたぁー」
「チャチャお姉ちゃん、何か作ってー!」
「えへへっ、ここ、やぶけちゃった」
二人がいない間、当然子供の面倒を見ることになる。アイのいたずらは勿論の事、それ以外にも苦労した。おやつを作ってあげたり、破れた服を直したり。本当に大変だった。
次女のメイは、しっかり者。アイよりも頼られている場面が多い気がする。色んなことに気を配るのはありがたいのだが、ちょっと背伸びしてしまうのだ。任せて! と張り切るのは良いが、余計な仕事を増やしてくれる事がしばしば。いい子ではあるのだが……これから学んでいって欲しい。
「これ、お姉ちゃん食べてっ」
「もう、メイはしょうがないなぁ」
「こら、メイは自分で食べなさい。アイも、お姉ちゃんならダメな事はダメって言ってあげること」
「「はぁい」」
好き嫌いは程々に。
三女ユイ、一番魔法の制御というか使い方が上手い。負けず嫌いで、自分が出来るようになるまでとことん挑戦する。のは良いのだが、やはりどうしようもない事もある訳で。まだ私には出来ないとは理解するものの、それでも悔しいものは悔しいのだ。その悔しさをエネルギーとしているのか分からないが、わんわんと泣いてしまう。
「びぃ、っく」
「ユイちゃん、どうしたの?」
「アイはっ、できるのに、ひっく、ユイはっ、出来なかった」
「そう、きっとユイちゃんも出来るようになるから」
「うっく、えぉ…………うん」
その気持ちを忘れなければ、きっといつまでも成長出来ると思う。
四女リイ。ユイとは双子の関係である。明るい性格であり、常に笑顔で元気を振りまいている。姉たちの真似をするものの、上手く出来ない事が多い。それでも笑って乗り越える姿は、姉のユイとは逆だと言えるだろう。そんな彼女であるが、実は人見知りである。この数日で打ち解けてくれたので良かったが、最初は全くしゃべってくれなかったのだ。笑顔も無く、姉達を盾にしていたほど。
「こんにちわー」
「はー……ぃ…………」
「あ、リイちゃん、だったかな。ルークスいるかな?」
「…………」
「あっちょっと待っ……まだ、僕には慣れてくれないのか……」
知らない人にほいほい付いていくよりマシだが、少し落ち着くといいかな。
五女レイ。皆のアイドル的存在。いつも子ペットを抱えており、とてとて歩く姿がなんとも可愛らしい。率先して子ペットのお世話をしているのは、お姉さん気分を味わっているのかもしれない。外で遊ぶのが好きみたいだが、昔から体が弱いのか体調を壊してしまうみたいだった。気づけばふらっと歩き回っているので、ルークス達も心配しているようだった。ここ数日は調子がいいようで元気に走り回っていた。
「あ、ちょうちょ!」
「わふっ」
「あ、みみずさん!」
「わ、わふ」
「あ、ジーン!」
「わふぅ~」
ただ、一人で歩き回るのは止めていただきたい。
より仲を深めることが出来たと思う。皆いい子で、皆個性的で。一日一日が物語のように過ぎていった。
数日が経った頃、予定通りなら今日ルークス達が返ってくる日。そんな日にチャチャが宣言する。
「今日はお部屋のお掃除をします」
ミカ 「これ、随分と僕たち出てないけど……大丈夫?」
イッチー「問題ないんじゃないか? 新しい仲間? も増えてるし」
ミカ 「いやでも、何度も召喚に試みた! みたいなシーンがあってもいいんじゃないかなぁ」
スイ 「あるじたち、たのしそう……」
クー 「でも、ジーン達でも倒せない敵がいるみたいだし。ちょっと怖いかも」
チー 「確かに。我らの力では役に立てん」
ヒー 「お? 修行か!? 修行なのか!?」
フー 「ヒーは少し落ち着きなさい。でも、何か対策を考えないと……ですね」
ミカ 「う~、僕はジーンと一緒に強くなりたいのに……」
イッチー「まぁ、確かに。近くにいられねぇってのは、少し……な」
フー 「あら、寂しいんですね」
イッチー「……悪いかよ」
チー 「認めた……だと?」
ヒー 「珍しいことだな」
クー 「いっつも素直じゃないんだから。普段からそうすればいいのに」
イッチー「うっせぇ。絶対チャチャには言うなよな。こんな事言ってたなんてバレたら……」
スイ 「すいがいってあげよっか?」
イッチー「やめとけよ! 俺、言うなって言ったばかりだろ」
ミカ 「はぁ~」
イッチー「そこ、ため息やめい」
ミカ 「むぅ……それじゃ、修行しながら対策を考えるって方向で。解散!」
一同 「はーい」「分かった」「承知」「が、頑張るね」「任せてください」
イッチー「……また、会えるよな」
ミカ 「なに、ちょっと諦めてるの?」
イッチー「……」
ミカ 「イッチーがそんなんじゃ、チャチャに笑われるよ」
イッチー「……そうだな。俺が、笑って迎えてやらねぇと、だな」
ミカ 「イッチーはどこ行くの? やっぱり、あそこかな?」
イッチー「あそこが何処なのか知らねぇが、俺は昔いたとこに戻るつもりだ。やっぱり、あそこが一番集中できる」
ミカ 「僕はどうしよっかなぁ。今までジーンの傍から長い間離れたこと無いし。うーん」
イッチー「それなら、ミィについてやっててくれや。俺もちょくちょく会いに行くけど、誰かが傍にいてやった方がいいだろ」
ミカ 「そうするよ。ドーシルとかにも、色々教えてもらおっと」
イッチー「それじゃ、また」
ミカ 「うん、またね」