第六十三話 質問
日が昇り始めた頃、ベットを抜け出す。子供達が寝ていることを確認し、外へ出る。不安が消えたわけではないが、朝日を見ているとそんな気持ちが安らいでいく気がした。
軽く体操をして、澄んだ空気を身体いっぱいに吸い込む。荒廃した世界に見えるが、見た目だけらしい。気分が良くなったところで周囲を見回る。
家の傍には畑がある。収穫に向けて元気に育ってくれているようで何よりだ。少し離れた場所には大きな木がある。この世界を浄化させまいかと、青々とした葉を纏わせている。赤系色の多い中では存在感が大きい。そんな木の足元には少し大きめの石が一つと、手のひらサイズの石が五つ。大きな石はお墓で、幼女組の親が眠っている。
大きな石の方を綺麗にしていく。風に乗って飛んできた砂を落とし、周りの落ち葉をどかす。
家に戻ってみれば、眠りから覚めた子供たちを見かける。子ペットを抱きかかえ、引率者の後に続いて食卓のある部屋へと入っていく。のそのそと定位置へと向かっていき、ちょこんと座る。子ペットをそれぞれが装備しているため、なんとも愛らしい。
「はい、お待たせ」
そんな五人は、用意された朝ご飯を夢中で食べていく。野菜のトレードはチャチャが禁止したため、渋々と完食を目指して手を動かしていた。宿敵を食べ終わると、すぐに皿を持って外へ出ていく。綺麗に洗った食器を元あった場所へ戻し、また外へと出ていく。
「なあ俺、昨日寝る時必殺技思いついたんだよ! 後で見てくれないか?」
部屋を出ていく五人を見送り、未だ食事中のジーンに話しかけるリシオ。少年よ、よくもまあ毎日必殺技思いつくよな。
「分かった、いくらでも見てやる」
技術としてはまだまだ磨かなければならないが、逆に勉強させてもらっていることもある。この世界の魔物に対してダメージを与える方法だ。
「私も稽古に混ぜてもらっていいかな」
勿論断る理由もない為、三人で修練をすることになった。片づけが終わった後、早速とばかりに外へ出て向かい合う。まずは必殺技を見せてもらうことにした。
その間、幼女組は木の下に集まっていた。人数分あった石をそれぞれ磨いているのだ。最初はごつごつと角があったらしいが、今は大分丸みを帯びてきている。毎日の習慣として行っているらしく、一時間程休まずやっていた。すぐそばでシロが見守っているのも見える。
この世界に来て四日目になる。ルークスは何処かへ行ってしまったが、今日あたり戻ってくるはずである。何をしてるのかリシオ達に聞いたところ、ルークスは世界を救う救世主なんだとか。
「昔守ることが出来なかったから、今度こそ守るんだっていつも言ってた」
「ルーはねー、すっごい強いんだよ!」
「優しいし!」
「ねー!」
「ねー!」
「ルーのことすきー!」
ルークスは、みんなから信頼されているようだ。
「俺、助けてくれた兄ちゃんの為に強くなろうって思うんだ。勿論アイたちも守りたいけど、それ以上に兄ちゃんと一緒に戦いたいんだ」
この三日でリシオとも幼女組とも仲良くなった。色んな話を聞いて、色んな事を話をして。最初は心配だったが、幼女組も心を多少は開いてくれた。上からアイ、メイ、ユイ、リイ、レイ。ユイとリイは双子らしい。
「ジーン!」
「おっなんだ?」
アイに呼ばれて振り向くジーン。同時に、顔面に勢いよく水がかかる。
「ぶふぉ!」
「あはは! ひっかかった~!」
いたずらが成功し大笑いをするアイ。アイは我が儘でいたずらっ子である。ルークスもリシオも困っているらしいが、悪質なことはしないため彼女の長所として見ているらしい。いたずらをするのも、妹を笑わせるため、我が儘を言うのも妹のため。全ては妹のため。
「悪い子にはお仕置きが必要かなぁ~?」
「わぁ~! みんな逃げろぉ~!」
「きゃぁ~!」
いや、お仕置きするのはアイだけだって。でもまあ、こんな感じで鬼ごっこが始まるわけだ。しかし、ただの鬼ごっこであるはずもなく。
「……てぇーっ!」
外に出たところで、アイの号令によりジーン目掛けて魔法が放出される。部屋の中でやらない時点で、皆いい子であるのが分かる。
この鬼ごっこは魔法の訓練の延長のようなもの。元々は、ルークスが魔法を使ってズルしたのが始まりなんだとかなんとか。
「お返しだっ!」
すべての魔法を反射させるジーン。水や風は問題ないのだが、火や岩をそのまま返すわけにはいかない。
「あっ! つくない……」
「ぶべっ」
あっつくない火、クリームのようにへばりつく泥。それを見て笑いあう姉妹。
「ふっ、俺を相手にするには二十年は早かったな」
「早かったな……じゃないわよ! 子供相手に何してんの!」
チャチャに叱られるジーン。服を汚すな、魔法は甘んじて受けろ、早く着替えをさせろ。散々な言われようだ。ちょっと過保護すぎるんじゃないかとは思いつつ、言われた通りにする。
「ジーンはお姉ちゃんのこと好きなの?」
アイは突然何をおっしゃってるんだろうか。お願いだからそんなにキラキラした目を向けないで欲しい。ほら、チャチャの顔が怖いから。
「どうして、そう思ったんだ?」
何かいい案が出るまで、少し時間稼ぎをすることにする。子供達の前で嘘はつきにくい。ここははっきりと思っていることを言うべきか?
「だってジーンとお姉ちゃんはパパとママみたいなんだもん。お姉ちゃんはジーンのこと好きでしょ? パパとママはどっちも好きなんだよ? ねえ、ジーンも好きなの?」
まだ幼女のくせに、なんて饒舌に語るんだこの幼女は。
「どうなの、ジーン?」
ほら、ここぞとばかりにチャチャが入ってきた。他の四人もじーっと見てくる。実に居心地が悪い。俺は、と言いかけたところで皆の目線がジーンから離れる。
「みんな~、俺が帰ってきましたよ~。いい子にしてたかな?」
「あ、兄ちゃんおかえり!」
タイミングが良いのか悪いのか。幼女達がわらわらとルークスに群がっていき、チャチャは舌打ちをする。え、君、前からそんな感じだっけ?
「おかぁーり!」
「ただいまレイ。寂しく無かったか?」
「うん、ねーねがいた。ぺろ」
「そうかそうか、アイ達も大丈夫だったか?」
「えっとねー、いっぱい遊んでもらった! ぺろ」
話を聞きながら、ペロペロキャンディーを渡していくルークス。それに対し幼女達は、嬉しすぎてきゃっきゃっとはしゃいでいる。どこでそんなものを手に入れたのだろうか。
「リシオも助かった、いつも留守番悪いな」
「大丈夫、今回はジーンもチャチャもいたし楽しかったよ!」
嬉々としてこんな事やあんな事があったと、この三日をルークスに伝えるリシオ。幼女達も混ざって、より一層賑やかになる。
「チャチャ達もいきなり留守にして悪かった」
「いえ、世界の為に頑張ってるって聞きましたから」
「いやー、そんな大げさだよ」
ルークスは若干困ったように会話しているように見えた。気のせいだろうか。
「ま、そんなことよりもだ。二人は何か掴んだかな?」
「リシオに教えてもらったが、まだまだって感じかな」
「うーんとね、私もやっとコツを掴み始めたってところかな」
三人が話しているのは、この世界の魔物に対抗する力の事だ。ルークスがいない間、リシオやシロに手伝ってもらいながら訓練していたのだ。
「よし、それじゃこれ切ってみて。最初はチャチャからやってみようか」
ルークスが出したのは魔物の一部らしきもの。普通なら問題なく切れるはずではあるが、この世界のもの。この数日で学んだことを思い出しながら、チャチャは剣を構える。
「……」
ぼそぼそと言葉として聞き取れないが、何かを呟くチャチャ。その後、振られた剣は獲物に食い込んでいく。息を吐き、剣を引き抜いていく。断ち切る事が出来なかったが、ルークスはパチパチと手を叩いていた。
「成長が見られて嬉しいよ、次ジーンね」
チャチャと同様、魔物の一部を出され、その的を前に剣を構え集中していく。品定めをするようにルークスが見ているが、そんなのは関係ない。自分が出来ることをやるだけだ。