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第五十九話 敵アジト侵入

「よし、やっちゃってくれ」


「せーのっ……だらっしゃぁぁい!」


 どんがらがっしゃーん! うーっうーっうーっ、侵入者、侵入者。戦闘員は直ちに……。


 ミカに連れてこられた奴らのアジト。潜入方法はいたって簡単。入り口の爆破である。見た感じ見張りは居なかったのだが、微かに魔力を感じた一行。結界として張られている空間の中に入れば敵に侵入を悟られてしまうだろう。変にコソコソするよりも奇襲、早期決着がいいと判断したのだ。


「……誰もいないんじゃない? これ」


「いや、そんなはずはないと思うんだが」


『そうだよ、僕の追跡だってバレてなかったもん』


『まぁまぁ、誰もいないにしても何か手掛かりでも掴めるかもしれないから』


「ふんっ、こんなに行動が速い奴らがそんなヘマするとは思えないけどね」


 しかし、いざ中に入ってみると人の気配がしない。ただ警報装置らしきものの声が響いているだけである。


『手分けして探索する?』


「そうだな、そんなに広くもなさそうだし。何かあったらすぐに連絡しようか」


「分かったわ。私はこっちから、行くわよイッチー」


『あー、足元気を付けろな? 暗いから』


「は? 遊びに来てるんじゃないのよ、言われなくたってぶしっ」


 文句を言いながら歩きだしていったチャチャ。だったのだが、何かに引っかかって転んでしまう。


『これは、縄?』


 ミカが罠? に近づいて確かめる。


「うまい具合に魔力で隠されていたんだな。常に周りに気を配らなきゃだな」


 逃げただけではなく罠も仕掛けているなんて。敵もやりおる。

 そうして二手に分かれ探索を始めた。特に何も見つかることも無く数十分が過ぎていた。


「……これは」


『どうしたのジーン』


「誰かいる……人、か?」


 地下への階段を発見し、降りていくとジーンが違和感を持った。


『しかも二人、いるよね』


 ミカも言われて気付く。ここでチャチャにも報告しておく。


「ちょま、ちょっと待って。何よコレ、イッチー早く助けてっ」


『あぁもー何だこれ!? ネバネバのぐっちょんぐちょんじゃねぇーか』


「あっ、冷たっ! やぁ、もぉ急に動かさないでよぉ」


『動くな動くなっ。俺まで巻き込まれ、たじゃねぇか!』


 あっちはあっちで大変そうだった。

 しかし変だ。ジーン達が探していた場所はそれ程、罠らしきものは多くなかった。連絡する度にチャチャ達は何かしらに対応している。


『敵はまさかドジっ子属性を加味して罠を……?』


「いやいや、流石にそれは無いだろう」


 ジーンは否定はしたが、もしそれが本当だとしたら、敵の情報収集能力は相当高いということだ。この襲撃がバレていたことと合わせると、否定できなくなってのでは。嫌な予感がする。


「ここだな」


 数分後、扉の前に立っていたジーン。チャチャはまだ合流していない。


『大きな部屋、なのかな』


 扉は横幅五メートル程あるだろうか。中は魔力で探知できないように結界が張られているらしい。微かに誰かがいるだろうな、と分かる程度である。しかし、それもわざと漏らしているように思える。


「チャチャが来るのを待ちたいが……」


『あっちも僕たちが居るのを分かってる感じだし、待ってもいいんじゃないかな』


チャチャが来るまで待つことにして数十秒後、それは起きた。


 ゴゴゴゴゴゴゴッ


 ゆっくりと扉が開いたのだ。待ちきれなくなったのだろうか。


『行く?』


「いや、開けてもらったのは悪いがチャチャを待と……ん?」


 ブウゥゥン


 ジーン達の前に四角い何かが現れた。そこに文字が書いている。


『何をしている。早く入ってきなさい。逃げたりするなよ、絶対だぞ。だって』


 紙媒体では無く、光で映し出されていると言えばいいのだろうか。実体は無さそうであるし、仕組みは分からない。


「早く来いったってな、無視だ無視」


 謎のメッセージを無視して数十秒後。再びメッセージが現れる。ちなみに扉は開いたままである。中は何故か見えない。認識を阻害する結界でも張られているのだろう。


『何故来ない。絶対来ると身構えた私が馬鹿みたいじゃないか。今度こそ入ってきなさい。絶対だ』


「無視だ」


 敵を前にして互いに何もしないという不思議な空間がそこにはあった。さて、チャチャはいつになったら到着するのだろうか。


「待たせたわねっ」


 待つこと十分。髪はボサボサ、服は汚れているチャチャが現れた。ここへ転移しようとしても、この建物の別の場所へ移動してしまっていたらしい。ジーンは何度か助けに行こうとしたが、転移は余計に危ないと分かり待つしかできなかったのだ。これが終わったら、対策を考えた方が良いかもしれない。


 転移するその度に、色々と仕掛けがあったと彼女は語る。

 

『でも変なんだよな。どれもいたずら程度の事しかやってこないんだよ』


 確かに変だ。転移を邪魔できる程の技術を持っているのなら、いくらでも()れるチャンスはあったはずなのに。


「油断してた訳じゃないのに、敵もやるわね。ん? これは何」


 丁度メッセージが現れる。


『それでねー、兄さまってひどいんだよ? 何でも最初は“絶対違うね”とか否定しかしないの!』


 既に届いたメッセージは二十通に達していた。途中からフレンドリーな文面に変化し始め、今では愚直まで書かれ始めた。それとこの子は兄がいるらしい。

 役者も揃ったところで突入していく訳だが、メッセージを見るに悪い子では無さそうに思える。そんな相手と戦うのは少し……と考えてしまうジーン。


 いやしかし、うちの可愛いミィを苦しめたのは許せん。話が通じる相手であればよし、そうでなければ仕方なし。お仕置きをしてやらねばなるまい。と思い直す。


 そんな思いを胸に、ジーンは扉へと進む。それに続き、ミカ、チャチャ、イッチーと入っていった。

 全身を舐められるような感覚にぞっとするジーンだったが、それも一瞬の事。真っ白な部屋の中、メッセージを送っていたであろう人物がそこにいた。


「やっと来た! 遅いよもぉー」


「……絶対来ないと言ったが、あれは嘘だ。騙されなかったな、妹よ」


「流石兄さま! 私を試していたんですねっ」


 いきなりバトル、という事は無さそうである。ジーンはいつでも戦闘を開始できるようにしつつ、二人に話しかけた。


「お前らが、ミィを狙ってる組織の一員ってことでいいのか?」


「いや、俺たちは違うぞ」


「そうだよっ。私たちがミィちゃんを狙ってるのです」


「……」


「……」


 兄妹で噛み合っていないみたいだが、どちらが正しいのだろうか。


「妹よ、言い方が気に食わんのだ。狙うではなく助けると言って欲しいものだな」


「でもでも、狙うって言った方がヒミツの組織っぽくない?」


「……確かに」


 いや納得するんかい。それにしても助ける? こいつらがミィを? 全然話がわからん。


「助ける? コソコソ襲撃を繰り返したり、魔物の軍勢を差し向けたり。それがミィを助けるためにやったと、そう言いたいのか?」


「あ、それは俺たちじゃないぞ」


 ん?


「それやったのは、私達とは別の派閥なの」


 別の派閥?


「その辺は知らないみたいだし、兄さま説明してあげてよ」


「任せておけ。そうだな、まず俺たちの組織は精霊を守るために日々働いている。組織自体は数千年前からあるらしいな。具体的に何をしているのかというと、魔物の討伐、高魔力地帯の調査、精霊資料の整理とかだな。昔と違って精霊が見える人員が減ったからな。今は魔物の討伐が主な役割だな」


「精霊が見える奴がミィ以外にもいるのか?」


「勿論だ。俺も妹も見えるな。そこの精霊、ミカだったか。彼にこの場所を見つけさせたのは俺だからな」


「ミカの尾行もバレバレだった訳か」


「うむ」


 他にも情報が得られた。この兄妹の名前、兄の方はドート。妹はドーシルだということ。

 ミィを保護するために動いていたのは彼らと、もう一つのグループがある。別の派閥ってやつだ。ドート達の派閥は精霊保護を目的に、別の派閥は精霊を好き放題使って世界の頂点に立つのを目的に。


 保護派閥に精霊と契約出来る人員が集まっているため、今までは征服派閥を抑えられていたらしい。しかし、ここ最近精霊を使役できる新人が増えたことでやることが過激になってきた。精霊を道具のように使っているようで、はやく何とかしてあげたいとのこと。もしミィが捕まっていたら、精霊と契約させる力を無理やり使わせられていたという。


「先に出会っていたのがジーン達で本当に良かった。俺たちにとっても、ミィちゃんにとってもね」


 もしかしたらその新人というのも、無理やりやらされているのかもしれない。そう考えると早く助けてあげたいと思ってしまうジーン。


「隷属契約なんて酷い事、はやく止めなきゃなんだよ」


 隷属契約、契約した精霊に拒否権は無く、命令されれば従うしかない。ジーン達がしているものとは別の契約方法だ。


「まぁなんだ。ここに来てもらったのはある人に会ってもらうためなんだ」


「ある人?」


「えっと、会うためにはあの魔法陣に乗ってもらう必要があるんだけど……」


 部屋の奥を指さしてドートが言う。敵だと思ってたみたいだけど俺ら違うから。だから信じて。なんて虫が良すぎるだろうと自覚があるドートは、申し訳無さそうにしている。


「嫌だと言ったら、諦めるか?」


 ジーンの言葉にドーシルが答えた。


「諦めないよ。私達も必死だもん。無理やりにでも連れてくからね」


 ドーシルから魔力が溢れ出る。


『あ、あはっ。これは、厳しいかな』


「イッチー、これ勝てると思う?」


『これに勝つ? その冗談面白いな』


 勝てないと悟ってしまう。


「私の勝ちだね♪」


 ドーシルが笑顔のままそう言った。


「ま、妹の強さの秘密もあの人に会えば分かるさ」


 悪い子達では無い、ジーンは話していてそう感じていた。ここは大人しくい従おうと決める。これがもし悪人だったら戦っていただろうなと思いながら。


「あ、でもでも、もしかしたら手出しちゃうかもね。あの子たちに」


 そんなことを言い、ドーシルが剣を抜くのが見える。


「本気か?」


「さぁ、そんな未来もあるかもねっ! ……って話よ」


 話が終わる前に二人の剣が重なり、戦いが始まった。


「させるわけないだろう?」


 白い靄のように、ゆらゆらとしたオーラがジーンを包んでいる。


「あれ、私に勝つつもりなの? さっき分かったでしょ、私の力は」


「ああ、そうだな。凄まじい魔力だと思うよ」


 三本の槍を作り出し、そのままドーシルへと飛ばす。氷、炎、雷の属性を纏わせた槍だ。

 それらの槍は、ドーシルの放つ魔力弾によって撃ち落されてしまった。


「だが、やらない訳にはいかん。ミィを傷つける奴を放ってはおけんからな」


「……妹よ、何故かは聞かん。が、明日からおやつ抜きな」


「……マジで?」


「マジで」


 チャチャはドートと戦っていた。隙を作って兄妹でやり取りをするんだから、ドートもかなりの実力なのだった。


「何、ごちゃごちゃ言ってんのよ!」


 そんなドートに一閃。チャチャの剣技がドートを襲う。


「おっと危ない」


 上手く避けたように見えた。が、ドートの服の一部が破けた。


『相手は一人じゃないってことだな』


 イッチーが魔法で補助したのだ。剣先から魔力で刃が伸ばしたのだ。


「なるほど、上手く魔力を使ったようだな」


「いつまでそうやって笑っていられるかしらねっ」


 チャチャも魔闘技で自身を強化し、果敢にドートへと攻撃を繰り出していった。


 数分後、最初に倒れたのはチャチャだった。終始素手だったドートに殴り飛ばされ、そのまま意識を手放してしまった。


 女の子に腹パンチなんて酷い事したもんだ。ドート、後でとっちめてやろう。


「こっちも、そんな、余裕ないけどなっ」


 ジーンにドーシル、お互いの実力はほぼ同じ。ジーンが傷を負わせれば、お返しとばかりに傷を負い返される。剣術はややジーンが上だが、魔法に関しては完全にドーシルが上であった。ミカがいてこの状況。魔力量が桁違いなのだ。ゼーちゃんも多かったが、それ以上だと思われる。


 上には上がいるなんて言うが、こうもポンポン出てくるのはどうなんだろうか。もしかしたら自分って意外に大したこと無いのか、と考えてしまうジーン。


「妹相手によくやる。だが、俺が加わったらどうだろうな」


 ドーシルの魔法に、ドートの打撃。防戦一方でなんとか耐えるジーンだが、このままでは勝てないことも分かる。少し躊躇ったあと、魔力を大きく消費する。


『やっと出番か。ちょっと遅すぎねぇか』


『主君よ、防御に関しては我に』


『あるじー、だいじょうぶ? キズはわたしがなおしてあげるね』


『マスター、私が来たからにはもう安心ですよっ』


『えとっ、僕も頑張るからね!』


『はっはー、全軍突撃ー!』


 精霊全集合に一気にテンションが上がるミカ。その勢いで派手な魔法をぶっぱする。正直止めて欲しい。


 精霊召喚は魔力を使う。召喚後も継続で消費し続けるのだ。日常生活での使用は問題ないが、戦闘となると話は別だ。直ぐに魔力が尽きてしまう。では何故今呼び出したのか。


五属性光線砲撃(みんなのちから)


 凄まじい一撃が放たれる。互いの力を打ち消し合うことなく、一つの魔法として完成しているこの技。足し算ではなく掛け算。まさにみんなのちから! 名前どうにかならんかったんか、これ。


「これは、流石に強力ね!」


 五属性光線砲撃(みんなのちから)を正面から受けるドーシル。一瞬で前方に何枚ものバリアを張り、そのバリアが気持ちのいいぐらい次々に破壊されていく。が、最後の一枚で完全に勢いが止まった。よく見れば何枚にもバリアが重なっているようだった。

 

「妹よ、魔力はまだ大丈夫か?」


「っくぅ、ちょっと今話しかけないで! 集中してるの分かるでしょ!?」

 

「…………すまん」


 徐々に五属性光線砲撃(みんなのちから)が押し返されてきた。


「だぁらっしゃぁい!」


 ドーシルが叫んだ。それは、完全に押し負けた瞬間だった。


「これでもダメなのかっ」


「はぁはぁ、これで、終わりかな?」


 息は荒いが、まだまだ戦えそうなドーシル。それにドートもいる。ならば、あれを使うしかない。


「クー、頼むぞ」


『い、いくよっ!』


 時間停止。残りの魔力量だと一秒程度しか発動できないだろう。だが、これに賭けるしかない。首元へ刃を突き付けるだけ。それで決着は付くはずだ。


 ジーンが最初に動き出し、ギリギリで魔法を発動させる。首筋へと刃が吸い込まれていく。そうはさせまいと、ドーシルの剣がそれを防いだ。防がれてしまった。


「時間停止って、君たちおっかないねぇ」


 その言葉を最後に、ジーンは倒れる。ドートによって意識を奪われてしまうのだった。


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