表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/347

第五十五話 みんなと

「えっとねー、実験だって言って魔法の標的にされたり、作った料理が不味かったから訓練を厳しくしたり、今思うと滅茶苦茶な人だったとらね」


 食事の後でゼーちゃんにおじいさん、もとい風の大精霊がどんな人物だったのか詳しく教えてもらっていた。本人からは優しい人だって聞いていたが、一つも優しいと思えるエピソードが一つも出てきていない。


「時々訪ねてくる精霊さんの相手をさせられて、大抵その時は戦うことになるのとら。だけど負けちゃうとすっごい怒鳴るし、その、ひどい事されたし。あれ、全然おじいちゃん優しくないじゃん」


 ゼーちゃんからは何一つ、風の大精霊の優しい部分を聞くことは出来なかった。


「でもでも、傷つくった時に優しく手当てしてくれたり、役に立つからって色々教えて……くれ……」


 やっとまともな部分が出てきたかと思ったが、途中でゼーちゃんの言葉が途切れる。


「何か、思い出したのか?」


「……誰か、おじいちゃんとは別にもう一人、あれ、えっと……」


 段々と話していく内に、風の大精霊とは別にもう一人誰かと過ごしていた記憶があることに気付いたらしい。顔や声など、よく思い出せないようだ。


「ってことは、ゼーちゃんの優しくされたっていう記憶は、風の大精霊じゃなくてそのもう一人との思い出ってことかしら」


「自分の記憶なのに、なんか、気持ち悪い」


 ゼーちゃんの体調も心配だったジーンは、この辺りで話を止める。一応このことは火の大精霊達にミカが伝えてくれている。明日、改めて考えを聞かせるとのことなので、この後はゆっくりと体を休めることにする。


「ねぇ、今日は一緒に寝てくれない?」


 ジーンに後ろから手を回す形で抱き着くゼーちゃん。こんなにも弱気な彼女は初めてなのだが、それだけ負担がかかってしまったのだろう。一瞬、口を開きかけたチャチャだが、ぐっとそれをこらえた。空気を読んだミィとチャチャは、すすすっと距離をとろうとする。


「チャチャも、それにミィも一緒に。だめ、かな」


 そんな二人を呼び止めて、ゼーちゃんが言った。二人は断る理由もない為、それを了承する。最終的に左からジーン、ゼーちゃん、ミィ、チャチャ、という順で四人並ぶ形で寝ることになった。


「おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 ジーンは、もし家族がいたらこんな感じなんだろうかと少し嬉しさを感じる。ゼーちゃんが加わったたことで、よりその思いが強くなっていた。


「(お兄ちゃん……よりも弟が欲しいかもな)」


 そんなことは少し昔だったら考えもしないことであった。ミィやチャチャに出会ったことで、ジーンの心境に変化があったことに間違いはない。


「(……ゼーちゃんはどうなのかな)」


 それは本人も自覚していることである。だからこそずっと独りだったゼーちゃんが望むのなら、出来る限りそれを叶えてあげたいと思っているのだ。伝わるぬくもりを感じながら、ジーンは眠りについた。


 朝、心地良い感触を感じ、ジーンは目を覚ます。一瞬焦りを感じたが、一緒に寝ていたことを思い出す。


「やっと起きたのね。ごはんもう少しで出来るからちょっと待ってて」


 身体を起こしたジーンにチャチャが声を掛けた。確かに美味しそうな匂いがしていることを理解するジーン。そして未だ夢の中にいるゼーちゃんの体を揺らした。


「うぅ……あとちょっと……だけ」


 無理やり起こす必要もない、そう判断する。そして、水球を魔法で作り出しその一部をコップに注ぐ。自分の喉を潤すためである。しかし、水球は消されることも無く、ふわふわと浮かばされていた。


「ちべたいっ! て、てきしゅうとら!」


 ぷかーっと向かった先は、気持ち良さそうに寝ていたゼーちゃん。突然の事にあたふたしている彼女はいつも通りの彼女だった。


 冷静になった彼女はジーンを追いかけまわし、それは朝食の準備が出来るまで続いたのだった。


「心配していたが、元気そうでなによりだ」


「ええ、本当に」


「わし、登場」


 丁度、朝食の準備ができた頃、打ち合わせていた通りに大精霊が集結していた。また、三人はぼっこぼこのジーンを見て、それぞれ安堵する。昨日聞いた状況から、暗い空気になっているのではと少し心配してくれていたのだ。そして、大精霊達は当たり前のように朝食の席に着く。


「何度食べても美味しいのお」


「ええ、本当に毎日でも食べたいくらいです」


「私も負けていられないわね」


 ご飯が食べたいから協力してくれているのでは? と少し疑ってしまう程だ。そんな三人と朝食を共にしているゼーちゃんは、緊張しているのか表情が硬い。大精霊という雲の上の存在の前では、それも仕方のない事なのかもしれないが。


 朝食後、片づけはジーン達に任せた大精霊たち。彼らは今からすることをゼーちゃんに説明し始めた。


「まず、封結界のレベルを確かめるわね。私もある程度なら解除出来るんだけど、相手があの人だから」


 そう言い、水の大精霊はゼーちゃんを横に寝かせるように促す。寝ているゼーちゃんの腹部の辺りに手を置き、目をつむった。再び目を開いたのは数十秒ほど経った後。


「これは、ちょっと厳しいわね」


 困ったわねと言い、状況を説明し始める。ジーン達も片付けを終わらせ、話に加わった。


「結論から言うと、私には、私たちにはあなたにかけられている封結界を解くことが出来ないわ」


「それほどに強力じゃったのか」


「はい。ただ魔力の籠められたものではなく、複雑に、何重にも施されています」


「三人で少しずつ剥がしていけないのか」


「ダメね。そう出来ないようになってるわ。糸の結び目って言えばいいのかしら、複数の結界が絡まるようにしてつながっているの。すべてを同時に解かないといけないわ」


 おとなしく聞いていたチャチャが疑問を投げかけた。


「結界なら無理やりにでも破壊できないの?」


 普通の結界ならば大きな衝撃や結界以上の魔力をぶつけることで壊せる。同じように出来ないのかとチャチャは思ったのだ。火の大精霊がその疑問に答えた。


「正しい方法ではなく、無理やり剥がせば精神崩壊に身体への深刻なダメージ、意識が戻らなくなるだろうな。普通の結界と違って、封結界は脳や臓器をキーポイントとして使う。何か制限をかけるためなのだから、それは自然な流れだろうな。だからこそ慎重にならないといけないのだ」


「それにな、風の大精霊は特にこの封結界が得意だったのじゃ。前に何がどうなっておるのか聞いた事があるのじゃが、ちんぷんかんぷんじゃったわい」


 難しいことを言っているようだが、実際大精霊達もよく分かっていないらしい。


「ただ、必ず封結界を解く方法も存在するわ。単純も複雑も関係ない、全ての封結界を解くための方法がね」


「え、でもさっき解けないって」


 終始暗い顔で話を聞いていたゼーちゃん。水の大精霊の言葉に困惑しつつ、言葉を発した。


「ええ、私たちには解けないっていうのは本当よ。だからあなたが、ゼーちゃん自身の力で解決するのよ」


 封結界に共通する絶対の解除法は、制御されていることから克服することだと水の大精霊は説明した。ゼーちゃんの場合はこの草原地帯からの脱出が一つ。二つ目は記憶を取り戻し、それを受け入れ前へ進む意思を持つことだ。


「記憶もいじられてたのか」


「ええ、そっちは封結界とは別だから今すぐにでも協力できるけど、どうする?」


 自分の記憶が曖昧だった理由が、ずっと信頼していたおじいちゃんのせいである。その事実を知って考えがまとまっていない中、そう言われても反応できないかったゼーちゃん。そんな彼女に手が伸ばされた。


「私は絶対に見捨てないから。ううん、私だけじゃなくジーンもミィも、ミカにイッチーだって」


 周りに目を向け確認する。頼りたい、そう思えるほどに自分が彼らの事が好きだと自覚する。だからこそ迷惑かけたくないとも思ってしまう。


「君はこれから、封結界が解けたら。何がしたい?」


 火の大精霊の言葉に対し、たった一言だけ。


「みんなと旅がしたい」 


 記憶を取り戻す準備ができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ