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第五十四話 ドロンと逃亡

「ゼーちゃんだけがここから、この草原一帯から出られない」


 そんなはずはないと思っても、事実ゼーちゃんを連れだせない。そのことにゼーちゃんもしょんぼりとしてしまっている。


「こっちは任せて。大精霊様達に色々聞いてくるわ」


「ミィも、色々聞いてくるね」


「頼む」


 そう言葉を交わし、チャチャはミィを連れて火の大精霊の元へと転移していった。転移していくのを見送った後、絶賛落ち込み中のゼーちゃんに話しかける。


「今まではどうしてたんだ? 急に出れなくなった訳じゃないんだよな」


「今までって言われても……私、出れないなんて知らなかったし」


「(ここ一帯から出たことない……ってことか?)どっか行きたいとか、考えたこと無かったのか?」


 暫く考えたゼーちゃんが答える。


「無い、と思うとら」


 何十年、何百年と生きていてここから離れたこと、近くのあの村にさえ行ったことが無いのは流石におかしい。


「おじいさんからは、何か聞いてないのか」


「聞いてないとらよ。もし何か知ってたら、絶対に助けてくれたはずだもん」


 それからしばらくの間、むむむ、と悩んでいたジーンとゼーちゃん。時間が進むにつれて、どんどんゼーちゃんの顔が暗くなっていく。


「少し乱暴だが、眠ってる隙に連れ出すとかどうかな」


 いくつ目かの案を出した時には、ゼーちゃんは既に諦めているかのようだった。


「どうせ、またダメとらよ。私はこのまま、このままずっとここにいることになるのとらね」 


 その言葉を聞いた時、スッとジーンは拳を突き出していた。その突き出された拳は、薄っすらと魔力を帯びている。


「えっと……?」


 ゼーちゃんは戸惑い、拳とジーンの顔を交互に見やる。


「……ん」


 ジーンは更に拳を突き出し、ゼーちゃんも早くと促す。それで伝わったようで、そろりそろりとゼーちゃんも拳を近づけていく。もう数センチといったところで一瞬、ジーンが拳をぶつけにかかる。


 パァァン!


 ぶつけられた拳から音が鳴った。


「仲間だっていう証、かな。全部任せろ、なんてカッコいいことは言えないけどさ、出来る限りの事はしたいんだ。諦めずに、やってみないか?」


 ジーンの言葉に、ゼーちゃんの顔に明るさが少し戻ったように思える。


「それなら、頼んでもいいかな」


「勿論。それじゃ、魔法かけるから横になって」


 ゼーちゃんは頷いて、身体を楽にさせる。目をつぶったゼーちゃんに、早速とばかりにジーンが魔法をかけていった。


「おーい」


「……」


 魔法は上手くかかったようで、声をかけても反応が無い。強い力を持った精霊に効果があるのか少し不安だったが、杞憂だったようだ。次はこの状態ならこの一帯から出られるようになるのか、それを確認する。


「……よいしょっと」


 ゼーちゃんを背中に乗せる形、おんぶの状態にさせ、ジーンは歩き出す。先程拒否反応を起こした地点が近づいてくる。


「……よし、大丈夫」


 草原の範囲は、魔力濃度が周囲よりも高い場所と今は定義している。境目まではあと数十メート。もう少し進む必要がある。


「……ぁ、ぅ」


 あと数メートルのところまで来たジーンは、一度ゼーちゃんの様子を目で確認する。少し汗が浮かび上がり、息も乱れてきた。一瞬ここで終わらそうかと足を止めるが、またすぐに足を動かし始めた。辛そうでも止めないでと言われたのだ。


 最後の一歩を踏み出した時、ゼーちゃんの様子が急変する。


「うぅ、あ、かはっ」


 その様子に気付き、焦って後戻りするジーン。安全だと思われる地点まで戻り、ゆっくりゼーちゃんを降ろしてあげる。


「*******」


 意識が無いはずの彼女が何か言った。しないよりはマシだろうと、回復魔法をかけていくジーン。その間も、彼女はずっと何かを呟いていた。


「****、****、***」


 カッと目を見開くゼーちゃん。ジーンが呼び掛けても反応が返ってこない。また魔法で眠らせようとするが、それはゼーちゃんによって防がれてしまった。彼女の体が浮き上がり、そして戦闘態勢に入った。


 とっさに身構えるジーン。同時に魔法が発動され、ジーンに襲いかかる。


「おい、しっかりするんだ!」


 ゼーちゃんは無表情のまま。機械のように敵を殲滅するためだけに動いているかのようだ。


「****、***」


ジーンは雨のように降り注ぐ風の玉を捌きつつ、どうするべきなのかを考える。


 これ以上ゼーちゃんの身体に負担をかける訳にはいかない。睡眠の魔法を何度かかけているが、効果が無いように感じる。本人の意識が無くやっていることなのか。それとも、意識はあるが体が勝手にという状態なのか。


「(……さっきと同じなら、意識は無いはずだな)」


 もしジーンが外敵として見られているのなら、倒される意外に何かゼーちゃんを止める方法はないのか。ダメージを与えて止めるのは、やはりゼーちゃんに負担をかけるのでナシ。それにこのまま戦い続ける自信は、ジーンには無かった。


「(外敵排除……外敵、テリトリー?)」


 やってみる価値あり、そう思える選択肢を思いつくジーン。


「それでは……ドロン!」


 ブワッと煙で視界を遮り、同時に転移するジーン。思いついたのは逃げること。外敵がいなくなれば戦闘は終わるし、ゼーちゃんが草原から出られない以上追っても来られないのでは、という考えだ。


 転移先は火の大精霊の元。突然現れたジーンに驚くチャチャ達は、すぐに駆け寄っていく。


「で、どうだったの? ゼーちゃんは……って、怪我してるじゃない!」


 まずはジーンに回復魔法をかけてあげるチャチャ。


「すまない、連れ出すのに失敗した。それに、ちょっと厄介なことになった」


 事情を説明し、もう一度戻って確認すると言うジーン。


「私も一緒に行くわ」


 一人でいい、そう言いかけたジーンだったが、チャチャの真剣な目を見て考えを改める。ゼーちゃんが心配なのはみんな一緒。ついこの間、何でも一人でやらないでとミィに怒られたのを思い出す。


「そうだな、もしかしたらすぐ戦闘かもしれない。覚悟はしておいてくれ」


 ジーンの言葉に頷くチャチャ。


「ちーねぇ……ゼーちゃんを、助けてあげてね」


 自分は行っても邪魔になるだけだと理解しているミィ。連れてってという言葉を飲み込んで、二人を送り出す。


「任せなさいっ」


 にっと笑い、ブイブイと人差し指と中指を立てるチャチャ。彼女なりに、不安を感じさせないようにしているのだ。そして、すぐに草原に戻った二人……とイッチー。


「……何ともないな」


 警戒するイッチーだったが、大きな反応は見つからなかった。


「あれゼーちゃんじゃない!?」


 ジーン達の反応を聞く前に走り出すチャチャ。その方向へ視線を向けると、確かにゼーちゃんが倒れているのが見えた。丁度、先程戦闘をしていた場所だった。ジーンが離脱した時点で力尽きたように倒れたのだ。


「しっかりして! 今、回復してあげるからね!」 


 つい大きな声が出てしまう程、必死に自分が出来ることをしようとするチャチャ。遅れてイッチーもそれを手伝い始める。ジーンは二人ほど回復魔法の練度は高くない。黙って見ていることしかできなかった。


「うぅ……」


 苦しそうに声を漏らすゼーちゃん。一応回復魔法はかけ終わったのだが、効果が薄いように感じる。


「……恐らく、精神的に負担がかかったんだろう。戦闘は自分の意志とは関係なく発生しているようだったし、無理やり連れ出そうとしてしまったからな」


「……誰かに制御されてるってことは無いのかな」


「大精霊様も、可能性はあるって言ってたしな。でも、だとしたら本人にも気付かれることもなくやったってことだよな」


「そんなこと出来るのか? ゼーちゃんが草原から外に出たことが無いってことは、相当昔からってことになっちゃうけど」


 ムムム、と顔に皺を作る三人。


『おじいさん、が怪しいんじゃないかな』


 いつの間にか現れていた分身体のミカが発言をした。本体は大精霊様の元にいて、ミィと一緒に話を聞いているのだ。


『そのおじいさんは風の大精霊様だったんでしょ? 封印とか意識操作とか、そういったことが得意だったみたいだし。火の大精霊様はそう言ってたよ』


「いや、でも、そのおじいさんってめちゃ優しかったんだろ? ゼーちゃんにそんなことするかなぁ」


『うん、そこが大精霊様達も気になってるらしくって、本人から特長とか何か聞いてみないと本当に仮説が合ってるのか分からないんだって』


「なら、ゼーちゃんが起きたら聞いてみないとな」


 話が一区切りついたところで、チャチャは夕食の準備に取り掛かった。お手伝いはイッチーが今回は担当するようだ。ミィを迎えに行った際に大精霊様達に料理を分けてくれと言われてしまった。今回は色々とお世話になったので少し力を入れて作ったのだった。


 火と水の大精霊様はとても喜んでくださったし、地の大精霊様に至っては感激して泣いてしまっていた。次はミィの料理も食べたいと注文が入ったが、またの機会があれば持っていこう。


 美味しそうな匂いにつられたのか、ゼーちゃんが目を覚ましたのは食事の最中だった。やはり本人はジーンに眠らされたところまでしか記憶が無いようだったが、詳しい話は後だと言って、ジーンはゼーちゃんに食事を摂らせるのだった。

修正

「風の大精霊だったかもしれないんだって」

 という部分を

「風の大精霊様だったんでしょ」 

 に変更しました。

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