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第五十話 解放と開放

 彼女は人に何かを教えるのに慣れていなかった。それはしょうがないのかもしれない。何年も、何百年もずっと一人で生きてきたのだから。


「これじゃ訓練じゃなくて、ただのサンドバック代わりね」


「ジーン大丈夫?」


 仰向けに倒れているジーンを見下ろす二人。昼食後、まずは剣術の指導から始まったのだが、果たして効果があったのだろうか。一方的に痛めつけられただけなんじゃ……と思うジーン。

 

「次は、もう少し手加減してくれると、ありがたい」


「うーん、仕方ないかな」


 ゼーちゃんはこのやり方で剣術を身につけたらしい。実際に身についたと感じるまでに数年かかったみたいが。やっぱ教え方間違ってるよね、確実に。


 先代に文句を言っても仕方ないので、気を改めるジーン。次は自身の魔力を底上げする訓練だ。今回は一度に放出できる量ではなく、自身が保有・貯蓄しておける量を増やすのが目的としている。


「あんまりそういった話は聞いたことないけど、危なかったりしない?」


 チャチャが確認する。


「んー、大丈夫じゃないかな。あ、でもやり過ぎると死んじゃうって言ってたかも」


『大丈夫じゃないよね、それ』


「やり過ぎたらの話だから大丈夫よ」


 それでも心配なので詳しく聞いた。方法は一気に魔力を解放する、というのを行うだけらしい。だからやり過ぎると魔力が切れてしまう。魔力が空になったら身体に悪影響しか与えない。時間停止をした後のジーン以上に回復に時間がかかるし、身体中に激痛が走る。最悪はそのまま回復することなく、命が尽きることも。


「ま、最初はその状態になっちゃうほど解放できないから」


「そうなのか?」


「私もおじいちゃんも、半年でやっと半分解放出来たくらいだったかな。でも全解放までが中々に長くてね、何十年かかかってた気がする」


 そんな時間無い無い。え、そんなに時間いるの? あと一ヶ月だよ? 全然時間足りないけど。


「そんな顔しないでよ。きっと大丈夫よ、私は始めて一週間でも倍くらいに魔力増えてたから」


『精霊だからとか、そんなオチは無いよね。大丈夫だよね?』


 余計に心配事が増えてしまったが、うん。剣の師匠が出来たので、何も得られなかったという最悪の状況にはならないはずだ。……お願いします、上手くいってください。


「コツは一回で全てを出し切るってイメージをすること。慣れてないと十分の一も出せないと思うけど」


「それを何回も繰り返すのか?」


「一日一回っていう条件だけどね。これを毎日繰り返すの」


 体力や筋力と鍛え方は同じようなものだな。


『一日一回なのはどうして?』


「一番はさっき言った通りで危ないから。慣れてくるとある程度調整もできるんだけど、暴走したらどうしようも出来ないってわけ」


「魔法をいっぱい使うって方法じゃ、やっぱり駄目なのか?」


「うーん、魔法を使うのと違って、えっと、何ていうのかな。無駄に消費させるっていうか、魔法じゃ一度に使える魔力って限界があるでしょ? その壁を超えるのが目的として一つ」


 例えば数値で魔力を表すと、Aさんは100の魔力を持っている。火を出すのに使う魔力は1。大きい火を出すと2使う。攻撃に使える威力を出すには3使う。ここから範囲や威力を強力にしたかったら、プラスで増やしていく。制御さえ出来れば一度で100消費も可能。ただ、魔法によってプラスできる限界はあるが。大精霊と言っていることが違うと感じるかもしれないが、もう少し詳しく話す。


 火の玉を打ち出す魔法が3の魔力を使うとする。もっと威力を強くしたいので10の魔力を上乗せする。この魔法使用時に、一気に10消費することは無いのだ。元の魔法構築時に魔力を1づつ増やしていくことになる。4、5、6と増えていき、最終的に13になった時点で発動、という流れなのだ。傍から見れば13一気に消費したように見えるが、本人にしてみれば基本の魔力量3以外は1づつ消費していることになる。


 様々な魔法があるが、どんなに大きな魔法でも基本必要な魔力は多くても10程度。ジーンの時間停止魔法も実際発動に必要な量は5といったとこだろうか。ただ、時間停止魔法の場合、発動中消費する魔力が滅茶苦茶多いから時間としては五秒程度が限界なのだ。


「あとは、身体を慣れさせる訓練にもなるかな」


『魔力がなくなった状態に慣れるってこと?』


 魔力が無くなればまともに動けなくなる、というのは常識だ。しかし、実際は訓練次第で解決できることだったのが真実。これは、別に特別でもなんでも無いことだ。実際ジーンの知り合いにもそういった人物がいる。なら何故、皆がそうしないのか。理由は二つある。


 一つ目は、そこまで魅力を感じなかったこと。魔法が使えなければ一般人と同じ、といった魔法使いが多い。魔力が切れても動ける訓練をするよりも、多彩な魔法をより効率的に使えるようになった方がいいのだ。


 二つ目は、魔力が切れても問題ない身体になるまでの訓練がとにかくきついこと。慣れるまでには何ヶ月もの期間ずっと頭痛に吐き気、全身に走る激痛に耐える必要がある。そうしてやっと手に入れたとしても、この力が役に立つ場面は多くない。魔力が切れる前に逃げる、それか回復薬に頼るのが普通なのだ。


 そういった理由があって、それほど多くの人が身に着けていない能力だ。ジーンの場合は近距離でも普通に戦えるので、便利な能力ではある。無理にでも身に着けることでも無い気もするけれど。


「細かい話は日が暮れてからでもいいでしょ。早く始めようよ」


 暫くおとなしかったチャチャが待ちきれずに言った。


「じゃ、今からお手本見せるからね」


 つい先程まで魔力すっからかんだったけど大丈夫なのだろうか。と誰もが思ったが、声をかける前にゼーちゃんが行動を起こした。


「せいっ!」


 そんな掛け声とともに爆風がジーン達を襲った。


『村に吹いてた風って、ゼーちゃんのせい……だったんだね』


 ミカが呟く。実際は魔物除けや作物の成長促進だったりと良い影響しか与えていないので、村の人たちからはありがたがられている。


 また、風が届く距離はゼーちゃんの射程圏内でもあり、その中で悪さをすればたちまちに天罰が下されるのだ。最もゼーちゃん視点での判断なので、全てが良い方向に進むかはまた別の話である。悪い方に進むこともある。特に村の人を困らせているのは恋愛関係だ。ちょっと男性が積極的に行動しようものなら即断罪。勇気を出して気になる子に声をかけても、ほとんど風に邪魔されてしまう。


『ちょっとー、やめてよもぉー』


『ちょっとくらいいいだろー』


『むー、しょうがないんだから。ちょっとだけだよ』


 こんな感じでイチャイチャカップルがいた。爆発して。これはどちらも気を許しておりある程度信頼しあっていると言えるだろう。いい関係が長く続くかは別として。うん、とりあえず爆発して。でも、ゼーちゃんにはこう見えている。


『な、何するの!? や、やめてっ』


『なんだよ、いいじゃんいいじゃん』


『やめてっ、離して……誰か助けてっ!』


 別に嫌がってないし、しかも助けてなんて言ってないし。しかしゼーちゃんは女の子が襲われているように見えているのだ。良くも悪くもゼーちゃんは純粋であるのだ。結局この男性、もといカップルは謎の風に邪魔され、更にはしばらくの間近づくことも出来なかったらしい。よしっ。そのおかげかこの村では愛妻家が多い。浮気なんて何十年に一度耳にするかどうかな程の少なさ。あれ、別にいい事なんじゃ。やっぱ悪い方に進んでることないかもしれない。


 話が大分逸れてしまったが、魔力を解放させるお手本を見せてもらったジーン達は困っていた。見はしたが、何をどう参考にすればいいのか分からなかったのだ。 


「ね、やってみて」


「いや、流石に無理がありますわ」


「えっ……」


 できないと言われ驚くゼーちゃん。というか何故それで伝わると思ったのか。魔力の流れを見てたら分かる? ただブワッと魔力が溢れたってことぐらいしか分かりませんでしたが。


「一回溜める感覚でいいの?」


「いや、どっちかというと脱力? する感じ?」


「俺に聞かれても困るのだが」


 自分から聞いて進めていくことにしたが、それでも中々思うようにいかない。魔法を使うのと勝手が違い、明確にイメージすることも出来ていないのが原因だと思われる。何か身近なところにヒントでも転がっていないのだろうか。


「あ、ちょっとトイレ行ってくるわ」


「そ・れ・だぁ!」


「それって何よ、ゼーちゃん」


「トイレよトイレ! おじいちゃんが言ってたわ!」


 え、全然話が見えてこないんだけど。早くトイレに行かせてくれるとありがたいんだが。


「“おしっこする感覚やわ、よー考えてみたら”ってことらしいわ。“特に我慢してた後のおしっこが一番近いな”ってね」


 女の子がおしっこ連発したらだしかんよ。気を付けてください。


「たとえ本当だとしてもおし、んっ。それと魔力解放の感覚と全然リンクさせられないんだけど」


「んー、私も気分的には一番近いと思うんだけどなぁ。なんかこう安心するぅ~って感じ? 要はリラックスが大事ってことよ」


 確かに精神的な部分も大事かもだけど、技術的な部分を知りたいのだが。ふむ、とりあえず用を足してこよう。


 少し離れたところでちょっとした穴と四方に壁を準備してから用を足すジーン。離れたと言っても十メートル程度ばかしである。


「はぁ~ぁ」


 しながらジーンは意識した。してしまった。これが魔力解放と似た感覚、なのか? と。魔力が勝手に流れていく

イメージ。あー、吸われる系の魔法にも近いかもしれないな、これは。ふむ。


 ぼふっ。


 ジーンを囲んでいた壁が吹き飛ばされた。その一部がチャチャに向かって飛んでいき、それを特に問題なく避ける。ついでにそれを爆発させてしまった。思うようにいかなくてむしゃくしゃしてたからではない、とは言い切れない。


「もう、何するのよ」


 振り向くとジーンがいた。当然である。息子もいた。途中だったのだから、これも当然である。チャチャは顔が徐々に赤くなっていく。それに対してジーンはサーっと血の気が引いていき、青白くなっていく。


「えー、うん。魔力解放できたじゃん」


 この状況は微塵も嬉しくないとジーンは思った。

開放的な場所でするのもいいな。何もかも忘れたくなってくる。……まだ出てるな。前に広がるのはだだっ広い草原。後ろ、いや横には信頼できる仲間。もうお昼を過ぎたが、まだ寝癖が残っていることに気が付いていない。うん、そんなところも可愛いな。……やっと終わったか。さて、俺はこの後どうするべきか。一、動揺を隠して自然に接する。二、一旦逃げる。三、このまま景色を楽しむ。四、意識を手放す。五、記憶の改竄。どれがいいだろうか。まぁ、普通に考えて一……でいいよね? スーハ―スーハ―。なに、慌てることはない。仲間同士、こんなハプニングなんて日常茶飯事なんだ。今更だろう。……あぁ、泣きそうだ。

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