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第四十六話 ミーチャの力

 部屋にあった椅子や机を隅に移動させてから、ミーチャが始めると合図を出す。ジーンとミカは何が起きるのか分かっているので落ち着いているが、ミィとイッチーはなんだなんだとウズウズしている。


 ヴァァァン! とミーチャを中心に床に魔法陣が浮かび上がる。円をベースに、いくつもの文字や図形が見える。しかも複雑に重なり合っていたり左右対称じゃなかったりと、一目では理解できそうにない。子供の頃はこういった魔方陣に憧れていた時期もあったな……今でもそうか。そんなことを思うジーン。


 床だけではなく、空中にもいくつか似たような魔法陣が浮かび上がる。大きさはまちまちだ。音が鳴り、光が迸る。


「す、すごい……」


 魔法陣の次は大量の本だ。魔法で作られた物なのか、そうでないのか。勿論前者である。その本たちが弧を描くようにミーチャの前後左右に移動していく。何百、何千という数の本が現れては消え、また現れる。というのをを繰り返す。


「……これ」


 ミーチャが呟くと同時に、一冊の本をミーチャが手に取る。千はあるであろう本のページが勢い良く捲れていき、数秒でまた閉じられる。そして先程と同じように本が移動を開始する。


「………最後はこれ」


 これが何度か繰り返され、ようやく終わるらしい。今では魔法陣以外にも不思議な文字? がいくつも漂っていた。本を見るほど増えていったことから、求めている情報のキーワードか何かだと推測できる。


 最後の本が閉じられると、ガラスが割れたかのように大きな音を鳴らし魔法陣が消えていく。時間は五分も掛かっていないと思われる。ちなみに、ジーンが張った結界により部屋の外には音が漏れていないので近所迷惑にはなっていない。


「はぁぁ~、久しぶりだったからちょっと疲れちゃった」


 サッと準備しておいたお茶をミーチャに渡すジーン。お礼を言ってそれを飲み干すミーチャ。


「あのっ、今ので分かったんですか!?」


 おぉ、ミィが興奮してる。


「えぇ、バッチリ」


「見たことも、聞いたことない、とっても綺麗で……何が起きてたのか分からないですけど、すごい魔法でしたっ!」


 ミィは今の出来事が一つの魔法だと思っているらしい。保存された本を取り出していく魔法、自分の処理能力を底上げする魔法、そんなところか。でも違う。


「あ、そう? そう言われると嬉しいわ」


 ミーチャは満足げに言葉を返す。予想通りの反応で滅茶苦茶嬉しいんだな、昔から変わっていないな、とジーンは思った。


「何度見てもすごい演出だな。前よりちょっと派手になってた気もするが」


「あー、もう。それは言っちゃダメって言ってるでしょ」


 ジーンの演出という言葉に反応するミーチャ。


「演出?」


 当然というべきか、ミィが反応する。


「ミィちゃん? ジーンのいう事は気にしないでいいのよ。んん?」


「ぇ、と、分かり、ました?」


 ミーチャにとって、これ以上踏み込んで欲しくないことのようだ。笑顔で言うその顔には迫力があり、ミィは頷くことしかできなかった。有無を言わせないあの笑顔もジーンの知るものと同じだった。


「で、場所はどこなんだ?」


「場所? あぁ、そうだったわね」


 えぇ……何で忘れてたのよ。演出に凝りすぎて調べてられてないってことは無いよな? ジーンは心配になったが、それは要らぬ心配だったようでミーチャがいくつか場所を教えてくれた。


 調べてみた結果、三つの候補があるらしい。本人の中ではほぼ一つで確定しているそうだが、一応全部聞いておくことにする。


 一つ目はここから東方面にある草原。ここは雨が降らなくて有名な場所だったんだが、それは数百年ほど前の話のようだ。今は普通に雨も降るとのこと。雨が降らない場所、という条件がクリアされてないので可能性は低いだろう。


 二つ目はここから南方面にある草原。一つ目に言った場所より広くて、雨も滅多に降らないらしい。しかし、魔力が豊富にあるわけではないみたいだ。魔力濃度が気にはなるが、一つ目よりは期待できるかもしれない。


 そして三つ目は東にある草原の更に遠い場所にある草原。数百年前から雨が降らなくなった場所で、他の草原より魔力濃度がダントツで高い。すべての条件に当てはまっているここが、一番可能性が高そうだ。


「更にね、そこの近くに村があるんだけど、神聖な場所として伝えられてきたんだって」


 精霊の中でも高位な大精霊がいるのなら、見えなくても感じ取るくらいできるのかもしれない。そう話し終わったところで、ミーチャがジーンの手を掴む。ジーンも別に抵抗することなくされるがままだ。


「ん、どうかしたのか?」


 ミーチャはにこっと笑うだけで何も言わない。代わりに、ミーチャの手がほんのりと光を帯びる。ミィでも魔力を集めているんだと見ただけで分かった。ジーンは体がほぼ無意識に反応してしまい、同じように魔力を繋がっている手に集めてしまう。


「ねぇ、精霊って知ってるよね?」


 ……なぜ、ここで精霊が出てくるんだ? ミーチャには教えてないよな。……いや、待て、落ち着け、ここで動揺したらダメだ。


「精霊って、確か絵本に出てきてたやつだっけ? それがどうしたんだ?」


「ジーンは見えてるの?」


 ぬぁあんでそうなるのぉ? 


「は? いや、精霊って本の中の存在だろ? 何だよ急に」


 ここは誤魔化さなければ。詳しい事を言えば、ミーチャも狙われるかもしれない。奴らの情報網がどれだけ広いのか分からないが、慎重にならないよりはいいだろう。


「ふーん。隠し通せているとでも? こっちはすっごい動揺してるの隠せてないけど」 


 繋がれた手を揺らされて気付くジーン。


「嵌められたぁぁ!」


「で、どうなの? 見えてるんでしょ?」


「くっ……少し、待ってくれ」


 ジーンは急いでミィとチャチャに相談を始める。


『やばい、ミーチャに精霊の事がバレた』


『あ、そうなの。……はぁ!?』


 ミィが目の前で起きたことをチャチャに説明する。そしてその後で言った。


『ジーンが悪い』


『その、すまん。じゃなくて、どうする? 正直に話すか?』


『私は反対。先輩が狙われる可能性を作るべきじゃない』


『ミィも、反対。だけど、自分で調べだしたら余計に危険かも……しれない、かも』


『確かに、ミーチャならやるかもな』


「あ、教えてくれないなら自分で調べるから」


 ミーチャはジーンの沈黙をどう誤魔化そうか悩んでいると思ったらしい。まぁ、実際そうなのだが。


『……今、教えてくれないなら自分で調べると言われた』


『『……』』


『ここは、正直に話してしまった方が良いと俺は思う』


『で、でも……』


 ジーンはミーチャなら信じられること。話した後の対応、話さなかった時の危険性など、メリットデメリットを二人に話す。


『そうね、変に動かれても怖いし。それに先輩なら言いふらすとかもしない。……しょうがないけど』


『ミィは、どうだ』


『……私から話したい』


『分かった』


 ちょっとした会議が数分で終わる。


「……ねぇ、そろそろ我慢の限界なんだけど」


 ミーチャはよく待ってくれたものだ。きっと俺だったら一分もしないうちに我慢の限界が来ていただろう。


「ミィが、説明します」


「え? あ、そう……なの?」


 てっきりジーンが説明してくれるのかと思った。ミーチャはそういった様子でジーンとミィを交互に見やる。


「一つだけ聞きます。ミーチャさん」


「は、はい」


 普段あまり見せない、真剣な表情でミーチャに尋ねるミィ。ミーチャは急激な変化に少し戸惑いつつ返事を返した。


「あなたには覚悟がありますか。精霊について知れば、この先何が起きるか分かりません。最悪死んでしまうかもしれない。それでも、知りたいですか?」


 少しの沈黙の後、ミーチャが答える。


「ジーンも、チャチャも、それを分かった上でミィ、あなたの傍にいるんでしょ?」


「はい」


「俺もチャチャも、覚悟を決めて傍にいる」


 最初はここまで大きな話になるとは思ってなかった、というのは内緒である。


「……聞かせて、精霊について知りたい」


「後悔しませんか」


「それは分からない。けど、もしミィちゃんが何かに巻き込まれてるのだとしたら、私は助けたい。力になりたい。ここで知らんぷりするのは、私には出来ない」


 ミーチャは困った人を放っておけない。特に女性や子供に対しては。昔からそうだった。


「……分かりました。では、まずは精霊の事をどこで知ったのか、どうしてあのタイミングで言葉にしたのか教えてください」


 ミィは最初に、気になったことを聞いた。冷静になって、ジーンは何となく理由が分かっていた。


「あ~、さっき色々調べてるときよ、気になったのは」


 ミーチャが言うには、精霊という言葉が何度か出てきたからついでに調べた、という事らしい。探していた草原は、精霊のおかげだという言い伝えが古くからあったようだ。それで精霊について調べたら、不自然なほど情報が少なく、意図的に隠されている気がしたそう。


 絵本の方も見たが、その中の一つに精霊から大きな力を貰って世界を征服したというお話がある。しかも状況がジーン達に似ていたらしい。一人の子供がある人物に精霊を与えたこと、与えられた人物は桁違いに魔力の質が変化したこと。子供はミィ、魔力の質は手をつないだ時に確信。


「これは面白い……カマかけてやろうって思っただけ」


「な、なるほど」


「それで、結局精霊って何なの?」


「そうですね、まずは見えるようになってから説明しましょう」 


 そう言ってミィはミーチャの手を掴む。そして意識を集中させていくと、少しずつ二人が……いや、ミィが輝きだす。ジーンの時と同じだ。段々と光が強くなっていく。


「終わり」


 ミィが言う。もうミィは輝いていない。


「……これで、終わり?」


 サクッと終わってしまい、少し疑うミーチャ。


「今なら、彼が見えるはず」


 ミィがビシッと指を向け、ミーチャの視線を誘導する。そこで初めて精霊の存在に気付いた。


「こ、こんにちは」


「……どもっ」

 

 それから精霊について、ミィが詳しく話していった。巻き込んでしまったことによる不安と、新しい仲間が増えた喜びを膨らませながら。

ミカ  『パーティー名変更!』

ヒー  「ミーチャ歓迎会! だな!」

チー  「……盛大に祝おう」

フー  「お料理も追加しなきゃね」

チャチャ「こうなった以上、歓迎してあげなきゃね」

クー  「うー、お友達になれるかなぁ?」

スイ  「あとどれくらいかかる?」

フー  「二十分後、ここに連れてきて!」

ヒー  「パーティーは内緒だからな、スイ」

チー  「……時間稼ぎ、頼んだぞ」

スイ  「うけたまわった」

クー  「頑張って……」

スイ  「いってくる」


 結局ミィが精霊について説明していたので、スイは何もすることはなくジーンと触れ合う時間が二十分出来た、というだけだったのは内緒である。二十分以上説明が続いていたので、それを無理やり中断させたということも。

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