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第四十三話 衝突

 私は何も出来なかった。ミィを守る事さえ出来なかった。もう私の前で仲間を死なせないようにって、修練も今まで以上にやったつもりだった。それに、強くなったという自覚もあった。でも、足りない。守れなきゃ意味がない。……いや、違う。落ち着け、ここで何もしないのが一番ダメだ。


「っ、ジーンは!?」


 チャチャが言う。一瞬、数秒、数分、どれだけ固まっていたのだろう。その甘さを悔やむ。


「……え、あれ、私……」


 チャチャに声をかけられておどおどするミィ。混乱しているようだ。周りには精霊たちはいない。イッチーだけだ。


 チャチャはジーンに説明を求める。魔法を使えば離れていても問題ない。だが、返事は帰ってこない。ギルドでは既にジーンが気絶しているからだ。


「イッチー、説明!」


 自分では整理できないので、イッチーに助けを求める。


「大丈夫だ、まずは落ち着け。大丈夫だ」


 説明になっていないが、チャチャを冷静にさせることを優先させる。イッチーはジーンではなくミカに事情を聞き事態を把握していた。

 昔のチャチャならば落ち着けるわけがない、そう叫んでいただろう。しかし今は違う。チャチャも成長しているのだ。


「……ふぅ、イッチーが言うんなら、大丈夫、なんだね」


 言葉にすることはないが私は、イッチーを信頼している。仲間、パートナーとして。その彼が言うんだから、まずは落ち着くべきだ。


「まず言っておくが、敵襲ではない。ミカが言っている」


 それを聞いて、ミィもようやく安心する。では、あの状況は何なのか。それもミカが説明してくれた。分身をこっちに送ってくれたのだ。ただの喧嘩だったこと、タイミングが奇跡的だったこと。それと、時間停止をしたこと。


「……そこまでする必要あったの?」


 ミィもデメリットを知っているので、やりすぎではないのかと不思議に思う。


「だって、ジーンも一緒に戻ればよかったでしょ?」


 ミィの言う通りである。ミィたちを転移させた時にジーンも転移すればよかったはずである。


『んー、それなんだよね。僕もおかしいと思っててさ』


 ミカも思っていた事らしい。そして、予想だけどと前置きして話し始める。


『イッチーも分かると思うけど、僕たちって契約してる相手の気持ちってなんとなく分かるんだ。予測できるっていうよりも、感情を共有してるって感じかな』


 それはチャチャやジーンには分からない、精霊だけに現れる現象だった。


『それで、考えてることも分かっちゃうんだけど、あの時ジーンってある事しか考えてなかったんだ』


「あること?」


 ミカがもったいぶるように話すので、チャチャは少し鬱陶しく感じていた。ミィは素直になになに? と気になっているが。


『たった一つ、ミィとちーねぇを守りたいってことだけだった』


「……」


「……」


 嬉しいような、恥ずかしいような気持になる二人。それとチャチャは悔しいという気持ちも生まれていた。


『ジーンも人間だからさ、常に最善手を見つけられるわけじゃない。時間停止を使ったのだって悪手だと思うし。今回ジーンは、選択を間違えたってこと』


 誰しも成功だけを経験する事は出来ない。必ず失敗はするはずなのだ。


「なるほどな、それで、今ジーンはどうしてるんだ?」


 イッチーがミカに聞く。危険は無いと分かったが、時間停止を使ったらしいので二人とも心配はしているのだ。


『ミーチャさんがベットに寝かせてくれてるから安心して。でも、ジーンが急に現れて倒れたからミーチャさんも心配してるんだ。二人はミーチャさんに状況を説明してあげて』


 ミカは精霊なので、ミーチャには見えていない。言葉を伝えることもできないのだ。それに、ジーンは精霊の事をミーチャに伝えていない。そのため、ミカ自身が下手に干渉するのは良くないと判断したのだ。

 

「分かったわ、イッチー場所は分かるよね」


 頷いて問題ないことを伝える。ミィと手をつなぎ、反対の手をイッチーの背中に置く。送られてくる魔力を使って、イッチーが魔法を発動させる。正確な位置に移動するには、イッチーの力が必要なのだ。そして、一行は再びギルドに向かう。


「……説明……してくれる?」


 ミーチャはベットの横にある椅子に座っていた。チャチャ達が移動してきても視線はジーンから離れることはなかった。


 何をどこからどう説明していいのか迷ったチャチャだったが、イッチーに助言を貰いつつ状況を伝えていった。ジーンは自分の魔法を他人に知られるのを嫌っていたので、詳しいことは言えなかったが安心してもいいという事はしかっりと伝えた。


「多分……すぐに気づくと思うんだけど」


 ミィが言う。自分でも本当にそうなのか? と思っているのだが、ミィなりにミーチャを安心させようとしたのだ。ミーチャも色んな経験をしている。ミィも不安になっていると気付く。


「……」


 ジーンはまだ目を覚ます様子はない。


「(ぺしぺし)…………」


 ミーチャがジーンの頬っぺたを軽く叩くが、反応はない。びっくりしてチャチャもミィも止めようとするが、その前に次のビンタが始まる。


「(ペンペンペン)…………」


 一回目よりも強めにいったが、ジーンはいまだ“夢”の中だ。まだ、起きそうにない。


「(ぱん! ぱん!)……ぁ……?」


 良い音が響いた。病人、怪我人にすることじゃない。……病人でも怪我人でも無かったわ。


 ようやくジーンが意識を取り戻した。うっすらと目を開けて、何故か痛む頬に疑問を持ちつつ起きようとする。直ぐ近くにいたミーチャと目が合うのは当然のことで、「何でミーチャが」と聞こうとする。


「何で(パァァン!)ェェァッテイ!」


 ジーンには発言すら許されなかったらしい。ミーチャが問答無用でジーンをめったっめたにする。


「いやぁ! 痛いよ、ミーチャ! 痛いよ!」


 滅多に聞かないジーンの悲鳴を耳にする一同。ミーチャの行動にも驚きだが、ジーンの反応にも少なからず衝撃を受ける。


「え、えっと、落ち着いて! 先輩!」


 更に追撃を加えようとするミーチャを止めにかかるチャチャ。おかげでジーンにこれ以上ビンタが炸裂することはなかった。その間、ミィはあわあわしっぱなしだった。長い髪を左右にフリフリさせている。


「……心配してたんだからね」


「えっと、ごめん」


 心配してたならビンタすんなよ、とは言えないジーン。言わせないミーチャ。


「私じゃない」


 ようやくミーチャの意図が伝わったジーン。つまり、謝るのは二人に対してだという事。二人に心配かけさせるな、反省しろという事。メッチャ心配したんだからなぁっ、私にも謝れっ! このやろぉっ! という事。


 長い付き合いのジーンには何となくミーチャの言いたいことが分かったよう。流石に最後のは分からなかったようだが。


「悪かった。次からは気を付ける」


 反動で上半身を起こせないジーンは、寝たまま二人に言う。


「……何が悪かったのか分かってる?」


 ミーチャを止めていたチャチャが聞く。


「安全確認を、怠ったことだ。二人を危険に晒した。あれは防ぐことが出来たはずなのに」


「違うから」


 チャチャにバッサリと切り捨てられ、返答に困るジーン。考えても何も出てこない。


「……他に何が、」


「ジーンは、いっつもそう! 自分じゃなくて私たちのことを優先させるからっ」


 チャチャではなく、ミィが言う。声を荒げる。


 さっきまではこんな気持ちなかったはずなのに。そもそも、何で怒ってるのだろう。……怒ってる? 何で……? 


「それはそうだろう。俺は守るって約束したんだから、当然だ」


「違うっ! ……私はっ」


 何を言いたいのだろう。何を言いたかったのだろう。頭の中で言葉が暴れている。言いたい言葉が捕まらない。


 ミィは堪らず部屋から飛び出していった。一瞬の間の後、ジーンが追いかけようと体を起こそうとするが、ベットから落ちかけてしまう。ミーチャが体を支えてくれたが、誰が見ても起き上がれそうになかった。


「ジーンは大人しくしてて。ミィは私に任せて」


 同じようにチャチャも部屋から飛び出していく。それを見守る事しかできなかったジーン。しばらくして、ぼすっとベットに体を預けるジーン。


「……」


 ミーチャはこの気まずい空間に取り残されてしまった。この空気を作った責任を少し感じているため、大変心地が悪いと感じる。この沈黙はミィを連れたチャチャが返ってくるまで続いたのだった。

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