表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/347

第四十二話 予想外

 チャチャに向かって何か……誰かが近づいていく。急に光が目に飛び込んできたため、視界が奪われてしまったチャチャは動けずにいる。


「「「「「「お帰りなさい! ちーねぇ(ちーちゃん)!」」」」」」


 敵が攻めてきたなんてことはない。精霊達のサプライズというやつだ。部屋が暗かったのも、プレッシャーも全部計画通りである。勿論ミカ、ミィ、ジーンはこの計画を知っていたし、イッチーにもこそっと伝えていた。知らなかったのはチャチャだけである。


「ひぃっ……はぃ? えっ、と」


 突然のことに理解が出来ていないチャチャ。精霊達の姿が変わっているのもあり、余計に混乱している。攻撃されていないことが分かり、警戒しつつも顔を隠していた腕を少しずつ下ろしていく。涙目になってしまっているのは気のせいではないだろう。


「お、かえ……り? えと、あなた達は?」


 びくびくしながらも、不審な人物達に質問するチャチャ。まだ、目の前にいるのが精霊だと気付いていない。


「ふははー、そのことばをまっていたのだー」


「え、えと、僕たちは成長したのだっ」


「私たちがいればっ」


「……この先、どんな困難が待っていようと」


「必ず前に進めるだろうっ!」


「「「「「我ら、チジミ団!!」」」」」


 スイ、クー、フー、チー、ヒーの順に台本通りのセリフを言い、最後にはポーズで締める。出発前に何やら話し合っていたが、これの打ち合わせだったのかと少し呆れる。それでも、精霊達なりにチャチャのために考えてくれたのはなんだか、嬉しい。ただ一つ言いたいのは、チジミ団はカッコ悪すぎだろう。


「いや、え、成長? ……フーちゃん達なの?」


 信じられないと思いつつ、チャチャが聞く。ちなみに、その数秒間チジミ団はポーズを決めたままだったりする。


「えへっ、お帰り! ちーちゃん!」


 名前を呼ばれたフーがチャチャの胸に飛び込む。またなのかっと思いながら、ぐふぅと口から空気を漏らしそのまま倒れこむチャチャ。


「ただいま、フーちゃん、皆」


 姿は変わってしまっているが、自分が知っている精霊達だとわかり安心するチャチャ。そして体を起こし、説明を求める。


「よし、チー頼む」


「……ここはフーに任せよう」


「私より、クーがいいんじゃないかしら」


「え、えっと、たまにはスイちゃんも頑張ってみたら?」


「……パス」


 面倒臭がって誰も状況を説明しようとしない。ジーンのレベルアップによって、自分達もそれに合わせて強くなった。チャチャをびっくりさせるために、皆で考えた結果がさっきの作戦である。姿が変わったことは、本人たちも仕組み自体を完璧に理解しているわけではないので多少仕方ないのかもしれないが、一分も掛からないであろうこの説明を何故誰もしない。


 代わりにジーンが説明し、状況をようやく理解するチャチャ。その後でやりすぎなのでは!? というお叱りもジーンが受ける。


「(おかしい、俺も何をするのかまでは知らなかったのに。何故俺が怒られるのだ)」


「それに……って、ねぇ聞いてるの!?」


 おかしいと思いつつ、ここで反論しても意味がないと感じたジーンはチャチャが落ち着くまで耐えることにした。ちょっとでも適当に返事をしようものなら余計にお怒りタイムが伸びるので、油断はできない。精霊達の尻拭いは俺がしなければいけない。……しょうがないのだ。

 

「ま、まぁ、やり方は良くないと思うけど? その気持ちは嬉しかったから今回は許してあげる。あ、ありがとね」


 数分後、なんだかんだ言いつつも嬉しい気持ちはあったようで感謝の言葉を聞けた。ただ、ジーンじゃなく本来は精霊達……もといチジミ団に言うべきなのだが。


『それで、これからどうするのかな?』


 タイミングを見計らって、ミカがこほんとわざとらしい咳払いをしてから聞いてくる。今回はミカだったが、何か話があったり、物事を決めようとする時はだいたいミカかミィ、フーが最初に言い出す。ミカとミィは子供っぽさが残る二人だが、そういった時には頼りになる。とてもありがたい。


 ポーズをといた精霊達も、各々好きな場所に移動する。ヒーは窓近く、日当たりの良い場所に。チーとミカ、ミィは食卓。フーはチャチャの隣。チャチャはジーンの隣。ジーンは食卓近くのソファー。スイはジーンの膝の上。皆ちゃんと話ができる位置に集まっている。……あ、クーも食卓にいる。


「ねぇジーン、今なんで二度見したの!?」


 クーが何か言っているが、ここはスルーだ。


「んー、草原一個一個見てくのも大変だし一度ミーチャのとこに行く」


 見晴らしが良い草原、晴れ続き、それとあと一つ魔力濃度が高い地域、この三つの情報から場所をもっと絞るためだ。二つの情報は大精霊から聞いたものだが、あと一つの魔力濃度が高い地域というのはジーンの予想だ。今まで三人の大精霊に会ったが、どの場所も魔力濃度が高く感じた。


 山の上に行けば空気が薄くなるというのはよく聞くが、魔力も同じように薄い濃いがある。少量ではあるが魔力は空中を常に漂っている。どこで生成され、どこで使われて……という循環はいまだに解明されていないが、魔力が人体に何か影響を与えるという事はないとされている。中には空気中の魔力を利用する人もいるが、はっきり言ってよく分からないまま使っている人が大半である。


「先輩のとこね」


「ミーチャさんに会うの久しぶりだな」


 行動は早い方が良いので、少し持ち物の確認をした後出発する。作戦まであと一か月もない。出来れば明日には場所を特定させたい。


「ま、会えたらラッキーくらいの気持ちでいいか」


 そんな言葉を呟きジーンは魔法を発動させる。


 ジーン達が現れる八分前。場所は変わってムロマリ。ミーチャの所属するギルドがある街だ。


「はい、お疲れ様」


 駆け出し冒険者に依頼達成の報酬を渡すミーチャ。今日は珍しく働いている。


「おうなんだ、あんたが働いてるなんて珍しいな! ガハハ」


「ほんとだ、何か今日はいい事あるかもな! ギヒヒ」


「俺は逆に悪い事が起きるって思うけどな! グフフ」


「もう止めておけ、怒らせたら終わりだぞ。ゲヘヘ」


 ベテランのおっさん冒険者達がミーチャをからかう。顔が怖いおっさん達だが、皆優しい心を持っている。街のごみ拾いや、迷子のおもり、トイレ掃除など何でもやってくれるのだ。それに実力もあるのでギルドからも信頼されている。ちなみにミーチャがここで働き始めた時からの知り合いだ。


「その内ジーンでも来るんじゃねぇか? ゴホホ」


 はい、あと七分で来ます。


「……料理代、二倍ね」


 仕事の手を休めることなく呟く。勿論おっさん達に聞こえる声で。


「ほら言わんこっちゃねぇ。お前払っとけ」


「今日はそっちの奢りだろ」


 おっさん五人で文句のつけあいが始まり、結局は勝負で決めることになった。殴り合い、新人はそう思っておどおどとし始めている。どうすれば……とミーチャに視線で問いかけてくる。ジーンが来るまであと四分。


「安心しなさい、いつものことだから」


 それでも新人たちは不安が拭えない。周りの奴も慣れているのか机や椅子を退けて、広い場所を作っていく。皆こういったことは好きなのだ。ジーンが来るまであと一分。


「おうおう、歯食いしばれや」


「いつもの不満をぶつけてやる」


「……喧嘩は好きじゃないが、しょうがない」


「負けたら金払えよな」


「いざ、参る」

 

 おっさんEの言葉で一度ギルドに静寂が訪れる。ワイワイと騒いでいた周りも空気を読んで声を殺す。この流れはいつものこと、お約束だ。


 そしておっさん五人が同時に動いた。全員狙いは顔面。それに標的が被っていない。打合せでもしたかのように綺麗に拳が吸い込まれていく。男の意地もある。避ける事はない。


「「「「「くらえやぁぁ!」」」」」


 ジーン到着。


「え?」


『『『『は?』』』』


 ジーンとギルド内全員が声を漏らす。移動した先は丁度五人に囲まれた中心。もう拳は止まらない、止められない。


「ぶべぇぇぁぁあぁっ!!」


 前後左右から全力パンチがジーンを襲う。前にも後ろにも横にさえ逃げられなかったジーンはびくびく痙攣したまま立ち尽くす。


 というのがジーンが現れた瞬間に一瞬でギルドにいた全員の脳内に再生された出来事。ミィたちに出会う前のジーンだったら、あるいはそうなっていたかもしれないが。実際には別のことが起きた。


「え?」


『『『『は?』』』』


 ここまでは一緒であるが、移動してきたのはジーンだけではない。チャチャとミィもいるのだ。チャチャは瞬時に守りに入ろうとするが間に合いそうにない。当然ミィは、ぽけーっとしている。


 ここで頼りになる男、ジーンの出番だ。一瞬で状況を理解、はしていないが二人の安全を優先させるためにミィ家に再移動させる。あとは自分の身を守るだけ。でもガードは間に合いそうにない。状況を把握できていないのにもったいぶるのは危険だと判断し、ジーンは切り札を切る。


「(……危なかった)」


 ジーンの切り札。魔闘技ではなく、ある魔法だ。誰も見たことのない特別な魔法。時間停止。最強とも呼べるかもしれない魔法だ。その名の通り時間を止める。動けるのはジーンだけ。もしくはジーンの魔法を打ち消せたものだけだ。攻撃を加えたり、回復したりと好き放題だ。勿論デメリットもある。一つ、魔力消費が激しい事。三秒止めただけで空になる。一つ、一度使った後は一定期間使えない。一つ、身体能力が著しく低下すること等々。デメリットを考えるとほぼ使い道が無いようにも思えてしまうが、ジーンの場合ミカや精霊達がいる。契約している精霊達は例外で動けることを実験済みである。ジーンとしては攻めではなく、守りの切り札としている。


 ゆっくりしている時間もないのでおっさん達の中心から逃げる。この五人を見てまたかと思い、状況を把握。ミーチャの近くに逃げ、安全だと確認したとこで魔法を解除する。


「「「「「ぶべぇぇぁぁあぁっ!!」」」」」


 おっさんA、B、C、D、Eは倒れた。


「ぇ、あぁ、ん? ジーン?」


 ジーン以外状況を把握できずに立ち尽くす。ミーチャもいつの間にか隣にいた男がジーンだと気づくのに時間がかかった。ミーチャと目が合うとジーンはにこりと微笑み返し、そしていつの間にか用意されていた椅子にどかりと座り込む。時間停止の反動で体に力が入らないのだ。そしてジーンは気を失う。



 何故か私は落ち着いていた。ジーンが倒れたというのに、だ。ジーンを部屋に運び、横にさせるべきだと感じ、そして実行した。一人でジーンを運ぶのは少し大変だったが、慣れたことだ。ギルド内の皆は騒ぎだしたが、それもなんだか遠くに聞こえる。ジーンを寝かせた後は、効くのか分からないが回復魔法をかける。何が起きたのか私には理解できないが、ジーンが目が覚めたら問い詰めてやろう。チャチャもいた気がしたが、見間違いだったのだろうか。……いつ、目が覚めるだろう。もう、何分経っただろう。冷静なのか、気が動転しているのか、分からなくなってきた。…………。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ