第三十八話 気になる二人
「昨日はあらかた説明するだけじゃったが、さっそくやっていくかの」
今日から本格的に修行が始まっていくため、張り切っている精霊たちとジーンは大精霊の前に横一列で並んでいる。ミィは食事当番になり、今日の朝食もミィが作ってくれた。一人では大変だという事で、フーとスイもかわりばんこで手伝うのだと言っていた。
「初めは何するんだよじーちゃん」
ヒーの中では既に大精霊様というより、おじいちゃんのイメージが大きくなっているようだ。大精霊様はそっちの方が嬉しいらしいので、ジーンとチー以外は皆そう呼ぶようになっていた。
「まずは昨日やった魔力を思った通りに発現させるとこからじゃな。あの時は見えんようにさせておったが、成功すれば基本見えるはずじゃ」
あらかたの説明を受けて、実際に試してみる。魔闘技や、火の大精霊の修行で魔力のコントロールに自信があったので、すぐに出来るだろうと思うジーン。
「……あれ、でないな」
案外難しいのかもしれないと思い直すジーン。体内に循環させるのとは少し勝手が違うと聞いていたが、何度やっても魔力が外に出てこない。
「あ、あるじーみてみて」
スイに声をかけられ、横を向くジーン。
「何で出来てるんだよ、スイだけじゃなくてチー達まで」
まだ数分しかたっていないのに、ジーン以外魔力の発現に成功していた。その中でもスイとミカはくねくねと形まで変えている。何故だ、いつもぐでーっとしてるスイまで何故出来る。
「まぁ、予想はしておったが精霊の方が早く感覚を掴めたようじゃな」
大精霊によれば精霊は魔力に近いもので体が作られているらしい。それによって、魔力のコントロールは精霊の方が上手い傾向にあるんだとか。その説明をされている内にも、精霊たちの成長は止まらない。
ヒーとチーは魔力を使って、戦闘訓練をしている。まだ動きは遅めだが、確実にジーンよりはやれている。フーは二人に比べれば不安定だが、砂で簡単なお城を作れるぐらいにはなっている。完全にジーンは負けている。クーは忘れているわけではない。砂浜にお絵かきをして遊んでいたため、ちょっと見えずらかったのだ。もちろん、発現すら出来ないジーンに比べたらすごい事である。
「おー、これたのしい」
「今まで、どうしてやろうと思わなかったんだろう?」
問題はミカとスイだ。ミカはヒーとチー二人相手に互角以上に戦っている。あ、ヒーが地面から生えた魔力に掴まれてそのまま首元まで埋められた。成長しすぎだろ。
スイもヒーとクーを相手にしていた。魔法のイメージしかないスイだが、器用に魔力を使って二人を寄せ付けない。ミカとやりあっても互角とはこれいかに。
「まぁ、焦らずにやる事じゃな」
「そ、そうですね」
それから数時間後、ようやく魔力の発現が達成できたジーン。まだまだミカ達には及ばないが、一歩進んだと言えるだろう。
「マスター、そろそろ休憩してはどうでしょう。丁度お昼ご飯もできましたので」
「あるじー、おなかすいた」
フーとスイが言う。もうそんな時間になっていることに少し驚いたが、「そうしようか」と答える。別に焦る事でもないし、集中力もそう長くは続かない。それにミィの料理を食べないという選択肢は最初からない。
「ほぉ~、美味しそうじゃのう!」
地の大精霊はすっかりミィの料理にはまってしまっていた。「食材はわしが!」と張り切ってあっちへこっちへ走り回っていた。しかし、結果的に美味しい料理が食べられるジーンは不満などかけらもない。文句どころか夕飯はなんだろうと考えだす始末である。
「え、えっと、ジーンは調子どう?」
クーがジーンの前に座ってから言う。クーなりに気付いてもらう方法を考え出し始めたのは、大きな成長だと言えるだろう。
「っとだな、何とか魔力を外に出せるようになったばかりだ。クーたちみたいに自在に操ることが出来るようになるには、もう少し時間がかかりそうだな」
クーの成長も無駄ではなかったようで、いつもより驚かれずに済んだようだ。このままめげなけば、いつの日か必ず影が薄いと言われなくなる……はずだ。
「ま、使える手札が多い方がいいからな。やってやるさ」
その後、精霊たちにコツを教えてもらいつつミィの料理を食べ、体力魔力を回復させたジーンは午後の修行を開始させる。そして精霊たちは大精霊から合格サインを既にもらったので、各々好きなことをしていた。
チーとフーは相も変わらず殴る蹴る攻める守るの繰り返し。クーは一人船を出して魚釣り。ミィは薬の調合。もちろん材料はじいちゃんが調達してきた物。フーはミィのお手伝いプラス風の制御。訓練の一環として風の強さ向きを調整している。慣れてくれば天候も操れるようになるらしい。スイはお昼寝タイムに突入。ミカも少し遅れてお昼寝タイム。じいちゃんは食材を探しに海へ森へ畑まで。畑は趣味でやってたらしく、野菜がが大量に余っているらしい。精霊の力で早く育つ上に腐りにくく、そこらの動物に食べられようがなくならないんだとか。
少し小腹が空いたかな? という頃に、ミィがおやつを出してくれた。森で採れた果物を使ったものらしく、じいは満足げに人一倍食べていた。それがチャチャを見ているようだと感じたジーン。
「(そういえば何してるんだ? 心配するなとは言われたが、気にはなるな……)」
「気になるなら、本人に聞けばいいのに」
みょんみょんとアホ毛を揺らしつつ、からかうように言うミカ。ミカにはジーンの気持ちなんて手に取るように分かるのだ。
ふと顔を上げると誰もが期待のこもった目でジーンを見ていた。少し顔が熱くなるのを感じ、少し居心地が悪くなるジーン。
「何のことだかな」
修行修行とブツブツ言いながら、先程いた場所まで戻っていく。その後姿を見て、素直じゃないんだからと誰もが思った。一人話に微妙についていけないじいだったが、まぁいいかとおやつをむしゃむしゃ。
結局集中できずに、今日一日での成果は魔力の発現で精一杯だったジーン。合格を貰えるにはまだまだ時間がかかりそう。
謎の姐さん「なんだか今日は集中できてないわね、どうしたの?」
チャチャ 「……いつも通りです」
謎の姐さん「そお? ならいいけど。もしかして、好きな人のことでも考えてるんじゃないかって思っ ちゃった」
チャチャ 「えっと、その……茶化さないでください」
謎の姐さん「まあ、可愛い! お姉さん応援してるからね」
チャチャ 「……」
イッチー 「……おかしい、いつもなら恥ずかしがることもないのに」
謎の兄さん「そうなのか?」
イッチー 「はい。本人の前でも、好き好き~って感じだったんですけど……」
謎の兄さん「あー、あれだな」
イッチー 「えっと、ど、どれですか?」
謎の兄さん「ほら、今までは多分好きってよりかは憧れが強かったんだよ。きっと。それが、何かのきっ かけでいつもとは違う感情が湧くんだ。あれ? 何この気持ち、ドキドキが止まらない、
ってな感じでな」
イッチー 「いや、聞いたことないですけど、そんな話。それに、『ドキドキが止まらない……』なんてあ いつに限って……無いですね」
謎の兄さん「ふっ、甘いな。甘すぎるぞ。油断してるとすぐに殺られちまうからな、気を付けろ」
イッチー 「女は何考えてるか分からない、ってやつですね」
謎の兄さん「んー、少し違う気もしないでもないが、ま、そんなとこだな」
イッチー 「勉強になります」
謎の兄さん「それに、契約したからには最後まで、だ。分かってるだろ?」
イッチー 「……覚悟は既に出来てますから」
謎の兄さん「急に話がそれたな! まぁ、全力で支えてやれや!」
イッチー 「はい。ところで、後どれくらいかかりますかね」
謎の兄さん「んー、知らん」