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第三十六話 精霊たち

 ヒーが波を割ってくれた後は魚を採ろうということになり、精霊それぞれが海へと潜っていった。ちなみにヒーはまだ帰ってきていない。


 ミィは長い間潜れないので、クーと一緒にのんびりと釣りをしている。ボートはジーンとチーが協力して作ったもので、結構安定している。いつも物静かなチーだが、物作りが得意なのである。


「あっ、また来たよ!」


 折れそうなほどしなっている竿を持っているのはクーだ。先程から何匹か釣れているのだが、ほとんどがクーが釣っている。使っている竿もチーが作った物だ。なので、竿の性能は一緒であるはずなのだが、何故かクーばかり釣っている。


「もう、なんでクーちゃんばっかり釣れるんだろ」


 少し寂しそうにミィが言う。一応ミィも釣ったが、ちっちゃな子魚だったので仕方なしに逃がしたのだ。

 

「ど、どうしてだろうね。っとまた釣れた」


「……」


 羨ましそうにミィがクーを見ている。そんな視線に居心地の悪さを覚え、クーはもう十分だからと言いジーンの元に戻ろうとした。しかし、ミィは納得がいかないようでもう少し粘ろうとする。


 それから三十分程竿を垂らしていたが全く釣れず、ミィもクーも顔から表情が抜け落ちていた。


「ねぇ、ミィが悪いのかな」


「ノ、ノーコメント。僕には分からないよ」


 最後にミィも魚を釣る事が出来てクーも一安心することになるのだが、今の二人はまだ知る由もないことであった。


 場所は変わって海の中、チーとフーが海の幸を探し回っていた。海の魚自体が珍しいため、見かけたものからどんどん捕獲していく。硬い殻をもつ魚、無数の棘をもつ魚、立って歩くように泳ぐ魚、大きな貝、フニャフニャした体の生物。それ食えるの? といった格好の生物も多数いた。


 勿論魔物もいるわけで、チーとフーは何度も襲われた。凶悪な牙を持つもの、大きなハサミを持つもの、多数の触手を持つもの等々。


『フー、うしろだ』


 岩陰にあった貝を採ろうとしていたフーにチーが言う。水の中なので声は聞こえないが、精霊たちは別に関係ないのでいつも通りコミュニケーションをとっている。


 岩だと思っていたものが魔物だったらしく、フーを鷲掴みにしようとしていた。それを落ち着いて避けてから、魔法で細切れにしてしまう。


『危なかったわ。ありがと、チー』


 いつもは風に頼っているため、フーは水の中では危険を察知する能力が著しく低下していた。今回はギリギリで避ける事が出来たが、これで四度目なのでチーも流石に心配になってきている。


『ふむ、そろそろ十分な量が採れたはずだ。主たちも腹を空かせているだろうし、戻らないか』


 フーは少し考えた後、まだ足りないと言った。


『何か、こう……インパクトが足りないのよね』


 時々、フーは変なところで凝りだすことがあり、皆はそれに振り回されることがある。それに、こういった場合は思い通りにならないと、すこぶる機嫌が悪くなるのだ。


 これ以上衝撃を受けるような生物が果たしているのかどうか不安なチー。ミカに確認したところ、まだ大丈夫そうなので、フーの後ろをついていくチー。ついでにフーの死角から襲い掛かろうとしていた魔物を始末する。


『成長したのは体だけ、というのはフーも同じだな』


『? 何か言った?』


 気のせいだとフーに伝えて、インパクトのある生物探しに協力するチー。


 結局インパクトのある生物は見つからなかったのだが、あるものを発見。それをジーンたちへのお土産とし、深い海の底から帰還する二人であった。


『フーとチーも、もうすぐ来るって』


 ミカが二人から連絡を受けてジーンに知らせる。なぜ直接伝えなかったのかは、連絡したフーにしか分からない。精霊は気まぐれなので、ジーンも深くは気にしていないようだ。


「了解。そしたらミィたちが釣ってきてくれた魚を焼き始めるか」


 既に準備されていた魚に火を通し始めるジーン。下処理をしたのはミィとスイだ。今日は特に働いていないスイに仕事を与えたのだ。スイだけでは心配だったのでミィにも手伝ってもらい、先程完了したのだ。


 意外にもスイは流れるように作業できていたので、一人でも問題がなかったようだったが。今日は精霊達の知らなかった部分を見られた、と嬉しく思うジーン。


「あれ、ヒーはまだ戻って来てないの?」


 ジーン、ミカ、クーがぐるりと回りを見て、ヒーが本当にいないことを確認。


「滅茶苦茶遠くにいるな。直ぐに戻せるしヒーも問題ないって言ってるから大丈夫だろ」


 ジーンが直接ヒーに聞いて確かめる。場所までは分からないが、危険は無いようなのでそのうち戻ってくるだろうと判断する。


『次は何して遊ぶ?』


「わたしはあるじの傍にいる」


「え、えっと、ボール遊びもしたし、泳ぎの競争もしたから……」


「まぁまぁ、これ食べてから考えればいいさ」


 魚が焼きあがったようでジーンがミカ達に配っていく。丁度フー達も戻ってきたので、二人にも渡す。


「あら、このお魚美味しいわね」


「うむ、ミィ殿が釣ってくれたのか?」


 びくっとクーが食べていた動きを止める。


「ミィじゃなくて、クーが釣ったんだよ。これ、全部」


「ミィもね、いっぱい頑張ったんだよ。いっぱい我慢したんだよ。だけどね、釣れなかったの」


 チーは自分の失言に気づいて、サッとフーに助けを求めるように視線をぶつける。今は自分が何を言っても駄目だと判断したらしい。

 チーの視線に気づいてフーが頷く。


「誰にでも向き不向きはあるものよ。気にしてちゃダメ。ミィちゃんが悲しい顔してるとこっちまで悲しくなっちゃうんだから、ほら笑って笑って」


 フーの言葉を聞いて俯けていた顔を上げるミィ。


「わたしもそー思うよ。次は大量かもしれないしー」


 足をぷらんぷらんとさせながらスイが言う。ジーンに肩車されながら魚にかぶりつく姿を見て、ミィはクスっと笑ってしまう。


「おー。あるじー、和ませた褒美としてなでなでを要求する」


 そう言って、スイがでしでしとジーンの頭を叩く。


「ほんとスイはマイペースだな」


『ジーンずるいよ、僕にもやって!』


「あ、出来れば私も……なんて」


「……言っておくが、我は必要ないぞ」


「あ、俺も要らないからな」


「ミィも、別に要らないかな」


 ジーンはヒーの分の魚を渡してから、「今日は特別だぞ?」と言ってスイ、ミカ、フーの順になでなでを実行する。理由なんて気にしない、今日はできる限りやって欲しいことは断らないことにしたんだから。


「ほら、ミィも遠慮するなって」


「え、ちょっと……うぅ」


 恥ずかしそうに声を漏らすミィ。ジーンから離れた後は顔が赤くなったことを隠すかのようにずっと下を向いていた。

 ちなみにクーは今回も忘れられてるのか、ともじもじしていたのをジーンに発見され無事なでなでされる。今日一番の笑顔を見せた瞬間かもしれなかった。


「で、ヒーは何してたんだ」


 さらっと会話に入ってきていたヒーにジーンが聞く。違和感を感じなかったと、ミィとクーがびっくりしている。今気付いたみたいだ。


「ま、色々だな」


 にかっと笑ってヒーが言う。ヒーが問題無いって言っていたし、深く聞くつもりもないジーンは「そっか」と返す。


 その後は、フーとチーが捕まえてきた生物の試食会をした。毒がないことは確認済みである。皆で一斉に食べるというルールの元、一つ一つ食べていく。当然あたりはずれが有るわけだが、滅茶苦茶に美味い、滅茶苦茶に不味いという感想を皆で共有出来たのは良かったかもしれない。


「食ったなぁ!」


「うむ、美味かった」


『次は何する?』


 食後、後片付けをしつつ次の行動を話し合う精霊たち。


「ほぅ、それならばこのジィに付き合ってくれんかのお?」


 誰だこのじぃさん? と誰もがそう思った。ただ、チーとジーンだけが警戒し、ジーンは武器まで取り出す。


「なに、そんなに警戒せんでもいいわい」


 白い髭に白い髪。じぃちゃんと呼んでいいのか微妙な雰囲気で、ゆったりとした服をきている。甚平という、昔行ったことのある国の服装にとても似ているとジーンが思う。


「わしは地の大精霊じゃよ」


 何とも言えない空気になったのは誰のせいでもないだろう。

チャチャ「ふーっ、やっと終わったわね」

イッチー「ドラゴンって思ったよりも大したことなかったな。時間はかかったけど」

チャチャ「私が強くなったって証明された瞬間ね」

イッチー「そこは“私たち”にしておけや」

チャチャ「早くギルドに戻って報酬もらいましょ」

イッチー「って無視かい。神様、俺が報われる日はいつ来るんでしょうか」

チャチャ「何言ってんのよ、私と契約出来たんだからこれ以上何を望むの?」

イッチー「……はいはいそーですね。さっさと戻りますか」

チャチャ「ま、今回はちょこっとだけ、ほんのすこーしだけ頑張ったみたいだから? ちょびーっと

     だけ感謝してあげる」

イッチー「素直じゃないな、はっきり言えばいいのに」

チャチャ「うるさい。分かったんなら早くギルドに決ましょ」

イッチー「はいよ……じゃ、とぶから手ぇ貸せ」

チャチャ「……ありがとね」

イッチー「ん? 何だって?」

チャチャ「……」

イッチー「……ほんと、素直じゃねぇんだから」


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