第三十四話 忘れられたもの
『――おい、まだかかりそうなのか?』
ジーンがチャチャに向けて通話を開始する。ジーン達の試験が終わり、ミィの家に帰ってきてからの事だ。
『……え、えっと、もう少し……かな?』
『こっちは丁度キリが付いたんだけど、一回戻ってこないか? 明日は皆で過ごそうかと思ってさ』
ジーンが提案する。いつものチャチャならすぐに食いついてくるはずだが、今回は違った。
『え、えっとね、こっちも後ちょっとで終わるし、終わらせたいから……』
『後何個ぐらいなんだ?』
『半分くらい、かな?』
二週間ほどでAランクの依頼五個か。一般冒険者と比較するなら、ありえないほどのスピードだと言えるだろう。しかし、チャチャの実力から考えると少し遅い気がする。
『意外と見つけるのに時間がかかっちゃって』
『なるほどな。なら、また二週間くらいかかる感じか』
『うーん、多分そんなにかからないと思う……かな』
どうも先ほどからはっきりしないチャチャ。
『まぁ、あんまり無理はするなよな』
『うん、ありがと。また終わったら連絡するね』
そう言ってチャチャが通話を切ってしまう。ジーンは今のやり取りで少し違和感を覚えたようだが、特に深くは考えないようにした。
『いいの? 何か隠してる感じだったけど』
ミカもおかしいと感じたようで、ジーンに聞く。
「一から全てを言わなくても別にいいだろ。一応信頼してる仲間だし、細かいことを気にしすぎてもな」
結果として、チャチャとイッチーは戻ってこないということなので今いるメンバーで明日一日を過ごすことにする。勿論ジーンと契約している精霊たちも一緒にだ。
「それじゃ、明日何するか決めないとね」
夕飯を完成させ、運び終わったミィが言う。今日のご飯はミィの特性スープ(魔力回復効果大)に肉団子(自然治癒小)等々。料理一つにしても、最初のころと比べたらとても成長している。それはチャチャにも言えることで、二人の料理が今ではジーンとミカの楽しみの一つになっていた。
「お、今日もうまそうだな」
『肉団子だ! 僕これ好きなんだよね』
ミィが座ってから、三人は食事を始める。ジーンもミカも食べることに夢中になって口数が少なくなっていた。
「それで、どうするの? 明日」
ミィがもう一度ジーンに聞く。
「……ま、俺だけで決めてもしょうがないし」
そう言ってジーンが魔力を集中させ、ぽんぽんっとヒー達を召喚した。したのは良いのだが、いつもと何か違うとジーンは思った。
「……? どうしたんだ? 三人ともポカーンとして」
しばらくしても三人とも何も言わないので、ヒーが疑問を口にする。
「えっと……どちら様で?」
ジーンが戸惑いつつ目の前にいるヒー? 達に聞く。戸惑っている理由はただ一つだけだ。
「冗談はよしてくれ、ジーン。俺達と契約したこと忘れたとかいうんじゃないだろうな?」
「待ってヒー。マスターは私達の子の姿に驚いてるだけかと思います。スイ、説明をよろしく」
「えー、ぼく? 面倒だからチーよろしくー」
「……承知した」
「「『…………』」」
三人は何も口を出せず、早く説明して欲しいと思いつつ話が進むのを待つ。
「主君は我らがこのような姿になった、前より人に近い姿になって驚かれている」
こくりとジーンは頷き、チーの言葉に耳を傾ける。
「詳しく言えば、魔力構築式やら絆、信頼ということについて語らなければいけませんがが……ふむ、一言で言えば、主君が強くなったから我ら契約精霊もそれに伴い姿を変えた、ということになります」
チーはミィにも伝わるようにかなり分かりやすく言ってくれた。
『で、でも何で今急になの? 皆がジーンと契約したばかりの時と比べたらそんな機会沢山あったと思うけど』
ミカが疑問を投げかける。確かに、ジーンは精霊と契約してからも着々と実力を伸ばしていた。何故今なのか、と聞かれたら大精霊の試験が関係していそうではあるが、本当にそうなのだろうか。
「それに関しては私達でも分からないのです。強いて言えば大精霊様の試験なのでしょうが……」
フーが申し訳なさそうに答える。
「あるじー、分かんないこと考えてもしょうがないよー」
スイがべったりとジーンに抱き着いてきた。
「そうだぞジーン。今はそんなことを話すために呼んだわけじゃないんだろ?」
「主君よ、我もそう思う」
ヒーとチーが目をキラキラさせつつ言う。
「お、おう。そうだな?」
「もう、皆しょうがないですね」
スイがあきれたようにぽくっとほっぺを膨らませる。スイがこの四人のまとめ役らしい。
「え、えっと……ぼく、忘れられてる……?」
皆が話したり笑ったりしていたら、部屋の隅から声がした。
「! ……? ! そんなことないぞ、クー。お前も俺達の仲間なんだから、忘れるわけないだろ?」
「今、絶対急に声がしたからびっくりしたよね……? 絶対誰だっけ? って思ったよね……? 思い出すまでに時間がかかったよね……? やっぱり僕なんてそんな程度なんだね……はぁ」
クーは部屋の隅で足を抱えてうずくまってしまっていた。クーと契約したのは四人よりも遅かったが、それほど最近でもない。ただ、クーは影が非常に薄かった。ジーンでも声をかけられるまでほとんど気にかけていなかったほどだ。
「クー、気にしちゃダメ。あるじもいじわるしてたわけじゃない」
スイがクーを励ますように手を差し伸べる。
「スイちゃん……そう、だよね」
「そう、ただあるじが忘れてただけ」
ジーンとミィは、ピシリとクーの心に傷がつく音が聞こえた気がした。
クー「やっぱり僕なんて……」
ミィ 「大丈夫だよ、私はちゃんと覚えてたから。元気出して?」
クー 「ミィねー……うん、ありがと……」
ジーン「その、悪かった。ごめん」
ヒー 「そんなに気にすんなよクー。それに、お前も大事な仲間なんだからもっと堂々としてていいんだ ぞ?」
フー 「そうですよ? さ、それよりも楽しいこと考えましょう!」
スイ 「そーそー時間は待ってくれないからねー」
チー 「……(少しはスイも反省を……まぁ、スイだしいいか)」
ジーン「よし、それじゃ決めてくか。皆は何がしたい? どこ行きたい?」
ヒー 「海だな」
スイ 「海かしら?」
フー 「海かもー」
チー 「……海」
クー 「ぼ、僕も……」
ミカ 『バーベキューとかしたい!』
ミィ 「ミィも!」
ジーン「……決定だな」
ヒー 「ということで次回! “あれ? 大精霊様? 何でここに? え? 試験?”」
スイ 「おたのしみに~」




