第三話 仲がいいのはいいことだ
二人は宿屋ではなくバルの家へと招かれることになった。バルがどうしてもと言い、あえてその申し出を断る理由もなく。
「ご飯の支度をしてくるから、少し待っててくださいね」
バルの奥さんであるテーレさんと二人の子供達がお出迎えをされ。少し話をした後、そう言ってテーレさんはご飯を作りに部屋を出て行くのであった。
「綺麗で優しそうな人だね」
私もなれるかなぁと呟くミィであるのだが、今のままでも問題ないと思っているジーンでなのである。
「そうだな、バルにはもったいないくらいだ」
「もう、そんなこと言わない! 素直にお似合いだって言ってあげればいいのに」
どこか羨ましい気持ちを隠せていないのか、つんけんとした態度を崩すことのないジーン。
感情に流されることの無意味さを分かっているはずであるのだが、中々どうして理想とは遠いもので。
「いいんだよミィちゃん。こいつは昔からそうだったからな」
バルがガハハと笑って。
子供っぽい誰かさんとは大違いだね。と、風船のように膨らむジーンの感情に針を刺すミィ。
ここまでくると恥ずかしさの方が上回ってきてしまい、若干にその顔を緩めることに。
「おい、俺たちのことは別にいいんだよ。そろそろお前たちのことも話せよな」
やっぱり突っ込まれるよな、と。予想通りの流れに、どう話そうかと悩むジーンであったのだが。
そんな少しの間を狙ってか、バルの子供達がじゃれついてきてしまう。
「ねぇ! あそぼう!」
長女のルルちゃんだ。人見知りでありそうな雰囲気のルルちゃんであるが、それは間違いであったらしい。
そして、その後ろでルルちゃんの弟であるココ君がじっと。お姉ちゃんの服を掴んで様子を見守ることに徹していた。
ルルちゃんはやんちゃでココ君はおとなしそうだと、そう印象を持つジーンであった。
顔立ちを見る限りどちらもテーレさん似のようであり、将来有望な表情を見せている。
良かったなお前たち、と声には出さず親指をぐっと立てて合図するジーン。意味は伝わっていないはずだが、少し考えるようにした後で同じようにサムズアップを返す二人であった。
「ルル! ココ! 今は大事な話をしてるんだからあっちに行っててな」
バルがそう言って二人を追い出そうとするのだが。
そんなに仲間外れにしなくてもいいだろうとは思うジーンであるが、子育てをしたことがないのも事実。ここは余計な口は挟まないようにとお口チャック。
しかしそれではかわいいと心を痛めるジーンは、バルとミィにある提案を。
「まぁ、俺たちの話はまたあとでもいいだろ? 遊んであげるさ。なぁ、ミィ?」
「そうだね、私もそう思う! ルルちゃんココ君、何して遊ぼうか?」
そう言い、ミィを含め三人ともがジーンを置き去りにして遊び始めてしまう。
『……あれ? 遊ぼうって誘われたの俺じゃなかったか? ま、まぁミィたちは楽しそうに遊んでいるからいいんだが……ちょっと寂しいかもしれない。』
悲しいかな。遅れて混ぜてもらうにも、既に三人も世界というものが形成されてしまっており。
なんだか仲間外れにされてしまったのは自分だったんじゃないかと、不思議と寂しさが吹くのはジーンの心の内だけで。
羨望の眼差しを向けつつも、それを悟られないように和んでいる雰囲気を醸し出すことに精を出す一人の男がそこにいた。
そうしてミィが子供と遊んでいると、テーレさんが夕ご飯が出来たよと声をかける。それはもう魔法の言葉に等しいものか。
子供たちは余程楽しみであったのか。ミィを連れすぐに着席し準備万端だと料理へと目を向けている。
「お口に合うといいのだけど」
「ふむ、これは美味しそうだ。腹の虫が早くよこせと音を鳴らしてしまいそうだ」
ぐぅ~~
バルのおなかは我慢ができなかったらしい。ジーン的には本当に今にも鳴りそうであるため何も言わない。
「パパのおなかが鳴ったぁ~!」
「ぷぷぷっ」
ココとルルが馬鹿にして笑う。が、
くぅ~~
くぁ~~
そのあとすぐに二人のおなかが鳴る。
一歩間違えればああなっていたかもしれん。そう思うジーンであった。
「「ごちそうさまでした」」
「テーレさんの作ったご飯、おいしかったね!」
「そうだな、毎日食ってるバルが羨ましい」
「ガハハ、そうだろ? テーレの飯は世界一だ!」
いや、さすがに世界一は言い過ぎなのでは? と、ジーンが内心ツッコんだのと同時。
「もぉ、そんなことないわよぉ! 世界一なんてぇ……」
と、褒められた本人はほっぺに手を当ててイヤンイヤンしていた。
「……仲がよさそうでなにより」
出会ったばかりの頃はこんなじゃなかった気が。遠く霞む記憶の中にいる二人はもういないんだなと感傷に浸り。
気にしても仕方がなく、二人が幸せなのが一番なのだと気持ちを切り替えるジーンであった。
ご飯を食べた後、ミィがまた子供たちと一緒に遊んでいる。懐かれたようでとても楽しそうに遊んでいる。
今度は誘われもしなかったジーンである。
となれば、目の前で桃色空間を創り出す二人と会話をする以外に選択肢がなく。何もしないという答えを導き出すには、少々居心地が悪すぎたのだ。
いつもであれば精霊たちとのコミュニケーションを欠かせないのだが。今日ばかりは仕方がないと、時間を遅らせることに。
「で、いつになったら話してくれるんだ?」
バルがいい加減に話せよといった目でジーンを見て。何も言わないが私気になりますと主張するテーレさん。
「……分かったよ。俺がミィと出会った話からでいいよな? 依頼でクーガの森に行ってた時なんだが」
「お前、そんな危険なとこ行ってたのか! クーガの森っていやぁ危険度Aランクのところだぞ!」
危険度というのは住んでいる魔物の強さなどによって地域ごとに決められているものであり、冒険者などが依頼を受ける時の基準としても使われる。危険度はS~Gまであり、Sが一番危険で、Gが一番安全となっている。
ちなみにこの村は危険度Fランク。村や町の周りで多少の魔物は出るが、比較的弱い魔物ばかりで生活をするのにほとんど支障はないとされている地域であった。
「バルの言いたいことは分かる。危険度Aなんて冒険者でも普通は行かないからな。依頼だったから行っただけだ。まぁ、そこで出会ってから俺らは一緒に世界各地を旅してるんだ」
その依頼のおかげでミィと出会えたのだ。今となっては受けて良かったと思っているものの、それを伝えることは今はしないジーンである。
「おい、説明はそれだけかよ?」
「詳しいことは俺からは言えない。聞きたいならミィに聞いてくれ。だが、俺は話したくはないと思っている。ミィもそう思っているはずだ」
「それで納得するわけないだろう」
そこまで声を荒げる必要があるのか。何が不満なのかバルデミウルゴスは苛立ちを隠さない。
バルのことだから多分女の子を連れてるのが気に食わないのだろう。と、見当違いな推測をするジーンであった。
「何か事情があるのよ。そのへんにしておいたらどう?」
「ぐぬぬ。ジーンが女の子を連れてる理由がそんなので納得できるわけがねえ!」
あながち見当違いであもなかったらしく。なわけと鼻で笑いかけたところで自身のの予想がバッチリ当たっていたことが証明されてしまうことに。
テーレには話したくないということが伝わったらしく。バルデミウルゴスにも話したくないというジーンの気持ちは伝わってはいるようだが、納得はできてないみたい様子であった。
それからバルデミウルゴスとテーレで話をして、ようやっとのことでバルデミウルゴスは落ち着くことに。
区切りがついたところでテーレが子供たちを寝かせると、ルルやココを別室へと連れていく。
おやすみとミィが言うと、子供たちもおやすみぃーと目を擦りながら言ってくれている。
「楽しかったか?」
「うん。ルルちゃんたちと仲良くなれて嬉しい!」
「それはよかった」
ミィは意外と子供が好きだから。そんな誰かさんの言葉を思い出すことになる。
「はは、またいつでも遊びに来てくれていいからな!」
「次はいつ来れるか分からないが、また来てみてもいいかもしれないな」
「うんっ!」
その後、子供を寝かせたテーレさんが戻ってくるとそのまま、ジーンとミィが泊まる部屋へと案内されることに。
ミィが一緒の部屋でいいと言ったため、同じ部屋に案内される二人であった。
「ジーン……明日にはもう出発しちゃうの?」
少し寂しそうにミィが聞く。
「最初はそのつもりでいたけど。まぁ急いでいるわけでもないからまだいいじゃないか? ミィもまだ子供たちと遊びたいだろ?」
「うんっ、ありがとジーン」
そしてジーンは少しミィと話をして、そのまま眠ろうとするジーンであったのだが。
しばらくして、ジーンがもう寝てしまったと思ったらしく。
「子供は好きだけど、どうやったらできるんだろう? ジーンに聞いたら教えてくれるかな……?」
などと恐ろしいことを呟いた。
ジーンが起きていると気付いたら、絶対に聞いてくるだろう。トイレを済ませておこうと起き上がろうとした直前であったのだが、どうもこれは危ないぞと。
ジーンはその後、ミィがちゃんと寝てしまうまでトイレを我慢し続けるのだった。
「……もし明日聞かれたらテーレさんに任せてしまおう。うん、それがいい」
ジーンは解決したと安心したのか眠りについてしまい。
そして、夢を見る。いつの日であったか、その懐かしく思える日を。
2021/06/01
・誤字脱字の修正
・口調、表現の修正