第二十九話 試験(1)
ジーンが目を開けると、周りにはマグマが広がっていた。足場になるのは、ジーン達が立っているところだけである。半径三十メートルほどの円形になっていて、他に道は無い。
マグマに囲まれているため当然気温も高く、数十分もそこにはいられないだろう。しかし、前にも来たことがあるので、対策もしっかりとしているジーン達は特に問題ないようだ。
『大精霊様ー! こんにちわー! お久しぶりですー!』
ミカが大きな声で大精霊を呼ぶ。しばらくして、マグマの一部が盛り上がってきた。前に来た時はポンッと現れただけだったので、少し違和感を感じるジーン。ミカも何かおかしいと思っているらしく、険しい顔をしていた。
「私、会うのは初めてだから少し怖いかも」
ミィはジーンの後ろに隠れるようにして、盛り上がっていくマグマを見ている。
「……ミィ、戦闘開始だ。ここに隠れてろ」
ジーンが土壁を作り上げ、ミィに言う。大精霊に会えると楽しみにしていたミィは、何が何だか分からずジーンの言う通りに壁の後ろに隠れる。
魔法で強化された土の壁は、チャチャやイッチーでも簡単には壊せないほど固く、注意していないと存在を忘れかけるといった効果がある。そのため、守りに関しては信用できるものになっている。
『大精霊様じゃないみたいだね、ジーン』
何が起きてもいいように身構えつつミカが言う。
「この反応は、魔物だな。それもかなり強そうだ」
既に魔闘技を発動させ、魔物の姿が見えるのを待つジーン。今攻撃すればマグマが飛び散る可能性があるため、待つしかないのだ。
「最初から全力でいくぞ、ミカ」
『勿論だよ。みーねぇも危ないから、時間をかけられないし』
そして、マグマの中から魔物が姿を現す。上半身しか見えていないが、それでも五メートル程あり、腕が四本ある。レーダーの反応からして、足も四本あるようだ。L字のような形をしているらしい。
頭には角が一本あり、皮膚は岩のようにゴツゴツしている。中途半端な攻撃は無駄になるだろう。
そして上半身の中心には赤く光る部分があり、魔力が集まっていることから弱点であると推測できる。
「狙うならあのコアだな」
『でも魔力が集まってるから、防御力も固いんじゃない?』
ジーンが魔物の注意を引き付け、ミカが強力な魔法をぶっ放つ。コアに魔法が当たるが、ミカの言う通りあまりダメージは無さそうだ。
「ガアァァ!」
大きな四つの腕を振り回し、ジーンを攻撃する魔物。それを避けつつ次の作戦を考えるジーン。
「とりあえずは色んな属性で攻撃してみるか」
早く片付けたいとこだが、焦って致命的なミスをするよりいいと考えるジーンはミカに指示する。そして、魔物の隙をつきコアにこぶしを叩きつける。が、物理でも駄目のようですぐに腕がジーンに向かってくる。
それからは、ミカが中心に攻撃を繰り出していった。地水火風、氷嵐雷震、とにかく様々な属性を試していった。
結果としては、どれも有効的ではないということが分かっただけであった。
『ジーン、どうするのコレ……』
ミカがうんざりした様に聞く。
「攻撃が当たる度にこいつの魔力が減っているのは分かるんだが、このままだとこっちが先に魔力が切れそうだし……」
ジーンも良い作戦が思い浮かんでいないよう。
『あの……コアじゃなくて、角とか狙ってみたらどう……かな?』
ミィが提案してくる。
『理由があったりするのか?』
ジーンが四つの腕と飛んで来るマグマを相手にしつつミィに聞く。
『えっとね、コアに来る攻撃は気にしてないみたいなんだけど、範囲が広い魔法を受けるときは角をかばってる気がしたから……』
ジーン達の力になりたくて、ずっと観察をしていたのだろう。コアに集中していたジーン達は気づいたいなかったことを指摘するミィ。
『なるほど。ミカ、角を中心に攻撃してくれ』
『任せてよ!』
妙にスッキリしたようにミカが返事をする。ミカも違和感は感じていたが、何がどう変なのか分からなかったのだ。ミィに指摘されてやっと気づいた今のミカは、先ほどまでと違い動き、魔法にキレがあった。
「これでも……くらいなって!」
広範囲かつ威力のある嵐属性と雷属性を中心に、ミカが複数の魔法を同時に放つ。コアも狙いつつ、本命の攻撃、一点集中の魔法が角へ向かっていく。
ジーンがギリギリまで魔物を引き付けていたためミカの攻撃が直撃し、そのままマグマの中に沈んでいった。
「もう、大丈夫?」
しばらくして、ミィがジーンに聞く。
「……いや、まだ反応があるから、出てきちゃダメだ」
ジーンがそう言うと、またマグマが盛り上がってきて魔物が姿を現した。
「角が無くなってるな」
ジーンが言う。
『魔力も随分減ってるね』
「あの角に魔力を蓄えていたみたいだな。それが無くなったから、弱体化したわけだな」
角を壊された魔物は怒りをジーン達にぶつけるように、攻撃を繰り出す。
「角が無くなって、防御力も落ちてるな」
四つの腕とマグマを避けつつ、魔力を帯びさせた剣でジーンが魔物に切りかかる。コアと同じく魔力のおかげで防御力を得ていた魔物はジーンに腕を一本持っていかれてしまう。
「ガァァ!」
コアに近づくジーンを残った腕で邪魔しようとするが、また一本ジーンに切り落とされてしまう。
『僕もいること忘れないでね!』
魔物の注意を引きつつ、ミカが魔法を発動させる。
「ギィィ!」
魔物の顔面が爆発し、大きく体をのけ反らせる。
『もういっちょ!』
大きく態勢を崩した魔物は防御もままならず、ミカの攻撃を受けてしまう。雷槍が残った二本の腕に突き刺さる。
その間にジーンがコアの目の前に来ていた。
「ガァ!」
それに気づいてマグマに潜ろうとするが、気づくのが遅かった。
ジーンがコアに剣を突き刺し、魔力を込めた。そのまま魔法を発動させる。ベクトルを調整することで魔物の身体を突き抜けるように爆発し、魔物の身体に大きな穴が開いた。
コアが破壊された魔物は、そのままマグマに沈んでいった。
『もう、大丈夫だよね?』
改めてミィが聞いてくる。
「……大丈夫そうだ。もう反応は無い」
一応レーダーで確認してからミィを守っていた壁を解除するジーン。
『大精霊様達に会いに来たのにね、僕たち』
「ホントにな。ここで待ってれば出てきてくれるんだろうか?」
「たまたま出かけてるってことも……」
「無いな」
『無いと思う』
二人に即答され、少しへこむミィ。
「まぁ、もう少しだけ待ってみようか。ちょっと場所があれだけど、腹減ったしご飯でも食べて」
マグマに囲まれて、ジーン達は食事を済ませる。暑くはないのだがあまり長くは居たくない場所なので、後回しにしようかと思っていたら突然大きな魔力を感じるジーン達。
「……お久しぶりです、大精霊様」
ジーン達の前には二人の大精霊が立っていた。
「うむ。確か、ジーンだったか? それと、お前はミカだな」
髪と目が赤く、背が高い人が火の大精霊だ。精霊の中でもかなり若いらしい火の大精霊はお兄ちゃんという感じだな。
『はい! お久しぶりです、大精霊様!』
嬉しそうにミカが火の大精霊に抱き着く。
「ミカ君は変わらず元気いっぱいね」
火の大精霊の隣に立っているのは水の大精霊だ。髪と目が青く、すらりとしている。こちらも精霊の中では若いよう。火の大精霊よりもちょっとお姉さんなんだとか。
「あら? そちらのお嬢さんは?」
ニコニコしながら、水の大精霊がミィに聞いた。
「あっ、私はミィって言います。よろしくお願いします!」
「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
この二人は……というか精霊はフレンドリーというか、仲良くしましょうと言った感じなのだ。大精霊だからといってかしこまらなくてもいいみたい。勿論個人差はあるが。
「俺達は頼み事があって来たんですけど」
「頼み事か? 何でも言ってみろ。出来るかは別だけどな」
さっきの魔物についても聞きたいが、それは試験が終わってからでもいいと考えたジーン。やっと本題に入れると安心して、試験について大精霊達に聞いていく。