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第二十七話 思い出(2)



 冒険者達を蹴散らした後、チャチャは依頼を受ける手続きを進めていた。


「……これで手続き完了でいいんですよね、先輩?」


「……確かに。依頼達成を職員一同願っています……。それにしても本当に強くなったのね」


 チャチャが書き終えた書類を確認して、マニュアル通りの言葉をかけるミーチャ。いつもはサボっているミーチャだが、今回は可愛い後輩のため自ら働いているのであった。


「ジーンも一緒に行くみたいだけど……やっぱり心配」


「先輩はいつもみたいにぐでーッとして待ってればいいんですよ!」


 チャチャはミーチャを少しでも安心させようと、若干ふざけつつも明るく元気に振る舞う。少し前ならここでゲンコツが飛んできていたのだが、今日はそれがない。チャチャも少し身構えたのだがそれも無駄に終わってしまう。


 結局は心配過ぎて集中できないからと奥の部屋へと入っていくミーチャであった。チャチャが出発直前に様子を見た時は、ぐっすりと眠ってしまっていたのだが……。

 心配だという理由を盾にサボっていた疑惑が。いつも通りのミーチャにほっこりしつつ、ジーン達は魔物討伐に出発したのであった。


「どうしてその魔物はAランクに指定されてるの?」


 普通は事前に調べたりするものだが、急だったこともあり何も知らないチャチャが疑問を口にする。


「うーん、そうだな。凶暴さとか戦闘能力だけで考えれば大して脅威じゃない魔物なんだけどな」


『本当の怖さは爆発的に仲間を増やしてしまうことなんだよね』


「ミカの言う通り、ある一定の間隔で個体数を増やしていく特徴があるんだ。沢山の卵を産むってイメージが近いかな」


 魔物の増殖方法は様々。最も多いのが突然湧き出てくるというもで、実際に目で確認したという情報は極端に少ないのだがどれだけ魔物を倒しても全くいなくならないため有力な説として一つ。


 次に分裂や子を残すというもの。種類としては少ないが、一回での分裂数、増殖数が滅茶苦茶多く。数千~数万と言われている。


 どうして種類が分かれるのか。ずっと昔から存在していたはずなのに、未だに魔物に関しては謎が多いのでよく分かっていない。


 誰かが作り出しているバケモノだとか、人が死んだ後のなれ果てだとか様々な意見が出されているが、証拠もないし矛盾点が出てくるしで全く研究も成果が出ていない。

 ミィのいた昔の時代では「精霊と同じようなもの、ただし精霊と違い害悪でしかない」とされていたらしい。ジーンやチャチャの中では、一番納得できる推測だとしている。


「卵かぁ……で、それってどうやって処理するの?」


 あたり一面卵に埋め尽くされているところを想像しつつチャチャが聞く。


『親玉を最初に倒しちゃえばいいんだよ。卵とは言っても、孵る条件は親玉が魔法発動をする以外にないからね』


「魔法の発動には数週間から数か月が必要とされているんだ。長い時間をかけて魔力を蓄えるってことだな。その間に討伐できなければ、モンスターカーニバルが起こる」


 モンスターカーニバルとは簡単に言えば魔物の大量発生である。何故こんな名前が付いたのかというと、魔物から逃げる人たちの様子が祭りでもしているかのようだったから。生まれたばかりの比較的に弱い魔物が多く、使える素材やらなんやらで稼げて冒険者たちにとっては嬉しいことだから。滅多にないことだから。等々、いくつか説がある。


『この依頼は慎重さと魔物を一撃で葬れる攻撃力が必要なんだ。魔力を蓄えている内は寝ているのと変わらないから、起こさないように近づいて一撃で倒す。もし一撃でやれなかったら魔物は中途半端でも魔法を発動させちゃうし、それでも半分くらいは卵から孵っちゃうから……そうなったら悪夢だよね』


「まぁ、油断さえしなければ余裕だと思う」


 ジーンの言葉を聞き安心するチャチャであった。


 一行は森の中へと侵入し奥へと進む。道中の魔物の処理はジーンが担当し、素早く丁寧に終わらせていく。理由は特にない。自然とそうなっていたのだ。


 何から何までチャチャに任せるのではなかったのかと思うミカであったが、問題もないかとあえて気にしない方向に頭を切り替える。


「魔物の数が少ないのも卵のせい?」


「卵のせいというか……生まれたばかりの魔物でも数が多ければ脅威だからな。魔物同士で喰われる前に逃げたんじゃないか?」


『もう孵ってたりして』


「や、やめてよ。卵を産む魔物って虫みたいなのが多いんでしょ? もし孵ってたりしたら、今回は私ダメかも……」


 そんなミカの予想は間違っていたようで、溢れるように集まっている大量の卵が見えてくる。まだ孵ってはいないようであった。


「ここからはチャチャ一人で行ってこい。じゃないと、一人で受けた理由がなくなるからな」


 そう言ってチャチャを送り出すジーン。大きな音を出さないことや炎系の魔法は使わないことは前もって注意したのだが、それを守ってくれることを願うことしかできない。


『……安心しきれないんだけど。ちーねぇ、大丈夫だよね』


「……迎撃及び逃走の準備は万全だ。ただ、大量の魔物……多分虫型だろうが、それに囲まれるのはごめんだからな。その時は真っ先に逃げたいと思ってる。最悪は森ごと焼却するしかないな」


『いや、森の焼却は迎撃の域を超えてるよ』


 そんな会話をしながら待つこと数十分。ミカによる魔法でチャチャの行動を見ていたのだが、中々親玉を発見できないでいる様子。

 一応、魔力を頼りに探しているのだがジーンとは違い繊細な魔力コントロールは得意ではないチャチャ。しばらくは彷徨い続けてしまうのだった。


『ようやく見つけたみたいだね』


「時間かかり過ぎだな」


 あとは近づいて必殺の一撃を入れるだけ。一歩一歩、ゆっくりとチャチャが近づいていくのを見守る二人。


 ここにはいないが、ミィも家で映像を見ていた。


『……あ』


「……おぉ」


 ドサッという音を立て盛大にチャチャが転ぶ。親分までの距離は約チャチャ十人分。


「……」


 倒れ込んだまま、息をひそめるチャチャ。しばらくして静かに起き上がりまた進み始めていく。


 ガチャッ!


『……ひっ』


「……おぅ」


 今度は自分の武器を落としてしまうというミスを。先ほどより音そのものは小さいが、何と言っても距離が近いのだ。親分までの距離は約チャチャ五人分といったところか。


 そっと武器を拾い直し進み始め「くちゅん!」る前にくしゃみ発動。今までで一番大きい音だった。


 流石にマズいか……と内心焦るチャチャであったが、まだ親分が起きる気配はない。


「ここにきてドジっ子覚醒だとぉ……!?」


『……落ち着いてジーン。まだ重症じゃないから』


 とは言いつつも、ミカはどこか諦めている様子であった。


 そこからは、一歩がとても遠かった。気を落ち着けようと手を置いた木が倒れ全力でそれを受け止め音を軽減。その木に巣を作っていた鳥の親子に滅茶苦茶鳴かれ。遠くにいた魔物が突然に遠吠えを。突風で飛ばされた枝などが親分に当たらないようにと討伐対象を何故か守るという状況に。


 チャチャのドジが感染するかのように続々とイベントが発生するのであった。


 起きない親分もどうかと思うが、ようやく親分に攻撃が届く位置へと到着するチャチャ。そして武器を振りかぶり魔闘技を発動させる。


 が、ここであることに気付くチャチャ。


「(どうして目が開いているの……?)」


 先ほどまでは確かに閉じられていた目が。


 キキッキキキキキッキ??


 何故か今は開かれていた。今まで起きなかった親分が目を覚ましたのは何故なのか。


「チャチャ、足踏んでね?」


『……あー、踏んでるね』


 キキキッキキッキキ!!??


 そこからはもう大惨事で魔物の嵐に阿鼻叫喚。僅かにチャチャの攻撃よりも早く親分が魔法を発動させてしまったのだった。


 生まれたばかりで小さくそして力のない魔物達であるが、数千体もいればそれは恐怖でしかない。虫が苦手なチャチャにとってはトラウマものだろう。


 必死に、それはもう必死に。叫び続けながらチャチャは魔物を倒し続けた。泣きながらも倒し続けた。


 全てが片付いたのは数時間後。


 チャチャによると依頼達成を報告した時のことは全く記憶にないらしい。記憶があるのは、その次の日からのようであった。



2021/05/26(修正)

・誤字脱字の修正

・説明の言い回しを変更/設定の修正

・口調の修正/セリフ変更

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