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第二十三話 助っ人



「ねぇ、どうしてあの村を襲うの? 理由が分からないんだけど」


 ジーンにしがみつきながらミィが聞く。その手が震えているのは、力が入っているからだろうか。


「……今分かってるのは、あいつらはミィのことを邪魔だと思っているいうこと。今すぐにでも消したい存在なのだろう。しかし、ミィの近くには俺がいて中々手を出せずにいる」


 現時点で掴めている情報を整理しながらジーンが言う。


「ここから先は推測でしかないが、多分ミィの心を折りにきているんだろう」


 細かく言えばミィが邪魔、というよりミィの持つ力が邪魔らしい。というのは、これまでに接触してきた中で少しずつ集めた情報からの憶測である。


「直接消せないのなら、ミィがかかわった人達を消して、精神的にダメージをじわじわ与える計画に切り替えたのかもしれない」


 ジーンがそう言うと、ミィが顔をしかめる。

 そこで本人にそのままを聞かせるべきではなかったと後悔するジーン。もう少しオブラートに包んで伝えても、何も悪くないはずであった。


「ミィ……のせい、なの……?」


 声を震わせながらミィが言う。


「違うぞ。悪いのはミィじゃなくて奴らなんだから」


 言ってしまったものは取り消せない。落ち込むミィにかけるべき言葉を、ジーンには探し当てることができなかった。


 それでも村が襲われてしまったのは事実だし、そのことを分かっているミィの顔は暗いままだった。ジーンが何を言っても、これ以上ミィの不安を取り除くことはできないだろう。


「もう村に着くぞ。この辺で隠れてるか?」


 ジーンがそう聞くと、少し考えてからミィが答える。


「ミィも行く。出来ることは無いかもしれないけど、ここで逃げたらダメ、な気がする。だから……力を貸して」


 沢山の選択肢の中から、ミィは一つの答えを出した。それが正しいのかどうかはジーンも分からない。


「後悔しないな?」


「それは……分からない。けど、逃げたくないから」


 ミィは、自分が村に行かないことを逃げると表現した。無意識のうちに、乗り越えるべきことなんだと思ったのかもしれない。

 実際、ここで逃げてもいつかは別の目的地で同じことが起きるだろう。今乗り越えるか、先延ばしにするかの違いであるのかもしれない。


「分かった、一緒に行こう」


 ジーン達が村に着いた時は、まだ何も起きていなかった。ジーンの予想としては、奴らはこれから魔物の軍勢を引き連れてくるはずであるということ。

 既に結界が張られていることからして、時間的な余裕もあまりないだろうことが予想される。


「いくら俺でも、この村に一匹も魔物を入れることなく処理し切るのは難しい。当然、邪魔もしてくるだろう」


「じゃあ、どうするの?」


「チャチャを呼ぶ」


 現在チャチャはジーン達とは別行動をしていた。各地で情報を集めることと、資金の調達をしてもらっているのだった。


 実力もジーンと出会った頃とは比べ物にならないくらいになっていて、一人でも大抵の討伐依頼をこなすことができるようになっていた。


 そして、ミカはというとチャチャの手助けをしているのが現状であった。


「俺はバルにこのことを伝えに行くから、ミィはチャチャに連絡を頼む」


 そう言って、ジーンはバルの家に向かっていった。勿論、ミィに何が起きても対応できるようにしている。

 奇襲にも耐えられる防護魔法に、瞬間転移が自動で作動する魔道具も持っているのだ。それこそ、山を丸ごと吹き飛ばすような火力でもないと、どうすることもできない。


「えっと、ちーねぇ聞こえる? ジーンが頼みたいことがあるから、来て欲しいって」


 首にかけているネックレスを握りしめ、ミィが言った。


 急いで来てもらう方法を考え、ジーンからのお願いにしてしまえということらしい。確かに間違ってはいないのだが、詳しい状況の説明もしないといけない気がしなくもない。


『えー、今いいとこなんだけどなぁ。でも、ジーンのお願いなら……しょうがないかな! ミカ君、位置の特定お願いね!』


『え! 依頼諦めちゃうの!? もうこれ届けるだけだよ!?』


『依頼より大事なものがあるでしょ! いざ、ジーンの元へ!』


 一応、来てくれるみたいだしジーンも今回は許してくれるだろう。と思うことにするミィであった。


『……あれ、来ないな……いつもはちーねぇすぐ来るんだけどな。……そういえば、いつもジーンのそばに移動してた気が。

 そうか、いつもミカが移動する位置を特定してるし、ミカはジーンのいる場所しか分からないから、自然とジーンのそばに出てくるんだった。しかも、いつも通りならそのまま抱き着きにかかってるっけ』


 チャチャが転移してこないのを不思議に思うミィ。いつもなら、と記憶を辿っていく彼女だったのだがここであることに気付くのだった。


「今はまずいんじゃ……」


 もしも、ミィの予想が正しいとするのならば。バルに説明をしているジーンへと突然転移してきて、更には抱き着きにかかるチャチャの姿が思い描くことができる。


 ミィがソワソワしながらしばらく待っていると。ジーンとミカ、ジーンに服を掴まれ宙ぶらりんになっているチャチャがバルの家から出てきたのだった。


 怒られたであろうはずなのに、特にチャチャは気にしている様子はない。


「久しぶりにお願いされたし、張り切っちゃうからねぇ!」


「少しくらい反省しろよな」


「……?」


 何を反省すればいいのか分からない、といったご様子。ジーンもいつものことかと切り替えて、ミィの所まで戻ってくる。

 ジーンもチャチャに対しては甘いところあるよね。とは、否定されるだけなのを知っているためミィも言わない。


「何て、言ってきたの?」


「緊急事態が起きたこと。村の端に住んでる人達に避難するよう伝えてくれって頼んできた」


『ま、僕達が揃えばそんなことしなくても守れるけどね』


「万が一に備えて、ってやつよ。ね?」


 チャチャのその自信は一体どこから出てくるのか。確かに、そんじょそこらの魔物にやられるほど弱くはない。が、戦いに絶対はないし、しかも今回は相手が相手なのだ。


「今回の目標は、街に損害を与えることなく魔物を全滅させること。そして、いつものことだが、ミィを守り切ること。もし、奴らが出てきたら倒すことよりも捕らえることを優先させること」


「敵はどれくらいいるのか分かってるの?」


 ジーンが簡単に方針を説明した後、チャチャが聞く。


「把握できていない。だから、最初から飛ばし過ぎないようにしてくれ。それともう一つ。魔物の侵入経路を限定させろ。二手に分かれるといっても、範囲が広すぎるからな。やり方は任せる」


『僕はちーねぇをサポートすればいい?』


「いや、ミカはミィの護衛を頼みたい」


 チャチャは既に精霊と契約はしているし、魔物の軍勢に遅れをとることもないだろう。という信頼であった。


「もうすぐにでも魔物の姿が見えるはずだ。レーダーの範囲に入った。……千以上は確実にいるな。レーダーに入ったやつだけでその数だ。おそらく、まだまだ奥にいるだろうな。……いくぞ」


 一斉に、飛ぶように駆けていく。


 チャチャは自身に与えられた場所へと。ジーンは、バルを拾ってからチャチャを追いかけるように。


 村で一番端に住む人の家へとバルを送り届けた後、ジーンは念のためにと家屋が破壊されないように魔法で耐久度を底上げする。

 それを完了させた後、急いで魔物達が進軍してくる森の方へと向かっていく。


 既に魔物が視認できるくらいには近づいてきていた。

 ただ、それでも慌てることなく。ジーンとチャチャは村の周りを覆うように魔法を発動させていくのだった。


 ジーンは土で壁を作り、村への侵入経路を断つ。属性を持つ魔物が来ることを考慮して、触ったらカウンターで魔法が放たれる仕掛けもして。いつの日か使えるだろうと、密かに特訓していた魔法のお披露目であった。


「よし、いつでもこいや」


 壁を背に、気合を燃え上がらせるジーン。彼自身は壁の外で戦うつもりらしい。


「お願い、イッチー!」


 一方チャチャは、沢山の光の粒に包まれて精霊の召喚を行っていた。


『――――』


 チャチャに召喚されたのは、薄い青の髪をしたチャチャと同年代ぐらい、つまり二〇代前後の容姿をした青年。


 一応顔は整っているが、誰もが目に止めるような美形ではない。不細工ではないが、かっこよくもない。体形はすらりとしていて、一言で言えばどこにでもいそうな姿をしている。

 というのが、チャチャからの評価であった。


「聞いてたでしょ? 早いとこ何か作戦を考えて」


『仰せの通りに……って、いっつもそれじゃねぇか! たまにぁ自分で考えたりしろよ!』


 イッチーと呼ばれた、チャチャと契約した精霊は。本名はイチ(自称)。持っている力もそれなりにあり、様々な状況に対応できる柔軟性も持っている。

 ミカと比べてしまうと少し見劣りしてしまうが、精霊の中でも高位の部類に入る。とは、ミィからの評価。


「人には役割っていうものがあるの。分かる? あなたが考えて、あなたがそれを実現させるの」


『俺は人じゃねぇんだけど……って、しかもそれだと俺しか働いてないじゃねぇか!』


「早くして。ジーンに怒られてもいいの? 全部イッチーのせいにしちゃうんだから」


『鬼がいるぞ、魔物より魔物してやがる……』


「何か言った?」


『なんでもないです、はい。……ジーンと同じように壁を作るのは?』


「却下」


『逆に穴掘って、水を溜めるのは? ほら、堀みたいな』


「却下」


 こんな状況も初めてじゃない、というか毎回な気がするが却下されても動じることなく次々に案を出すイッチー。

 チャチャのこういうところは理解している……させられているみたいだ。


 もう目の前まで進軍してきているのだが、早くしないとといった焦りはこの二人にはないのであろうか疑問に思えてしまう。


「もっと、あっと驚くような案はないの?」


『……空間を歪ませて、どこから入っても一か所からしか出てこないようにさせる、とか?』


「できるのね?」


『じゃなきゃ言わねぇよ』


 ニヤリと笑い合う二人。と、早くしろよと思いながら黙って見守るミィとミカ。

 ミカとミィは魔法で遠くからでも状況が分かるよう、映像として戦いの様子をみているのである。


 くるりと、チャチャに背中を向けるイッチー。イッチーの背中に広げた両手を押し当てるチャチャ。


「……同調開始」


 魔法の発動は一瞬だった。チャチャが「ふぅー」と息を吐き、手を背中から離す。


「……結構持ってくじゃない」


『いや、そんなこと言われても……それよりも、ほら。魔法は成功したんだから早く行きましょうよ! もう魔物来ちゃいますよ姉御!』


「誤魔化すには雑すぎるわよ」


 むすっとした顔で、魔物が転移してくるポイントに向かうチャチャと、その後を追いかけていくイッチーである。


「あれって、仲が良い……のかな?」


『相性がいいのは間違いないと思うよ』


 イッチーは魔力のコントロール、魔法の知識、対応力がとても優れている。その点で言うと、ミカ以上と言ってもいいかもしれない。が、欠点が一つ。魔力保有量が圧倒的に少ないということだ。どれだけ魔力の扱いに長けていると言っても、扱う魔力がなければ意味がない。


 チャチャは魔力のコントロール、知識はまだまだ発展途上。イッチーの足元にも及ばないだろう。だが、チャチャは魔力保有量が尋常じゃなく多い。今ではジーンよりも多いだろう。

 しかし、どれだけ魔力量が多くても、魔力のコントロールが劣っているので効率が悪く、すぐ底が尽きてしまう。


 では、この二人を組ませたら? チャチャが持っているたくさんの魔力を、イッチーが効率よく強力な魔法に変化させる。


 強いのだ。この二人が組んだら、ジーン一人なら全く歯が立たなくなってしまうくらいには。

 チャチャはまだまだ成長し続けるし、二人の繋がりも強くなっていく。どこまでも、可能性は広がっているのだ。


『ま、僕とジーン二人ならまだ僕たちの方が強いけどねっ』


「……頼もしい限りです」


 ジーンもチャチャも準備が完了といったころで。


「さて、最初はどいつからだ?」


 ジーンは光り輝く魔力を身に纏い、赤青緑とカラフルな魔物の群れに突っ込んでいく。


「ぱぱっと終わらせますか」


『ま、俺らなら一瞬よ』


「じゃあ全部任せるわ」


『ちょ、聞いてました!? "俺ら"ならって言いましたよね!?』


「うるさっ」


『ひでぇ……』


 軽口を言いながらも、チャチャも魔力を纏わせる。ジーンとは違い、白っぽいものの若干濁った色をしている。

 その後ろでは、イッチーが、どうすれば早く敵を殲滅できるかを考えているのだった。



2021/4/21(修正)

・誤字脱字の修正

・説明の言い回しを変更

・口調の修正

・状況の変更。戦闘前の準備部分を少し変更

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