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第二十一話 興奮



 ……あれ、私何してたんだっけ?


 魔物の群れと戦ってて……それからでっかいのが出てきて……私、勝ったんだっけ? 途中までは覚えてるんだけど、な……?

 

「……りさ……お……だろ」


「は……よ。……うす……で……」


 誰かの声がする。ミィとジーン、だよね?


 よかった。二人の声が聞こえるだけでも安心した。


 ……そういえば、もしかしなくても運ばれてる?さっきから揺れてるし。


 当然ミィは無理だろうし、となればミカ君かジーンかな。


 それにこの感じ……間違いなくおんぶじゃない。ってことは、抱っこ? いやいや、まだ魔法って可能性も……ないんだよなぁ。腕の感触はあるんだよなぁ~。


 まてまて。ここは一旦、落ち着いて考えてみよう。


 ……ふむ、この体勢から導き出される選択肢は決して多くない。


 お姫様抱っこされてるな、私。


 ……やっべぇよ、そう考えるとめっちゃドキドキしてきた。声がする位置からして、絶対ジーンに抱かれてるわこれ。かなり恥ずかしい。


 めっちゃ後悔だよ! 何も考えずにスッ、と起きてた方がまだマシだったよ!


 あ~、なんか顔熱くなってきたわ~。完全に起きるタイミング間違えたわ~。


 今の私にできるのは、こうして目を閉じて寝たふりをし続けること。よし、今は甘んじてこの状況を受け入れよう。


 ……にしても、どれだけ時間経ったんだろう。そもそもどこ向かってんの、これは。


 パパ、ママどうしよ。恥ずかしすぎて死んじゃいそうだよ。え? そんな下らない理由で死なないでくれって?


「あとちょっとだから、慌てない慌てない」


「む~、変なとこ触ったらだめだからね」


 ちょっと! 変なとことか言わないでよ! 意識しちゃうでしょ! ……どうしよぉ、あとどれくらい我慢すればいいのかな。


『こんなチャンス滅多にないんだから、そのままでいいじゃん! それに、ギュっとしても……今ならばれないんじゃない?』


 ! ……やっべぇよ、ミカにはバレてたよ。逃げ出したい……けどもったいない、って考えてる自分がいるからほんと困っちゃうよ!


 あぁ、顔が熱い。こんなに緊張したのって久しぶり……!


「おっ、ちょっと持ち方悪かったか?」


 うっわ! やっちゃったよ私! ギュっ、ってしちゃったよ! 悪魔の囁きに負けちゃったよ!


 ……ミカ様ミカ様、どうかこのことはご内密に。


『もちろんだよ。ジーンは鈍感だけど応援してるからね!』


 応援って何をよ。


「? ジーンのこと好きなんでしょ?」


 違うわ! いや、違わないけど! 私は憧れとか、尊敬とかそっちの方なの。同じ好きなんだけど、あっちの好きとは違うっていうか。


『そうだったの? お似合いだと思ったんだけどなぁ』


 えっ? ほ、ほんとに?


『嘘なんか言わないよ。応援してるって言ったでしょ?』


 ……ま、まぁいいわ。今はそんなことよりも、ばれないようにしなきゃね。えっと、後どのくらいか分かる?


『もう着くよ。あと五分くらいかな?』


 あと五分だ。頑張れ私。


『ねぇ、ジーンってチャチャのことどう思ってるの?』


 ? 何聞いてんのミカ……? 普通そんなこと聞かないでしょ……? どうしてこのタイミングでそんなこと聞くの……!?


「ん? ま~この前会ったばかりだからな」


「何かあるでしょ? かわいいとか、優しいとか」


 ミィも真面目に答えなくていいのにっ。


『失敗作食べさせといて、優しいとかないんじゃないかなぁ』


「(ミカは黙ってて!)」


 あ~、もういい。もういいから早くして。いっそのこと今すぐ起きちゃおうかな……やっぱ恥ずかしいわ。却下。


「ま、いい奴だとは思ってる。自分と向き合おうとしてるし、ミィの力になろうと頑張ってるしな。多分、いなくなったら寂しいって、そう思えるような存在にはなってるかもな。本人の前だと恥ずかしいから言えないけど」


「それって、遠回しに“俺から離れるな”って言ってるようなものじゃ……?」


「そういうつもりはなかったが……」


『ねぇ、僕は? 僕がいなくなったら寂しい?』


 ……いや。嬉しいけどさ。嬉しいんだけど、それ以上に恥ずかしいんだけども。だって、今お姫様抱っこされてるんだよ? ギュってしてるんだよ?


 ミィもそんな考察しなくてもいいのに。しかも何でそれを言っちゃうの? もしかして私が起きてるの気付いてる?


「あぁ、ミカもいなくなったら寂しいぞ。っと、そうこうしてる内に着いたみたいだな」


 え、どこに着いたのよ。そういえば行先知らないんだけど。


『私の出番ね! 確か……ここを、こうして……こう!』


 ん、何? ゴゴゴゴって大きな音してるんだけど。……もしかして、起きるチャンス? んんっ。で、でも、もう少しこうしてたいかも……。


「おぉ、立派な家だな! 早速で悪いが、チャチャを寝かせられるとこあるか?」


 家? ミィの家のことかな。……だったら、もう少し我慢しようかな。


「えっとね、入って右側の一番奥の部屋なら、多分大丈夫」


「『お邪魔しまーす』」


 お、おじゃましまーす……。


「ちーねぇ寝かせたらこっち来てね!」


「分かった」


 ……あぁ~ベットだぁ。安心。心地良いわー。落ち着くわー。ちょっと残念だけど私の心臓的にはありがたいわー。


「……お疲れ様。ここゆっくり休んでろ」


 ……頭ナデナデしてったわー。ぞわってしたわー…………もう一回して欲しいわぁ~。


『くねくねしてる。流石に……気持ち悪いかも』


 ミカ君まだいたのか! 絶対内緒だからね!


『まぁいいけど。じゃ、落ち着いたら起きてきてね』


 たたたっという足音が遠のいていく。


 ……もう行ったかな?


「よしっ」


 そろーっと目を開けるチャチャ。そして誰もいないことを確認し、大きなため息を吐く。


「はぁー、まだドキドキしてるよぉ、恥ずか死ぬ」


 落ち着くまでベットの上でゴロンゴロンとしていたが、暫くして身体を起こすチャチャ。もう少しここにいようか迷っていたところにミィが来る。


「ちーねぇ大丈夫? ここはミィの家の中で、あっちでこれからのこと話し合ってるんだけど……もう少し休んでる?」


「ちょっと体が重いけど……だいじょうぶ」


 チャチャはミィが持ってきてくれた水を飲んだあと、そう伝える。立ち上がって体の調子を確かめつつ、ちらと横目でミィの様子を伺う。


「? どうかしたの?」


「ううん、何でもない。はやくいこっ」


 ミィは起きてたこと気づいてないみたいだ。多分だけど。と、安堵するチャチャであった。


 チャチャ達が大きめの部屋に入ったとき、ミカがニヤニヤしていた。ここで突っかかれば余計な疑いをかけられると思ったチャチャは、できるだけ気にしないように無視を貫く。


「もう少し休んでてもいいんだぞ?」


「私は大丈夫。それより、何か情報は手に入ったの? (ただ話すだけなのに、変に意識しちゃう。冷静を保たなきゃ……)」


「んー新しく分かったことは特に無いな」


「でもね、地下には本がいっぱいあるから何か分かるかもしれない、って話してたとこなの」


「ま、それは明日以降ってことで、今日はゆっくり体を休めるつもりだ」


 それからは、チャチャとミィが遅いお昼ご飯の準備。ジーンはその間に何冊か本を見つけてきて少しだけ目を通しており、ミカは家の中を探検していたようだ。


「んー、精霊について少し知ることは出来たが……ミィ達を封印した奴らについては分からんな」


『焦っても仕方ないんじゃない?』


「……そうかもな。とりあえず飯だ」


 出来たよー、と呼ばれたので美味しい料理の香りに誘われるままに歩き出す二人であった。


「「「『いただきます!』」」」


「そういえば、精霊って食事がいるの?」


 ふと疑問に思ったことをチャチャが聞く。


『食べても食べなくても、どっちでも死ぬことはないんだ。僕は、美味しいから食べてるけど』


 ミィは知っていたようで、特に気にしていない。


「食べたら成長するとか、そういうことはないのか? (あっ、何かここだけ苦ぇ)」


『僕は関係ないみたい。他の精霊は知らないけど』


「食べ物で成長する精霊もいたけど、多くはなかったかな」


 ミカの答えにミィが付け足す。


「「「『ご馳走様でした』」」」


 若干不可思議な味がする料理を食べ終える。もっとも、失敗した部分はジーンの皿へと集めていたため、そんな感想を持ったのはジーンだけであるが。


「何してるの?」


 片づけを終えたらしいミィが、外へと出ていたジーンに声をかける。


「魔法の開発をしてるんだよ。今は空間魔法……物を収納したりするやつを改良中」


 今までは収納をしていても時間経過で食べ物をダメにしてしまっていた。が、改良に成功すれば永久的にに保存が可能になる。予定である。


 すぐにその試みが成功するはずもなく、結局は先送りにする他ないと判断することになる。他にもすることは山ほどあるのだ。


 手のひらを広げ、そこに火を生み出す。それを小さく、一か所に集めていく。弱く、ではなく凝縮するイメージ。


 今度は、小さくなった火を広げていく。火力としては弱まってしまうが、先程まで手のひらに収まっていた火がその三倍ほどにまで大きく広がる。


 魔法の一点集中と、広範囲化。これは元々出来ていたことだ。


 次に、ジーンはそこへ地の属性を混ぜ込んでいく。すると、揺らめいていた火が次第にドロドロに変化していった。


 更に意識的な部分で真逆の状態をイメージする。と、一瞬で溶岩が冷え固まった状態へと変化する。


「ふむ、なるほど……?」


『へへっ、いつかは僕の力なしでも使えるようになるよ!』


 ミカとの契約により、それに加えて複合や反転が出来るようになったことを確認するジーンであった。


 現状はまだ試行錯誤の段階だが、これで戦略の幅も増えたことになる。


 自身だけの技、考えただけでも興奮してしまうジーン。


「ま、チャチャには教えるかもしれないけどな」


 仲間に共有しないのは、ジーン的には許容できないことであったらしい。


 日中は魔法、魔闘技の修行を行う。夜は情報を集めるとかでもいいかもしれない。そうやって、少しづつジーンは計画を立てていく。


 どれだけこんな生活が続くのかは分からないが、ここが一つの拠点になるだろう。


 まだ分からないことの方が多いが、皆がいれば何とかなる。そんな気がしてる。少し前まではこんなこと思いもしなかったのに。


 ……三人も、そう思ってくれてるのかな。


 一人夜風に当たり、そんな風に考え事を巡らせるジーンであった。



2020/8/24(修正)

・誤字修正

・それぞれの口調が気になったので修正

・魔法開発をしている場面の内容を一部変更

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