表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/347

第二十話 決着




 チャチャが戦い始めて数時間。


『これで、百体目だね! まぁ、ようやく半分……三分の一って感じかな(ポリポリ)』


「えっ! まだそんなにいるの!?(ごくこく)」


「そうだな。(むしゃむしゃ)それに最後は、群れのボスみたいな強い奴ばっかと戦うことになるんじゃないかな(ごくごく)」


 チャチャが懸命に戦っている中、三人は結界の中でくつろいでいた。途中までは結界の周りをうろうろしていた魔物も、ジーンが無双してからはまったく寄り付かなくなっていたため、完全に観戦モードに切り替わっていた。


『あっ、一撃もらっちゃったね』


 ミカが一言。


「ん~かなり疲れが溜まってるな。もうちょっと頑張って欲しいんだが」


『ジーンも参戦してきたらいいんじゃない? 挽回のチャンスでしょ』


 ミカにそう言われ、少し困ってしまうジーンである。


「確かにあれは無いと思う。魔物軍団の中心にちーねぇを放り出すなんて」


 ミィにも言われてしまうジーン。二人から責められてしまっては、何もしないという選択肢は取れないジーンである。


「……ま、チームプレーの練習にはなるか」


 素直に助けに行くと言うのが恥ずかしいからこそ、言い方を少しだけふわっとさせるジーン。そんなジーンの心中を察し、ニヤニヤしながら見守る二人であった。


『ミィのことは任せてよ。あ、お菓子ちょうだい』


「いってらっしゃい。あ、お菓子置いていってよね」


 そんな二人に見送られてチャチャのもとへ向かうジーンである。勿論、二人にお菓子はちゃんと渡すことも忘れずに。


「……何しに、来たのよ」


 チャチャは飛び掛かってきた魔物を殴りつけて吹っ飛ばし、隙を窺っていた別の魔物にぶつけて牽制。そうして作られた貴重な隙を使って、ジーンに問う。


「いやね、連携プレーも大事になってくるでしょ? だから手伝いに来たわけよ」


 チャチャがぶつけた二体と、その近くにいた三体を一瞬で氷漬けにしつつそう答えるジーン。そして、先ほど受けた攻撃でできたチャチャの傷を治す。


「……足、引っ張らないでよね」


 素直になれないところはよく似てるな、と思いながらお菓子を頬張るミィとミカ。


 その後は、チャチャもジーンも怪我一つしないまま順調に魔物の数を減らしていった。チャチャも注意する範囲が大分狭くなったので、大胆な行動をとれるようになっていた。

 

『おお~遂に二百体いきましたね』


「一人から二人になっただけでも随分違ってくるんだね。ジーンだからってのもあると思うけど」


 後ろから突っ込んできた魔物を無視し、正面に居る魔物へ向かうチャチャ。それで魔物は倒すことができたが、後ろからの攻撃に対応することは出来ない。

 

 もう少しで攻撃が当たってしまう。というところで、急に盛り上がった土の壁がそれをガード。


 チャチャはすぐさま振り向き、回し蹴りでその壁を粉砕。それと同時に魔物を仕留めていく。また、粉砕された壁の一部を飛び散らせ他の魔物を牽制し、隙が出来たことを見逃すことなく、再びチャチャは動き出していく。


 ジーンの役割は、ひたすらにチャチャの補助をすること。時には壁を作ってガードを担当。またある時には、魔法でトドメの一撃を担当。さらには、空中での足場を作ったり爆発で気を引いたりなどなど。


「あっ、何かでっかいのが出てきたよ! 五体も!」


『ちーねぇにはちょっと厳しいんじゃないかなぁ』


 ミィとミカが言うように、他の魔物よりも二回りほど大きい魔物が出てくる。狼のような魔物が三体と、人の形をした魔物が二体。


「あれが喰牙なの?」


 ミィがミカに聞く。


『違うね。喰牙はもっと強そうな見た目だし。それに、多分喰牙は出てこないと思うよ』


「もっと強そうな見た目って……。あれでも十分強そうなんだけど」


 二人がそんな会話をしている内に、狼型の魔物が一体チャチャ目掛けて突っ込んでいく。


「他四体は俺が相手するから、とりあえずチャチャはあれ頼んだぞ。ついでにちっこい方も何とかしてやるから、絶対負けんなよ」


「分かったわ」


 チャチャの返事を聞いた後、ジーンは魔力を身に纏う。ユラユラと真っ白な魔力が神々しい。


 ジーンでも流石に……と、ミィがそう言いかけた時には全てが終わっていた。


「「……は?」」


 ミィとチャチャは驚きを隠せず、ポカーンと口を開けてしまう。チャチャが相手をするはずだった魔物も、何が起きたのか分からず一歩も動けなくなっていた。


 ミィは説明を求めようと横を向くが、いつの間にかミカがいなくなっていて余計驚く。


『あはっ、流石ジーン! 僕と契約して更に強くなったんじゃない?』


 ジーンの隣でぴょこぴょこ飛び跳ねながらミカが言う。


「ま、強くなっていないと困るけどな」


 流石に少し無理したため、ジーンは息が上がってしまう。ただ、本人としては良い運動になった程度の認識であった。


 しかし、それがあまりにも異常なことだというのはチャチャもミィも分かった。


 何が起きたのか。一言でいえばただ魔法を使っただけである。


 ならばどうして魔力を纏ったのか。答えは簡単「かっこいいから」である。


『驚いた?』


 いつの間にかミィの隣へと戻ったミカが聞く。


「……どんな魔法を使えばあんな風になるの?」


 凍り付いてしまった魔物もいれば、焦げてしまっている魔物もいる。首が飛んでしまっている魔物もいるし、くし刺しにされている魔物もいる。


『ただ複数の魔法を使っただけだよ。氷属性、雷属性、嵐属性、後は土? でいいのかな』


「……一瞬で?」


『一瞬で』


「……氷も雷も嵐も習得するのも難しい属性だよね……複数扱える人なんていないと思ってた。しかも同時に」


『えへへ、ジーンだからねっ!』


 そんなグッ! と親指立てられても反応に困るのでやめて欲しいと思うミィであった。


 それに、ミィがいた時代ならその程度の認識なのだが……実は、今ジーンが使った属性は失われた技術とされている。


 現在それらの属性を使うには、複数人で大量の時間と魔力を使って初めて発動できる魔法である。いわゆる合体技的な位置にあるのだった。


「これで思う存分戦えるだろ?」


 ジーンがチャチャにニヤッと笑いかける。当然あいつに勝てるだろ? とでも言いたげなその顔に、チャチャは湧き上がってくるものを感じる。


「これで負けたら、弟子失格ね」


 あれ? チャチャって弟子だったっけ? そんな考えを口にするのをこらえるジーンである。


 声が震える。心が震える。強大な敵に怯えているのか、ワクワクしているのか、憧れ、不安。色んな感情が湧き上がってくる。


 敵は、警戒してまだ攻撃を仕掛けてこない。


 気持ちを落ち着かせ、目の前の戦いに集中していくチャチャ。


 数秒後、しびれを切らして魔物が突っ込んでくる。予想以上に動きが早く、ギリギリでそれを避けることになった。その際に、近くにあった石を投げつける。


 目を狙って投げられた石が一直線に飛んでいく。しかし、チャチャの攻撃は簡単に避けられてしまった。


「そういえば、武器預かったままだったな」


 なんで素手で戦うのか疑問に思っていたジーンは、没収した武器の事を思い出す。どのタイミングで渡せばいいのか少し思案し、ピンチの今渡そうという答えにたどり着く。


「っ!」


 敵の攻撃をかわした後の、絶妙なタイミングで現れたダガーに驚くチャチャ。しかしそれが自分のだと分かると、すぐさま手に取り構え直す。


 既に魔物はチャチャに向かって突進中であった。それでもチャチャは、慌てることなく再び石を投げつける。しかし、そんなことしても無駄だとばかりに、今度はその石を避けずに魔物は突っ込んでいく。


 多少の傷をつけられたものの、致命傷には程遠い。が、チャチャが飛ばしたのは石だけではなかった。自分の武器であるはずのダガーもチャチャは投げつけていたのだ。


 避けられないと悟ったのか、それでも魔物は突っ込んでいく。その結果、ダガーは魔物の左目に突き刺さることになった。


「もう少し警戒しなさいよね」


 チャチャがそう言うのと同時に、魔物の左目が爆発する。浅くはないダメージを受けて、流石の魔物も足が止まる。


 その隙に今度はチャチャが魔物に突っ込んでいき、魔物の右目を潰す。


『あのダガー一本で形勢を逆転させちゃったね』


「……ダガーは木端微塵に爆発しちゃったけどね」


 その後は焦ることなく、チクチクとダメージを与え続けていき、すぐに決着がついた。


「よくやった。ダガーの爆発には驚いが……お疲れさん」


 立ち尽くして動かないチャチャを不審に思いながらも、ジーンが声をかける。しかしチャチャからの反応は無い。


 ふらっ、とチャチャが倒れそうになったのを見て、ジーンは慌ててチャチャを抱き留める。


『よっぽど疲れちゃってたみたいだね』


 チャチャは、すーすーと寝息を立てていた。


「ここで休ませるか……いっそのことミィの家まで行くか?」


「えっと……結構遠いの?」


 遠かったらやだな、なんて思いながらミィが聞く。ミィは頑張った姉よりも自分がかわいいらしい。


「いや、二十分くらいで行けそうな距離だな」


 その言葉を聞き、ミィは安心した様子で「早く行きましょう」と出発を促すことに。


「ちーねぇを早く安全な場所で休ませてあげないとね!」


『ちーねぇはジーンが運んでよね。僕たちじゃ無理だから』


「しょうがないか」


 ジーンがチャチャを腕に抱える。お姫様抱っこというやつだ。


 ミィは何か言いたそうにしていたが、ミカに止められてしまっている。文句っぽい言葉が聞こえた気がしたジーンだったが、気にしている暇は無いと切り替える。


「遊んでる暇はないからさっさと行くぞ?」


 ジーンを先頭に、三人はミィの家に向かい歩き出す。




2020/3/1(修正)

誤字脱字の修正

口調の修正

言い回しの変更

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ