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第二話 魔物は怖い


「ぴぎゃぁーーー!!」


「ぼふぅーーー!」

「ばふぇーーー!」


 ジーンがミィの姿を捉えた時、既に二体の魔物に追いかけられている最中であった。


「ハァ、ハァ……! ジーン助けて!」


 直後、ミィもジーンを見つけ次第すぐに助けを求めることに。


 一歩踏み出すのと同時、ジーンはミィの後ろを走る魔物の特徴を観察そして対処法を導き出す。


 赤と緑の肌を持ち、不安定ながらも魔力を纏うその姿。二体の魔物はそれぞれに属性を持っていると判断できた。良く見られるの魔物とは違い、弱点の属性で対応しないと傷を負わせにくいのが厄介な特徴。

 魔力を使用した属性攻撃ができない生物にとっては対処に困る、いわゆる属性持ちの魔物であった。

 

 小さく息を吐いたジーンは、先ほどまでとは比べ物にならない速さでミィへと接近。そしてそのままミィを通過し、二体の魔物を腰に差していた剣で斬りつける。


 ぼんやり剣が光っているのは気のせいではないだろう。


 ジーンに斬りつけられた魔物は自分達が斬られたことすら分からなかったご様子。横を通り抜けていったジーンへと怒りの声をぶつけるのだが、反撃をしようと一歩踏み出したところで異変が。


「ぐぃ……?」

「がぅ……?」


 胴体から真っ二つに崩れ落ち。核となる部分を破壊されたのか、すぐに身体ごと朽ち果ててしまった。


 ジーンは魔物が絶命したのを確認し、近くに新手が来ないか警戒しつつミィに話しかける。


「大丈夫か? 手当てするからこっちに来て」


 緊急性を要するくらいに大きな怪我は無いようで一安心。しかし、小さな擦り傷があるらしく少々出血が見られる。


「ちょっとだけ枝とか葉っぱで切れちゃったみたい。あとは特に大丈夫だと思うけど」


 大丈夫、その言葉を言うことは簡単である。だが治療するしないの判断をするのはあくまでもジーンであるわけで。


 すぐさま精霊を呼び出し、怪我の治療に取り掛かるジーンであった。今回力を借りるのは水の精霊であるスイ。

 水の精霊は回復魔法と相性が良いため、使用する魔力を若干減らすことができその効果も大きくなる。良いこと尽くめである。


「スイ、ミィが怪我したんだ。手伝ってくれ」


「ミュミュ!」


 ジーンはミィの傷に触れて回復魔法をかけていき、スイはジーンの頭にしがみつき補助役に徹する。

 二人の魔法が発動し、その手先が優しい光に包まれて。治療が終わった頃には小さな傷が綺麗さっぱりに無くなっていた。


「ジーン、ありがと! スイもありがとうね!」


「ミュー!」


 スイは傷が治って良かったと言っているようであった。ジーンもスイにありがとう、と撫でてあげてからスイを送還する。


「毎日、ってわけじゃないがミィは何かに追いかけられてる気がするな。今日はどうしてあいつらに追いかけられてたんだ?」


「ミ、ミィも好きで追いかけられてるわけじゃないんだけど。ミィがトイ……お花を摘んで戻ろうとしてたら、あいつらが急に出てきて追いかけてきたんだよ」


 属性持ちの魔物は普通の魔物と違い数が多くない。意図的に探そうとしない限り、あまり出会わないはずであった。


「ま、早いとこ村に向かうか。他の魔物が寄ってくるかもだし」


「魔物怖い……は、はやくこっから離れようよ」


 恐怖が消え切っていないらしく、怯えてしまっているミィを少しでも安心させようと優しく手を取るジーン。

 そのまま村に向かって歩き出し、これ以上遅れが出ないようにと強引に進んでいく。


 それからは急ぎ足で村に向かっていくのだが、その間に何度か魔物に遭遇してしまう。

 そのたびに泣きそうになっていたミィであり、その姿は実に可哀そうなものであった。最後の方なんかはジーンの腕にしがみついてしまっていた。かわいい。


 そんな可愛かったミィをもっと見ていたい。村までの道のりが伸びてくれ。そうジーンが思ってしまったのもきっと仕方がないのだろう。


「あそこだな。ほら、着いたぞミィ」


 日が落ちる前に村に着くことができて良かったと、胸をなでおろすジーンであった。

 ミィとして村が見えたら少し冷静になったのだろう。あんなにもひっしりしがみ付いていたジーンの腕からはすぐに離れてしまう。


 ミィは初めて訪れる場所であるのだが、ジーンにとっては何度か訪れたことのある村である。多少は勝手も分かっているのだが、今回は少々気が向いていないらしい。何故だか一目散に今夜泊まれる場所へと向かい加速していく。


 そんな二人に向かって誰かが遠くから呼びかけてくる。まだ距離があるはずなのに、不思議と声が通ってきて明瞭に言葉を判別することができた。


「おーい! ジーンじゃねーかー! 久しぶりだなぁ!」


 確かに名前を呼んでくるのが聞こえているはずであるのだが、それを無視。


「……」


「ジーン? なんか呼ばれてるけど大丈夫なの?」


 ミィはジーンが気付いていないと思ったのか、優しく言葉をかける。


「俺にあんな知り合いはいないな」


「おーい! なんで無視するんだよー! 俺だよー!」


 俺だよー、ってなんだ。それじゃ誰か分からんだろう。とジーンは心の中で思う。


「ジーン? なんか……どんどん近づいてくるよ?」


 ミィが怖がってしまっている。これ以上ミィの精神的ダメージを蓄積させたくないのだが。取り敢えず声量を下げてくれと思うジーンである。


 もっとも、声の主はそんな事情を知るはずもない。そのため物凄い勢いで近づいてくるのを止めてくれるわけもなく。必然的にその声もどんどん大きく聞こえるわけで。


 そろそろぶん殴ってやろうかと怒りを溜め込むジーンであった。


「おい、俺だって! 忘れたのか?」


 ジーンの知り合いらしき男はジーンの肩を叩きながらそう言った。


「だ・か・ら! 俺だ俺だばっかり言ったって分っかんねぇよ。お前はどっかの詐欺師か! いい加減にしろ、バル!」


 ジーンがバルと呼ぶその男は、特徴のある髭を持ったおっさんだった。


「なんだよ覚えてんじゃねえか。んで、詐欺師って何のことだ?」


 何度もジーンの肩を叩き喜びの感情をその手に乗せる大柄の男。


 あんま乱暴に叩くなよな。ミィがガクブルしてるじゃないか。まぁ、バルはインパクトがあるから、しょうがないのかもしれんが。

 とは思っても、それを口に出すことはない。


「む……細かいことは気にすんなよ」


「そうか? まぁ、なんにしろ久しぶりだな! いつぶりだ?」


 だから肩を叩くなって。鬱陶しいことこの上ない。ミィが泣いたらどうしてくれんだよ。

 とは思っても、やはりそれを口にすることはなく。


 怒りが雪のように降り積もっていくジーンである。この怒りが熱で溶けて消えていくまさに雪のようなものであれば良かったのだが、そんな都合の良い怒りは存在しない。


 ぐつぐつとジーンの中で煮え滾っていくのは、至極当然のことであった。


「あぁ……覚えてないな」


 ちょっと面倒くさくなってきたのか。諦め半分呆れ半分といった様子であった。


「ねぇジーン? この人誰なの……?」


ミィが魔物にでも出会ったかのように怖がっている。よし! 泣かなかったな! えらいぞ! と心の中でミィを称賛するジーン。


「! おいジーン、誰だこの子? まさか……」


 バルは目を細め、怪しんでますよとそのぶちゃいくな顔で主張する。そしてその顔でミィをジロジロと観察。


 そしてびくっと身体を震わせるのはミィ。


 本当に殴ってやろうか? とは思っても、口にも出さないし手も出さないジーンなのであった。


「うっさい、バルはちょっと黙ってろ。それにそんなやらしい目で見んな」


「うぐぅ、そんなつもりは……」


 ジーンはバルの言葉を遮り、ミィにバルを紹介していく。


「あー、こいつはバルだ。俺の古い知り……下僕だ」


「えっ! ほんとうに!?」


 下僕という単語に目を開いて驚くミィである。


「いや、ちげーよ! 知り合いって言いかけてなんでわざわざ言い直したんだよ!」


 バルは怒っている。どうしてだろう。やはり下僕が気に入らなかったのかな。これは謝らないと、一応。とはジーンの思考回路。


「すまない、つい本音が出てしまった」


「本音だったのかよ! 驚きだよ! はぁ、お前は昔からそうだしな。しょうがないか。ま、バルってのはあだ名だな! 俺はバルデミウルゴスってんだ! 覚えておいてくれ!」


「切り替えるの早いな、バルは」


「おうよ! それが俺の良いとこでもあるからな」


 ジーンがこの村にあまり寄りたくなかったのは、ほとんどこのバルの存在があったからこそ。今回はミィがいるため余計にであった。


「悪い奴じゃないのは確かなんだが……まだガハガハ笑ってるし、まーうるさいのは間違いない。慣れなくていいから嫌な時は遠慮なく罵倒してやってくれ」


「ば、罵倒……?」


「ガハハハハっ。ぶっ飛ばすぞオイ!」


 こうして、ジーン的にかなり鬱陶しい人物に出会ったのだった。



2021/06/01

・誤字脱字の修正

・口調、表現の修正

・登場した魔物の設定を修正

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