強制イベント発生? その5
拳が飛び蹴りが薙ぎ。右へ左へと壁に激突しながらも。上へ下へと、床や天井へと張り付きながら敵を追う。
そこそこに大きな訓練場でも、スペースが足りないのはスケールの違う戦いが行われている証拠に他ならない。
そんな二人の戦いを現地で見守るのは、既に数人しかいない。怪我人を増やさないようにと、神子直々に撤収の命令を出したのだ。その代わりに、映像での公開をしているのであった。
残っているのは、神子、ドート、ソチラ、そして遅れてやってきたタマである。
「ねぇ、あんたもあれくらいできるようになってよね」
「タマがいてくれれば、俺だってできるよ」
「一人でって言ってるのよ、この馬鹿っ!」
相も変わらずのソチラとタマであった。
そんな二人の様子を、羨ましそうな視線を向けるのは。
「あの、何かありました?」
「いや、なんでもない」
ドートからの視線が気になり声をかけるソチラだが、話を流すドート。すぐに妹の戦う姿へと注目を戻すのであった。
そんなドートの様子を見て神子はなんとなく察するものの、特に何を言うわけでもなく。
何やら妙な雰囲気を察知するものの、それ以上は聞くに聞けないソチラとタマであった。
「これもう最強決定戦って勢いじゃないかな」
「どうでしょう。ティティ様や破滅帝もいることですし、最強とはまだ言えないかと……。神子様もいることですしね」
「いやー、僕はもうよぼよぼだよ。なんとか見せかけだけでも、って頑張ってるくらいさ」
「ご冗談を」
寂しげな声から紡がれる言葉の、どこまでが本音なのか真実なのか謙遜なのか嘘なのか。
ドートなんかは分かっている様子であったが、やはりソチラとタマには真相を掴むことはできず。会話に混ざることもできず。
タマは混ざれなかったというよりも、わざと混ざらなかったようであるが。入ってはいけないのだろう、という線引きが見えているからこその対応がしっかりできるいい女タマであるのだ。
「決着つくんですかねこれ」
「いずれは、ね。いつになるんだろうねぇ」
「妹は長持ちしませんので。きっと決着はすぐですよ」
ソチラの問いに含みを持たせて答える神子であるのだが、ドートが真っ正面からのタックルで全てをぶち壊す。勝者も決まっているかのような、そんな言い草である。
しかし、ドートの言う通り時間が過ぎる程に戦況が徐々に傾いていく。
押せ押せで攻めるドーシルであったのだが、少しずつジーンからの反撃が強く激しくより多くなってきていた。ダメージ自体は少ないのだろうが、明らかに被弾も増えてきている。
ジーンが優勢という状況に変化し、ドーシルは劣勢をひっくり返すことができないまま。ジーンの一撃をもろに喰らってしまうのだった。
「っくぅ~~! 武器だけじゃないってのは分かってたけど……!」
壁にめり込んで。悔し気に語るドーシルは肩で息をしており、既に限界が近いことが見て分かる。
抜け出すのもいっぱいいっぱいで、ようやく決着がついたかと一同が息を漏らす。
「戻ってきて」
――――。
天井に刺さりっぱなしであったドーシルの槍は、呼びかけ一言で彼女の手元に飛んで戻ってくる。どうやらまだ終りじゃないらしい。
「……最後まで付き合うさ」
ジーンもキルシュブリューテを拾い、やる気満々に構え直す。
「…………っ」
「…………」
槍を持つ手が震えている。脚も、立っているのが精一杯なのか踏ん張りが弱く。それでも、瞳は変わらず爛と輝いて。
負けたくない。負けるはずがない。負けるわけにはいかない。
そんな考えも、意地も、こだわりもない。ドーシルの中にあったのはただ一つ、最高に楽しい戦いを最後まで。その想いだけであった。
これが最後。お互いに、そう覚悟を決める。
――――。
軋みか、どこからか響いたその音が合図になった。
一斉に跳び、自身の最高の一突きを一振りをぶつけることだけ考える。何も見えない。何も聞こえない。何も分からない。
今目の前に迫る者を打ち倒すこと以外は。
――――。
そして、両者が槍を剣を突き振り始めて。
――――。
「そこまでっ!」
「っ!?」
「っと!?」
寸止めなどできるはずもなく。突き出した振り出した槍も剣も動きは止まらない。
「緊急事態じゃ」
止まる。突き出した振り出した槍も剣も動きが止まる。いや、正確に言うならば……
「防がれた……?」
そう、二人の攻撃は"何者か"によって完全に無効化されてしまった。
ドートではない。タマでもソチラでもない。
「今すぐに戦力を集結させるのじゃ」
そして、神子でもなかった。
次回から本格的に物語が進んでいきます(予定)。
また更新がゆっくりになるかと思いますが、よろしくおねがいします。




