強制イベント発生? その4
リーチの差をものともしないで戦いを進めていくのはジーン。この時点で、剣術槍術でのレベル差が明らかになったことになる。
どこまでミスなく、それでいて長時間の戦闘が可能なのか。スタミナに関しても、スタートから飛ばしっぱなしだったドーシルには疲れが見え始める。
攻め続けているのに攻めきれない。ドーシルにとっては苛立つ場面になって
「はぁぁあああっ! 最っ高ぉ!!」
いるわけでもなかった。
自身の全てをぶつけていてもなお、目の前のたった一人の人間を打ち負かすことができない。その事実に、一層に興奮をするドーシルであった。
勢いが失速していくどころか変わらず、疲れてきているはずであるのに徐々に勢いが増してきている気がしなくもない。
「バケモンかよっ……!」
「うら若き乙女に対して失礼って感じ!」
然りげ無く舌戦を交えながらも、決して緩むことのない一突き一振り。今回は魔法での遠距離攻撃はなしというルール。
一息入れるために距離を取ることも、仕切り直しを望むこともできない。お互いに一度落ち着こうとなれば別であるのだが、ドーシルがそう思うことはないので、ジーンが願ったところで叶わないのだ。
「まだまだ、これからだよねっ!」
「……どうだろうな」
もう、どれほどの時間が過ぎているのか。既に訓練場はヒビができていたり、崩れてしまっていたりでボロボロに。通常であれば、剣や槍など武器の方も損壊してしまうのだが。
この二人にとってはあり得ないことである。
これは武器へと魔力を与え続けることで耐久度を底上げできるためであった。ここは実力の差が大きく出てきてしまう部分であるのだが、この部分に関して言えばドーシルの方が若干勝っていた。経験、積み重ねの差といったところか。
何十年かけてもその差が縮まるかどうか。長い時間を生きてきたからこその、ドーシルだからこそ優位性がある部分であった。
ただ、ジーンにも負けていない点があった。それは、武器の性能である。
ジーンが使用しているのは、エル作のキルシュブリューテ。若干反りのある刃には桜色が薄く色づき、性能だけでなく美しさも兼ね備えている。
何度もエルが手を加え続けた結果生み出された、傑作であった。
武器の性能が、ジーンとドートの差を埋めてくれていたのである。勿論ドーシルの持つ槍も伝説となっているような一級品ではあるのだが、キルシュブリューテには一歩及ばず。
そんな武器を作れちゃうなんてエルたんっょぃ。
「良い武器っ! 持ってるねっ!」
「だろっ? すげぇ助かってる!」
ぶつかり合う度に閃光が桜に光り流れる花びらの如く。灰の煙広がる空間に色を持たせて、どこかオシャレな雰囲気さえ感じさせている。
そんな演出を狙ったのか、偶然なのか。
「私も欲しい!! 君ばっかずるいよ!」
鋭い一突き力強い一薙ぎに。受ける流すに躱しつつ。
ただ一つ言えるのは、ドーシルには刺さったらしいということ。戦闘中であるにもかかわらず、興味を惹かれてしまったようである。
長年使い続けてきた槍はどうするのか、といった点に関しては特に考えていなようである。
「頼めば! 多分作ってくれるって! あとで行ってみるか!?」
「行くっ! 約束ねっ!」
既に面倒だとか仕方なしにとかいう思いは消え失せ、ジーン自身も楽しんでいる気持ちの方が大きくなっていた。ご機嫌であるからこそ、エルへと紹介しようと思うのであった。
と、ここでドーシルにチャンスが。
「むっ!?」
「きちゃ!」
ジーンの剣を弾き飛ばすことに成功するドーシル。咄嗟に距離を離しにかかるジーンであったが、無防備同然の敵を逃がすという道理を持ち合わせていないのがドーシル。ジーンが一歩後ろへ下がれば、ドーシルも一歩前へと迫るのだ。
しかし、思い通りにさせるほどジーンも腑抜けてはいなかった。
「ふっ」
「にゃんとっ!?」
突き刺しに迫る槍を器用にいなし、それどころかお返しにとドーシルから槍を奪いにかかるのだった。
もっとも、それを赦すドーシルではない。ジーンの企みは半分失敗におわるのだが、半分は成功したと言える状況へと持ち込む。
――――トスッ!
ドーシルの持っていたはずの槍が超回転の末に天井へと突き刺さる。
「格闘は得意じゃないなだけどな」
「今更逃げるんら?」
「そうじゃないさ。こんな日が来るんなら、もっと磨いておくべきだったって思っただけだよ」
「~~っ! やっぱ最っ高ぉ!」
第二ラウンド(?)の開始である。