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強制イベント発生? その1



「さて、次は君の番だ」


 用事の済んだ赤龍とアヤメを先に退室させ、それに続いて部屋を出ようとするジーンへと声をかけるのは神子。

 逃がさないよと、その笑顔の裏に隠れたもとい隠しきれていない怒気を前に、ジーンも逃げるのは悪手だと判断する。


「……それで、何が聞きたいんだ?」


 諦めて椅子へと座り直す。


 もとよりこうなることは分かっていたので、殊更に逃げ出したいわけでもないのだ。大人しく、そして嘘偽りなく話そうと改めて思うジーンであった。


 話の内容としては、ゼーちゃんに関することであった。

 ジーンが勝手に封を解いたこと。彼女の真なる力について。これからの対応についてなどなど。


「どうして隠したんだい?」


「まぁ、言ったら絶対に許可してくれないだろうし、それからは警戒もされて下手に動けなくなるだろうし」


「当然だね」


「だからやりました」


「殴ってやろうかこの男……!」


 反省はしていない。後悔もしていない。そんなジーンの気持ちが伝わったのだろう。


 握りこぶしまで準備する神子であったが、ドーシルに止められてしまう。優しく肩に手を置かれて、諭すような視線を向けられてしまえば神子としても引かざるを得ない。

 ドーシルに免じてここは引いてあげる。と、一度は立ち上がったもののまた腰を下ろす神子であった。


「力仕事は私達にお任せを、代わりに私がぶん殴ってやりますよ」


「いやあんた止めてくれたんじゃなかったんかいっ!」


 ビッシィッ! と渾身のツッコミが炸裂。エフェクトというか、魔法での演出で盛り上げを忘れない部分も気合が入っている。

 ただ、ツッコんでみたもののそれが冗談であるのか本気であるのか、そこが微妙なのが心配なジーンである。


 代わりに、と語るドーシルに対してただ単純に自分がそうしたいってだけでしょうと。それに、こういった時は僕自身でやらないと意味ないんだよなぁ。と、思う神子であった。


 ドートに関しては、全く関与してこないため何を考えているのか分からない。何も考えていないのかもしれない。


「前から気に食わないって思ってたんだよね! 一対一でバトらない? 今からっ!」


「一人だけマジじゃねぇーか! 二人も見てないで止めてくれよっ」


 どし、どし、とにじり寄ってくるドーシルから逃げ遅れたジーンが、静観する神子やドートに助けを求めるという、なんとも混沌とした状況に。

 ひぇ、と制止させるために両手を突き出すジーンであったが、これ好機とみて指を絡ませてガッチリとホールドさせるドーシル。


「つ・か・ま・え・た!」


「いやぁああああ!!」


 まるでホラー映画でも観ているかのような。実際に心霊現象を体験しているかの如く。

 ねっとりとした笑顔で涎を垂らす狂気さには、流石のジーンでも叫ばずにはいられなかったらしい。


「あ~、出たね」


「出ましたね」


「出たって、何が!?」


「ちょっと~? 今は私とお喋りしてるでしょ??」


「くるなっ、それ以上近づくなぁああ!!」


 狂乱のドーシルに恐慌のジーン。

 そんな二人の様子に、慣れた様子の神子らである。神子やドートにとっては別に驚くほどのことではないようで、またか程度の認識であるらしい。


 勿論ジーンはそんなこと知らないので、何故そんなにも落ち着いているのか分からず余計に混乱することになるのだが。


「まぁ、こうなった彼女は僕でも抑えられないからね」


「うむ、諦めるんだな」


「んなこと言われてもっ、どうすりゃいいんだよ……!」


「ね~ね~? はやくヤろうよ~ぉ」


 暴走、とでも言うべきか。既に理性は消え失せているのか、目の輝きがいつもの三倍にキラッキラ! なんてことでしょう、おめめぱっちり素敵な笑顔でにったにた!


 早くしないとそのまま喰われるんじゃないかと、総毛立つジーンである。


「まぁなんだ。一戦交えれば落ち着くだろうから付き合ってやってくれ」


「罰だと思ってやればいいんじゃないかな。お疲れかもだけど、頑張ってよ」


 お前ら絶対面白がってるだろ!? なんて声を荒げる余裕もなく。ギリギリとした取っ組み合いのまま、目の前の物の怪もといドーシルに負けないように踏ん張るしかないジーン。


「分かった、分かったから!」


 恐ろしい膂力に恐怖しか感じない。一体どこにそんな力があるのやら。

 遂には折れてしまうジーンである。そのままでは、別の意味で折れそうだったから……。


「やたっ、いってきまーすっ!」


 本人からの了承が得られると、待ってましたとより目を輝かせるドーシル。彼女の瞳には太陽でも宿っているのかとばかにり爛爛である。


 そして手を掴んだままに、ジーンを紙切れの如くなびかせ走り去っていく。


「いやー、久しぶりに見たね」


「そうですね。年十年ぶりでしょうか」


「ん~? もっとじゃなかったかな」


「ですかね? 神子様は、どうなると思います?」


「まぁ、今のを見るとドーシル優勢には見えるけどね……あとは、彼がどこまで冷静さを取り戻せるかってところかな。ドートはどう思うんだい?」


「一度仕切り直しになりますからね。恐らく、妹は負けるでしょう」


「随分と彼よりなんだ。意外だね」


「勿論、負けるのを容認しているわけではありませんよ。妹を遠慮なしにボッコボコにしやがったその時は、即乱入して連戦させてやるつもりです」


「君も大概だな」


「兄妹ですので」


 お決まりの流れらしく、今回も上手く締められたと満足の二人である。

 開けられっぱなしの入り口の奥から聞こえる絶叫や悲鳴がBGMになっていなければ、もっと綺麗な締めになっていたのだが……。


「……俺らも追いかけますか」


「ああ、そうだね。いこうか」


 そんな声も聞こえなくなった頃に。


 二人が目指す先は、訓練場である。



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