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第十九話 ボッコボコ




「チュンチュン」


 鳥の鳴き声が響く朝。心地よい目覚めを感じ、脳の覚醒を待つジーン。


『コケコッコー!』


「ぴーぴー!」


「……ん~(何か、変なのが混じってる気がするんだが)」


 前にもこんな事があったような……とまだ覚醒していない脳を働かせて、ジーンは記憶を辿っていく。


 体を起こしつつ声のする方へ目を向け、そこにある光景を確認するジーン。


「んな~、またか。ミカも一緒になって。普通に起こしてくれればいいんだが?」


『ふふっ、やってみたかったんだ! おはようジーン!』


「やっと起きた。朝ごはん出来てるから早く食べてよね(失敗作だけど)」


「(失敗作だから)口に合うか分からないけど……」


 三人共に、朝から元気いっぱいであった。それにつられるように、ジーンの調子も徐々に上がっていく。


「朝飯食ったら、すぐにでも捜索再開だな。今日も戦闘は任せたぞ?」


「まっかせてよ」


 頼られたことに喜びを感じ、ふんすと息巻くチャチャであった。そんな様子を横目に、ミィがジーンへと朝食(失敗作)を渡していく。


「ミィの家の捜索なんだが、ミカの力を借りたいんだ。頼めるか?」


『うん、頼まれたっ!』


 ジーンの言葉に、元気よく返事を返すミカである。


「俺は何かすることあるか?」


 モグモグと朝食を食べつつ、ジーンはミカに聞く。今日のミカは女の子Ver.ではなかった。一番最初に出会った時の状態だ。この姿が、ミカの通常運転なのであった。


「……?(あっ、ここだけ何かしょっぺぇ)」


『契約した時みたいに、魔力を僕と同調してくれればいいよ。チャチャとミィは見てるだけでいいよ』


「その後はどうするの? 地道に探す感じ?」


『ううん、大丈夫っ。森の隅々まで一気に探せるからね!』


「俺の探知魔法みたいな感じか」


 ミカ一人ではそこまで範囲を広げられないらしく、ジーンにも手伝って欲しいとのことだった。


「……?(やっぱ、精霊すげぇんだな。ミカが凄いのか? ……あっ、こっちは何か苦い。焦げちゃったのかな)」


 料理の不自然さを失敗と捉えることがないまま、ジーンは出されたモノを完食する。


「ご馳走様でした」


「美味しかった?」


「ん、まぁ。もう少し、練習がいるかもな?」


 そのあとは片付けを手伝い、さっさと準備を済ませることになった。


「それじゃ、始めるか」


 片付けと準備が終わり、ジーンが三人に向けて言う。


 が、そこであることに気が付くジーン。


「……なんでミカがいるんだよ。召喚、まだしてなかったよな?」


『ん~、できちゃった!』


 ミカ自身よく分からない様子である。深く考えても仕方ないよね、と全く気にしていないミカであった。


「自分のこと知らなさすぎでしょ」


 たまらずチャチャが一言。


「ねぇジーン、普通ありえないんだからね? 精霊が勝手に出てくるなんて、当たり前だなんて思わないでよね?」


 ミィでも信じられないことらしい。ミィやチャチャが朝起きた時には、既にミカが居たとのこと。


 「何で?」の問いには「分からない」の答えが。今と同じようなくだりを既にしていたのであった。


「ま、そこは今考えてもしょうがないか」


 ジーンも深く考えないことにしたらしい。本人が気にしていないんなら、別にいいんじゃないか? という考えである。


「それじゃ、やるか?」


 ミカの手を取り、ジーンが告げる。


『いくよ!』


 ミカの魔力が溢れ出す。場の空気が一瞬にして引き締まり、ジーンもそれに合わせて魔力調節していく。


 少し不安定だった魔力の流れが、二人を中心に渦を巻くようにして範囲を広げていく。


『もっといくよ!』


 ミカの言葉に、ジーンが了解の意を頷きで示す。すると、半径数メートル程だった魔力の渦が一気に広がり始める。


 森の全範囲を覆うのに要した時間はたった数秒。


『……あれかな』


「……あった」


 ジーンが呟くのと同時に、魔力の放出が解かれる。張りつめた空気が落ち着き、緊張感が消えていく。


「ど、どうだったの? あったの?」


「あったぞ。強力な結界に守られてる何かが。ミィの家かどうかまでは判断できないが、期待しても良いと思うぞ」


 その言葉にミィもチャチャも期待を膨らませることになった。手を握って、お互いに喜び合う。しかし、そんな二人にミカが一言。


『とりあえずそこに向かおうよ。ここに居ると魔物がいっぱい来ちゃうよ?』


 ミィもチャチャも魔物に囲まれるのは嫌であった。二人共その言葉には頷くしかなかったのだが、そこでジーンがあることを閃いてしまう。


「いや、丁度良いんじゃないか? チャチャの修行にもってこいだろ」


「馬鹿! 流石に死んじゃうわよ! なーにが『いや、丁度いいんじゃないか?』よ。冗談でしょ!?」


「まぁまぁ、落ち着いて。俺もサポートするし、強くなるチャンスだろ?」


 そんな会話をしている間にも、タイムリミットは刻一刻と近づいてくる。何度か言い合いをして、本当にやる気だと悟るチャチャ。


「ミィもこの馬鹿に何か言ってあげて!」


 ミィに助けを求めるチャチャであったが、返ってくるのは望まない言葉であった。


「ミィは、ジーンに賛成かなぁ、なんて……」


 チャチャの顔が絶望に染まっていく。私の味方じゃなかったの……? と、シンプルに落胆する。


「ワガママかもしれないけど、ちーねぇにはもっと強くなって欲しいし」


「……だそうだ。覚悟決めろ?」


 二人にそう言われ、チャチャは顔を俯けぷるぷると震え始める。


『さっきので絶対に魔物は興奮してるよねっ。ジーンがいても安全かどうか分からないし~。まぁ、怖いなら逃げてもいいんじゃない?』


 ミカはわざとらしく抑揚を強調して言った。本当に逃げるの? と、バカにしたような態度である。


 ミカ的にはチャチャのヤル気を出させようとしただけであったのだが。その考えを察したジーンは、もう少し言い方を考えて欲しいと思うのだった。


「…………ない……」


 チャチャが何を言ったのか。三人には聞き取ることができなかった。ミィが声をかけようとするが、それよりも前に再びチャチャが声を張ることになる。


「上等よ! やってやろうじゃない!」


 チャチャの目つきが変わったことに気付き、ジーンがニヤリと笑う。


「心は熱く頭は冷やせ。限界なんて気にするな。全力でぶっ飛ばしてやれ!」


『僕も援護するよっ! ついでにミィも守ってあげる』


「ついでって何よ! ちゃんと守ってよ!?」


 チャチャが戦闘態勢に入る。それと同時、木の陰から一斉に魔物がチャチャ目掛けて飛びかかる。逃げ道は、現時点では既に無い。


 身動きが制限されてしまう湖には、絶対に追い込まれないようにするべきであった。しかし、チャチャは迷うことなく湖へと突っ込んでいく。


「それでいい」


 チャチャは湖へと大きく躍り出る。そして、そのまま湖へと着地。


 魔物もチャチャを追うが、当然水の上に立つなんてことは普通不可能である。世界の理に逆らうことはできず、魔物達は次々に湖の中へと飛び込んでいくことになった。


「ど、どうしてちーねぇは立っていられるの?」


 ビクビクしながら見ていたミィが聞く。答えるのは、近くで護衛役を務めていたミカ。


『ジーンのおかげ! 魔法でこう、ちょちょいのちょいって感じ!』


 チャチャは次々出てくる足場を利用して、湖の上を移動していく。しかし、いつまでもそうしてる訳にはいかない。タンッ、と最後に踏み出した後、魔物が少ない場所へと着地をする。


 付近には五体もの魔物が居た。処理にもたもたとしていれば、チャチャを追って魔物達が続々と集まってくるだろう。中堅パーティーでも油断できない状況であるが、一先ずは目の前の敵を危なげなく処理していく。


「――っ!」


 しかし、すぐ後ろには死角から現れた魔物が迫ってきていた。気が付いた時には既に手遅れ。


 ギリギリで気付きはした。だが、もう避けられる余裕はなく、ガードをする時間もない。


「くぅ……!」


 致命傷だけは回避できたが、傷を負ってしまうチャチャ。傷自体は深くないが、まだまだ魔物はいるのだ。ミスは許されない。


 その隙に近づいてきた魔物、合わせて七体。一瞬、また湖に逃げるという選択肢が出てきたが、すぐさまそれを却下。


「ジーンにばっかり頼ってたら意味ないもんね!」


 足で土を抉り、魔物目掛けて蹴り上げる。


『ぐがぁぁあ!?』


 一瞬できた隙を逃さず、ダメージを与えることに成功する。


 魔物を一撃で倒す火力こそないが、素早い動きで魔物を翻弄し確実に数を減らしていくチャチャ。


「流石だな。もう、二十体くらいは殺ったんじゃないか?」


 いつの間にかミィの隣へと移動していたジーンがそう言った。


『ちょっとくらい助けてあげたらいいのに』


 勿論、ジーン達も魔物に囲まれている。囲まれているのだが、そこはのほほ~んとした雰囲気に包まれていた。


「そんな呑気にしてていいの? 囲まれちゃってるけど……」


「問題無い。俺の結界はそんな脆くないからな」


『それに、ジーンはこんな奴ら一瞬で消し炭だから。ねっ!』


「それは言い過ぎだろミカ。流石に一瞬じゃ無理だぞ」


 どうやら命の危険はないらしい。二人の言葉からそう判断するミィ。が、数メートル先には魔物がびっしりと並んでいるため、落ち着くことなどできるはずがなかった。


「せめて、この周りの敵だけでも倒してくれない?」


 ジーンは少し考えた後、仕方ないかとミィのお願いを了承する。


「チャチャの獲物が減ることになるが、まだまだ百体以上いそうだしいいか」


 そう言って、ジーンは魔闘技を発動させる。火属性を使うチャチャは赤色だが、ジーンは白っぽいようなオーラであった。ゆらゆらと炎のように魔力が揺れる。


 そして、一歩を踏み出す。


 その後は一瞬……という程早くはなかったが、数分もかからず約五十体の魔物を片付けてしまった。勿論、ジーンに傷は一つとしてついていない。


「何で噛みつかれても平気なのよ……」


 帰ってきたジーンにミィが聞く。


「魔闘技の凄さが分かっただろ? 本当は一瞬で終わらせたかったが、気が変わった」


『カッコつけたかった、って素直に言えばいいのに』


「ま、それもあるが」


「それもあるんだ……」


「前より精度が悪くなってたからな。感覚を取り戻したかったってのもある」


「……」


 驚きすぎてミィは何も言えない。こんなに強い人がいるのか、と。


 強いんだろうとは思っていたが、ミィが想像していた以上の実力だったのだ。


『あっ、ちーねぇが四十体目を倒したよ!』


 しっかりと数えていたらしいミカがそう告げる。


「一旦休憩だな」


 そう言って、ジーンは結界をチャチャの周りに張る。一瞬驚くチャチャだったが、『ジーンが休憩だって』というミカの言葉を聞いて安心する。


 そしてそのまま、結界に守られつつジーン達に合流するチャチャである。


「休憩なんてあるんだ。倒しきるまでやり続けるものかと思ってた」


「その方が良かったか?」


 そんな言葉を交わしつつ、ジーンはチャチャに回復魔法をかけていく。


「ありがと」


 お礼を言いつつ、勢いよく地面へと座り込むチャチャ。疲れが溜まっていたのだ。


「ちーねぇ大丈夫!?」


 ミィが心配して駆け寄るが、でもどうすればいいのか分からず、あわあわしてしまっている。面白い。そして可愛い。


「流石に今のチャチャじゃ、一気に全部は無理だしな。冷静に判断した結果だ」


 そこは自分でも理解はしていたらしく、チャチャは何も言わない。多少ぷくっとほっぺを膨らませているが。分かっているとはいえ、悔しいものは悔しいのだ。可愛い。


「休んだらまた放り出すけどな」


 三十分ほど休ませた後、さっさと行って来いと結界からチャチャを追い出すジーン。当然周りには魔物が集まっていた訳で……


「後で覚えときなさいよねー!?」


 そんな声は魔物達には関係ない。待ちに待った獲物だと、次々と襲い掛かっていく。


 そんな状況を乗り越え、無事に二度目の休憩まで踏ん張るチャチャ。


 その際にチャチャによってボッコボコにされるジーンであるのだが……当然ミカもミィも止めなかった。


「な、何で俺だけ……」


「当然よね」


「ジーンが悪いと思う」


『僕も』


 まだまだチャチャの戦いは続く。




2020/1/31(修正)

誤字脱字の修正。

口調の修正。

進行の流れを一部変更。

サブタイトルを修正。(修正前:修行 ― 修正後:ボッコボコ)

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