……………………うん??
これまで甘えられなかった分を、ここで一気に取り戻そうとするかのように。
すり寄られる側も、それを無下にするわけにもいかず。順々に回ってくる自分の順番の時には思い切り甘やかせてしまっていた。
「ゼーちゃん、私はそろそろ準備があるから……」
「む~、もうちょっとだけとらよぉ」
今はチャチャの番らしく、ゼーちゃんに抱き着かれる形でソファへ座っている。時間的には、お昼ご飯の少し前。穢れの使者が起こしたごたごたのあとのこと。
既にジーンは自身の番を終え、神子のもとへ出張中である。
「もー、あと少しだけだからね」
「やたぁ」
「ちーねぇもゼーちゃんには甘々だね」
「ま、今日だけは特別よ」
まだまだチャチャの番が終わりそうにないのが分かったため、ミィが一足先にお昼ご飯の準備を始めることに。
ゼーちゃんに引き留められるのを笑って誤魔化し、台所へと向かうミィであった。
今日はご馳走をいっぱい作るんだと、いつも以上に張り切って袖をまくるのは。ゼーちゃんが知らない、少し大人になった一人の少女の姿であった。
ジーン達と同じように、寂しくも嬉しく思うゼーちゃんはそんな姿に何も言えない。何も言えない代わりにチャチャへとじゃれつく。
「いや~、チャチャは変わってなくて安心したとらよ」
「いやいや、私ってば前よりも強くなってるっしょ。それくらいも分からないの?」
「ん~それそうだけど~」
「ちょっと、変なとこ触らないでよ」
ゼーちゃんやミィは二年という時間を過ごした。しかし、チャチャやジーンはその時間を過ごしていないのだ。
その代わりと言うべきなのか、能力や実力的な部分に関しては飛躍的に成長しているはずであるのだが。一体何が成長していないというのか。
「ほら、こことか変わってないとらよ」
ゼーちゃんが示したのは。
「は? それどういう意味よ」
「そのまんまの意味とらよ? ぷ?」
どこか挑発的な言葉と態度。本人も若干、本当にほんの少しだけ気にはしている場所なだけに、怒りを誘発させるには十分過ぎた。
表情が一瞬にして切り替わり。髪のゆらゆらと揺れ動くその様は、心の内を如実に表していた。
「きぃ~~っ! 私だっていつかは……!」
「ふっ、お嬢さん。現実はみないと、だぜ」
ピキピキと、ゼーちゃんの言葉に反論すら出てこない。何か、何か反撃の一手はないものか……!
! 電球マークが飛び出るのが見えるほどに、閃いた! という顔をするチャチャ。そっちがその気なら、こっちにも考えがあるのよ! と自身満々に会心の言葉を告げる。
「ふんっ、それを言うならゼーちゃんも同じじゃない。あぁ間違えた、同じどころか私よりもザンネンなんじゃな~い?」
どうだ見たことか。勝ち誇って宣言するチャチャ。正直不毛な議論である気がしてならないので、早いところ決着をつけて欲しいところではあるが。
なんて言ったら、色々と問題がありそうなのは気付かないフリ。
「え、何言ってるとら……?」
「何って、なにかおかしなことでも言った?」
何やら様子がおかしい。ゼーちゃんの素っ頓狂な顔に、戸惑いを隠せないチャチャ。踏んではいけない地雷でも踏み抜いてしまったのか、いやそれも何か違う気が……。
突然床が抜けたかのような。唐突に突き放され不安が一気に押し寄せて。何が何だか分からない状況にパニックに近い状態へと陥ってしまうチャチャ。
「だって、私ってそもそもおっぱいなんてないんだけど」
「……。」
君は一体何を言っているのかな? 処理が追い付かないというより、処理する脳が全て止まってしまうチャチャである。
『(。´・ω・)ん? おっぱいがない……? そもそも……? え、何が?』
ここまで気の抜けた表情ができるのかと。どれだけ時間が経とうとも意味を真に理解することができないチャチャ。
「あれ、言ってなかったっけ。私、実は男なんだよ?」
どんがらがっしゃんっ!!??
聞き耳を立てていたのか、台所の方からとんでもない音が。果たして食器をナニした音なのか……。
「…………? おとこ……のこ?」
首を傾げて疑問へ立ち向かうチャチャ。傾げすぎてできたそのカーブでドリフトしたくなってしまうほど。
「……?」
「……?」
「……?」
この場をなんとかできる人間はそこにはいなかった。
To be continued……?