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第百六十八話 始まる一人の物語



 もう、幾分と前の記憶にも思えた。子供時分に聞き慣れていた、懐かしいと感じてしまうほどに。

 断ち切られた時間が存在するだけで、それだけで大きな寂しさになるのだ。そこには時間の長短など関係ない。


 真っすぐなその瞳に吸い込まれる。引き寄せられてしまう。目が離せなくなる。


 好意だけではない。そこには、罪悪感やら後ろめたさ。もう失いたくないとする、いわば独占欲のようなものまで。


 相手の心など考えもしない自分勝手で我が儘な。そんなものを内に秘めた男は、その瞬間には涙を流していた。


「ふふんっ、そんなに嬉しいんだとら?」


 自分だって同じなくせに。その一言すら、言葉として吐き出せない。感情を押し込めるべき状況出なければ、涙を流すだけでは済まなかっただろうジーンである。


「はぁ、時間もないとらよね。さっさと終わらせるとらよ」


「……あぁ」


 絞り出した音でも、正常に言葉として成り立っていた。こうして会話できるのも奇跡のようなものな気がしてならない、なんて思っていても目の前にはやるべきことが残っていた。

 グダグダとしていては、ここまでやってきた事の全てが崩れてしまうのだ。情けない姿を見せようとも、やることは最後までやり切らねばならない。


「にじゅーびょ~」


 いつから数え始めたのか、どこまで正確に測っているのか。せーちゃんによる全てにおいて謎のカウントが始まってしまう。


「ジーンこそ、できるとらよね?」


「勿論さ」


 最後の確認。


「――――」


 言葉を紡ぎ重ねるごとに。今まで隠されていた、自らの力で閉じ込めていた本来の力が。一つ、また一つと錠が解かれていく。


「…………」


 万が一にも間違いが起こらないように。ジーンがそれをサポートする。絶対に必要なのかと問われれば、絶対に必要なのだとそう答える他ない。

 ジーンの手助けがあったのか、なかったのか。それだけで大きく進む道が変動すらから……という可能性があるからだ。どちらがより良い道へ繋がるのか、それは目の前に起こっているモノを見れば分かるであろう。


 とかなんとか理由を並べて、彼女の隣に立っているのは自分でいたいという欲を隠しているに過ぎない。


「じゅーびょ~~」


「――――」


「…………」


 それはただの当てつけなのか、何か重要な要素の一つであるのか。

 それは神の言葉。ゼロを告げれば、容赦なく自らの力を振るうだろう。


 まさに、与えた時間を喰らうかの如く。


「解き放たれたモノを今」


「集うはこの場、この時へ」


 光に包まれる核。隔離されているはずの空間へと、消えるように入りこんでいくようにも見える。


 黒かったそれは、今はもう輝く太陽のように。


 萎んで、萎んで、萎んで。


 そして膨らみ、全てを飲み込んでいく。


「……ゼロ」


 切り取られた点を起点に。


 点が線を造り出そうとする。線が始まり、そして終わりを造り出そうとする。繋がれた点と点は、一つの物語を描き出す。


 人を描き。言葉を紡ぎ。時間を流し。有るものを在るものとし。


 再びページが捲られ始めると。


 物語りが動き出していく。


 新しく始まった、別の物語へと。


 違う人がいて。違う言葉を紡いで。違う時間が流れて。もと無かったものは、また在るものとはならず。


 始まるそれは、違った物語。


 ――反転


 果たしてそれは、同じ物語なのか。


 同じ人がいて。同じ言葉を紡いで。同じ時間が流れて。もと有ったものが、また在るものとして。


 再び始まった、同じ物語へと。


 ――収束





 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





 出会う二人の物語は、語られることもなく。





 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「ジーーーーン゛ッ!!??」


 ご機嫌でジーンへと飛びつこうとするゼーちゃん。それをチャチャが全力で阻止したために、ビッターン! と、地面へとゼーちゃんは地面に叩きつけられる。


「どーして邪魔するとら!?」


「さぁ、どうしてかしらね」


「むぅ~、もう素直に好きって言えるようになったとらか?」


「さぁ、どうかしらね」


 いつかみたようなやりとりを。


 あの時のやり直しを。


「……おかえり、ゼーちゃん」


「うん、ただいまっ」


 手を繋いで旅ができる一人の仲間を加えて、そして始まっていく。



ここで一つ言っておきます。

多分今年中にも終わりませんので。はよう終わってくれ、なんて言われようとも恐らく終わりませんので。

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