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第百六十五話 襲撃の裏側~極秘任務開始その一~



 ――――! ――――!


 内臓を鷲掴みにされてしまったかのような。全身に緊張の波が走ったのは、ミーチャが指揮を執る一室だった。

 突如として鳴り響いた警報。久しく聞いていなかったその音は、最近緩んでいた各々の精神に鞭を打つ。


 異常が起きている場所の監視担当であった者でさえ状況の把握に苦戦しており、混乱は収まるどころかより大きく広がってく。一つの異常が他の異常を呼ぶかのように、連鎖的に拡大していきその勢いは止まらない。


 あらゆる観測装置が狂ったように数値を変動し、本来あるべき数値へと戻る。


「反応ロスト! 封印はおろか、既に彼女の姿はありません!」


「施設内の検知開始します……反応なし!」


「全期間のログの提出を要求。既に紙面へおこしたものではなく、現時点での情報を改めて紙面へおこし直して。担当者は至急作業への移行を開始」


「神子様への連絡急いで下さい。はいそこ、一度手を止めて深呼吸。ログはこれで全部ですか? そこの君に緊急命令、糖分補給のための――」


 ミーチャの指示により徐々に足並みが揃い始める。事前に示唆されていた情報がなければ、彼女もここまで冷静に対処をすることはできなかったかもしれない。

 モックスも同様に指示を出しつつ、混乱から抜け出し切れない職員達へのサポートもこなす。相変わらず優秀なミーチャの後輩君であった。


 事態の把握は既に完了。しかし、問題解決への手段を確立できないのが一番の問題であった。いくつかのパターンに合わせてマニュアルが用意されていたものの、あえて用意しなかったパターンが起きてしまったのだ。


 今できることは、原因の調査と想定外の影響がないかの確認だけ。


「…………昨晩からの情報が一致しない」


「それって、数時間も前から異常が発生してたってことですか?」


「そうなるわね」


「でも、それでは何故今になって異常値を示し始めたんでしょうか」


「そんなの決まってるじゃない。今まで誰かさんが隠してたってことよ」


 計測装置やログはしっかりと正確な情報を示していた。ただ、それを受け取る側の人間が偽られた情報を渡されていただけ。異常が隠蔽されている事実に気付くことがなかっただけなのである。


 異常値を認識しないよう装置に細工を施すだとか細々とした誤魔化すための準備から。誰にも気付かれることなくそれを成す必要があるのだが、果たしてそんなことが可能なのか。


「指揮官、あの……」


「あなたは持ち場に戻りなさい。お疲れ様」


「し、失礼しましたっ」


 ログを提出に来てくれた職員へ、労いの飴ちゃんと共に改めて指示を出すミーチャ。若干無愛想なのは、積もり始めた不満の表れであった。


「警報止め。各自資料をまとめたのち、通常業務へ戻るように。以上」


 短く、全体へと言葉を投げることで一区切り。本来もっと細かく指示を出し作業を振るべきなのだろうが、ミーチャはそれ以上動くことはない。モックスが代わりに働くのがこのチームの在り方であった。

 上手く回るチームであり続けているのは、モックスのおかげであると言っても過言ではなかった。


 それが良いのか悪いのかは判断が分かれるところではあるのだろうが、少なくともミーチャを指揮官とするチームの中に不満を持つ人間は一人としていなかった。


「少しくらい隠してもいいんじゃないですか。先輩も僕達に適当な会話されたら嫌でしょうに」


「いいのよ、ちょっとくらい。もう既に私がこーゆー人間だってのは皆も知ってるでしょ」


「いやまぁそうなんですが、だからといって何でもしていいわけではないとは思いますけど」


「ふんっ、もーくんも言うようになったじゃない」


 そんな会話を背に、近くの職員は小さく笑いながら作業を進めていくのであった。


 指揮官はだらしがないものの、その補佐役が厳格であるようにと努める。

 ピリピリとした張り詰めた空気はなく。これぐらい肩の力を抜いて良いんだよと、指揮官自らが態度で示す。しかしそれでは、緩み切った環境では満足にパフォーマンスは望めない。だからこそ、補佐役が引き締める役目を担う。


「――神子様から通信入ります!」


「総員、礼」


 切り替えに時間を要さない程度の緊張感。必要以上に緩くも張ってもいない空間がそこにはあった。


「えー、もう声入ってるのかな?」


「神子様、既に映像も繋がっています」


 大きな光面ウィンドウに映し出されたのは、神子の姿。傍にドーシルとドートが付き従っているのも映像から確認できる。神子らがいるのは、施設内ではなく施設の外。ミーチャもよく知る場所の近くであった。


 神子たちの後ろには、黒い靄が一帯に集まっている様子も一緒に映っている。若干その一部分が不自然に輝いて見えるのは、気のせいではないだろう。


「えー、まずは報告ありがとう。あとのことは気にしないで、君たちは業務を再開してくれたまえ。とはいっても、見ての通り現状は待機していることしかできないんだけどね。じゃ、ミーチャ君よろしく」


「お任せください」


「あぁ、それと。これ終わったら一緒にお説教しにいこうね」


「はい、お供させていただきます」


「それじゃ皆、頼んだよ」


 ぷっつん。


「通信、終了しました」


「それじゃもーくん後は頼んだ」


「了解です」


 ミーチャを指揮官とする部隊KINAKOMOCHI。本来であれば、本日は休息日であった。


「ミィちゃん、大丈夫ですかね」


「ま、中がどんな状況になってるのか知らないけど、心配するだけ無駄よ」


「でもあれって、敵の仕業なんですよね? 危険が無いとは思えないんですけど」


「どんな場所にいようが、あの子の傍には最強のボディーガードがついてるんだから関係ないわ」


「……なるほど」


 こうして稼働しているのは緊急事態が起こってしまったからなのだが、その緊急事態とは何なのか。


 穢れの使者による突発的な襲撃。幸い被害としてはゼロに近かった。施設の損壊はなし、負傷者も出なかった。

 それは偶然であったのか、敵の思惑通りなのかはミーチャらには不明な点ではあったものの、敵襲であることには違いなかった。


 対処し始めた時にはミィ宅は既に黒い靄の中。魔法で吹き払うことも、靄の中へ突入することもできないし。ありゃりゃ困ったぞ、と。

 早朝に神子様を叩き起こすことになったのだが、それでも解決の糸口が見えないものだから誰もが困り果ててしまって。どうしたもんかと笑われた時には一緒になって笑ったものだとミーチャは記録に残している。


 で、極秘任務が開始されたのだった。



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