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第百四十一話 目立ちたがり


「これから君らが戦うのは世界の意志。破滅に終わるはずだった結末を求めて暴れ出す、可能性の慣れ果て、ってなわけよ」


 それの前哨戦みたいなものだと、笑いながら足元より影を無数に生み出す星導神。空へ伸びる木々よりももっと高い位置、一様に見渡せるほどの高さに彼女は浮かんでいる。


 突然襲われる方にしてみれば堪ったもんじゃないが、星導神は問答無用とばかりに攻撃の手をやめないやめられない。


 リィによって話された情報から、星導神の意識を覚醒させる。そこまでは良かったのだ。


 ただ、彼女の性格に難ありというか。


「これくらいどうにかしてもらわないと、なんだけだなぁ~。……なんだけどなぁ~」


「二回も言わなくていいからね!?」


 唯一面識のあるリィだけがツッコミというか指摘を入れていく。


 星導神より生み出される影が『なによ~、リィとアタシの仲じゃん?』とでもいったノリで、リィの背をバシバシ叩こうと迫る。ただ、その威力は岩をも砕くエネルギーが込められているが。


 戦闘力自体は低いリィである。そんな影を馬鹿正直に受けてしまえば、死あるのみ。


「さっせないよ~!」


 ギィィインッ! と、それを槍で弾くのはドーシル。万が一も起きないように魔法による防壁も用意して、なるべくを自らの手で消滅させていく。


 以前ジーンとの戦闘で使用していたのは剣であったが、それはジーンに合わせてあげていただけ。本来の得物は槍と呼ばれるものであった。


 その技は守られるだけとなったリィもうっとりしてしまうほど。


「お兄ちゃんが集中するのはそっちじゃないよね」


「ぁう、ごめんね?」


 だらしない顔を晒す兄に、すかさず言葉をかけるミィ。


 自分の知り合いに現を抜かす兄。それ自体は別に構わないのだが、状況を考えて欲しいと文句を言いたくなってしまう。


 ただ、そんなやり取りも今は懐かしく感じるだけ。今更幻滅どうこう思うことも、矯正させようとも思わない。


 何故なら、そんな部分も含めて大好きな兄であるからだ。


「ささ、じゃんじゃん呼び出しちゃって!」


「よしキタっ。じゃんじゃん呼び出すからな!」


 戦闘を請け負う者達は揃って加減というものを知らないのかと叫ぶものの、当人達はその声を聞こうとしない。


 未だ始まったばかりだと期待をいっぱいにしてはしゃぐ星導神。そのノリについていかないと危ういのは自分の身だと、半ば自棄(やけ)になって力を使うリィ。


 あちらこちらで抗議の声が上がる中、それを無視してもっとも神に近しい二人は会話を始める。


「うー姉ちゃんって呼んでも、いいのですよ?」


「えー? 私の方がお姉さんっぽくないかなぁ?」


「ぽいとかじゃないのです。事実として、うーちゃんの方がお姉さんなのです」


「むむ、中々に面倒なお方っぽい。寝起きの私にはちょっとハード……」


「何か言ったのです?」


「わー、うーねーさんだーいすきー」


「きゃー、うーちゃんの妹可愛すぎるのです!」


 途中、会話が面倒になった星導神は返答が雑になっていくのだが、それでもうーちゃんにとっては満足なものらしい。


 だきっ、と抱き着いてほっぺすりすりを繰り出すうーちゃんは、周りの様子など気にもしていない。目の前の星導神にひたすらに夢中になっているのだった。


 ティティをはじめ、友と呼べる存在はいくらかはいた。しかし、母父妹兄姉弟といった存在はいなかったのだ。


 確かにそれが辛かった時期もあったが、ティティと出会ってからはそれを受け入れそして乗り越えていた。


 だが、自分を姉さんと呼ぶ存在がいたのだとしたら。言葉だけの関係ではなく、心から魂から繋がっている存在がいたのだとしたら。


 嬉しくないわけがないのだ。


 突然そんなことを言われても……と、困惑する思い以上に、本当にそうなのだと髪の先まで歓喜に震えていた。それは理屈どうこうじゃなかった。


「うーねーさん」


「んー? どうしたのです?」


「彼女らは……やれるの?」


 本当に世界を救うほど力を持っているのか。


 今更どうしようもない心配であったが、聞かずにはいられない。この程度は準備運動くらいに済ましてくれないと……と、不安を感じてしまうのだ。


 これから戦っていくのは、概念とでも言えるもの。触れることも感じることもできないような、敵とするには大きく、そして曖昧なもの。


「やれなければ、それで終わるだけなのですよ」


「そんなテキトーな」


「えっへへ。でも、掴み取るのはうーちゃん達じゃないのですから」


「……まぁ、私は未来を掴んでるようなものだけど」


「むむ、うーちゃんだけ何もしてないみたいなのです?」


 若干秒悩んだ末に導き出されたのは、自分も共に戦う――まではいかなくとも、サポートぐらいはしてみようかな。という思い。


 しかたないのです。そう言いながら、久方ぶりの魔法を発動させるうーちゃん。


 手のひらで小さな器を作るように。太陽を模したかのような、真っ白な。ふわ揺れるそれに、綺羅流れる粒子が引き寄せられ螺旋を描き纏わりついていく。


 やがて零れ落ちる無数の粒がうーちゃんの手のひらへと溜まっていき、指の隙間から、手のひらの端から、許容を超えた粒子たちが滝のように重力に従って落ちる。


「きりきりバリバリ働くのです」


 それは神からの祝福。辛く苦しいであろう者達に贈る、ほんの僅かばかりの救い。今まさに戦う者へのプレゼント。


 力が湧くなんてものじゃない。疲れが消えるなんてものじゃない。言葉では言い表せられない感覚に襲われる。


 大地を裂き山を貫き大気を震わせ迸る稲光。


 もしも個人の力量を数値化する技術があったのなら、驚くべき変化に装置の故障を疑っていたことだろう。


 誰一人として粒子のエネルギーに飲まれることなく、存分に最高以上の実力を魅せつける。


「特別なのですよ」


「うーねーさん、それはやりすぎ」


 秘技、切り札と呼べるような力を見せびらかすようにするうーちゃん。別に誰が見ているわけでもないのだ。過剰演出であることは間違いない。


 見た目もさることながら、その性能も驚きを通り越して呆れてしまうほどのもの。流石の星導神も、小さくため息をついてしまうのであった。


 戦闘が終わるのはもう少し時間がかかるだろうが、その結果は見えている。これで勝利を刻めないようならば、本当に諦めるほかなくなってしまうと言ってもいいくらいに。


 全ての影が消し去られるまで、呑気に会話を続ける二人であった。


私もうーちゃんにほっぺすりすりされたい。

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